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0906「東京のソアリン」

もうニューヨークに帰ってきてしまって十数時間経過したので、すっかりニューヨーク民に戻ってしまった感があり、にわかに信じがたいが、先週末はディズニーランドとディズニーシーに行っていた。数日前の日記で、日米のエレクトリカルパレードの差について説明したが、それだけではなく、総じて、日本のディズニーランドというのはゲストに対するホスピタリティもすごく高いし、細かい所のクオリティは高い。

ノリとしては、アメリカで0→1でアイデアを生み出して、日本で1→10で体験を磨いているような感じがする。ビッグサンダーマウンテンも、タワーオブテラーも、エレクトリカルパレードも、日本で発明されたものではないのだ。ユニバーサル・スタジオなんかでも、ハリー・ポッター・パークを日本に持ってきた人たちはすごいよね、みたいなことは良く言われるが、やはり何と言ってもすごいのは、アメリカで最初にあの精巧なハリー・ポッター・パークを発明して実現した人たちだ。

テーマパークというのは、私たちデジタル系体験のつくり手にとって、参考事例の宝庫だ。子供が3人いるのもあり、自分としても参考になるのがあり、日米のそういうところにちょこちょこ出かける。ので、いろんな視点で比較してしまうところがある。

先週末にディズニー関係に行って、1つ、衝撃を受けたというか、ものすごく勉強になった出来事があった。

それは何かというと、ディズニーシーの新アトラクションである「ソアリン・ファンタスティックフライト」を体験したときのことだ。飛行機状の装置に椅子がついていて、それに乗ると、球状のスクリーンに展開する空を飛ぶ美麗なドローン映像みたいなものの中に入り込んでいって、映像の動きと連動しながら乗り物が動く、というもので、たぶんこの説明だとよくわからないと思うが、とても気持ち良い、文字通り(soarin=>浮き上がること)浮遊感のあるアトラクションだ。

このアトラクションは、7月に日本に上陸したばかりのものだったので、めちゃくちゃ混んでいて160分待ちだった。実は私と長男はフロリダのディズニー・ワールド(EPCOT)の「ソアリン」には乗ったことがあって、体験済みだった。それでも、160分並んでもまあ良いかな程度に好きなアトラクションではあったので、炎天下でひどい感じではあったが、東京でも並んで乗ってみることにしたのだ。

結果から言うと、上映される映像もエフェクトも、匂いや風などの4Dっぽい演出もほとんどフロリダと東京で変わらなかったと言って良い。乗り物に乗る直前のプレショーなどのストーリーがフロリダより凝っていたし、設定が違っていたりしたが、基本的には同じだ。

しかし、コンテンツが同じであっても、体験がまるで違った。私はこんな「ソアリン」を体験したことが無かったし、今まで乗った「ソアリン」で、間違いなく一番感動した。恥ずかしながら、やや、泣けた。

それはなぜか。何が違ったのか。

周りのお客さんが違ったのだ。

フロリダでは、「ソアリン」は人気アトラクションだが、結構な老舗アトラクションで、例えば、ホーンテッドマンション程度に有名なアトラクションだ。ゆえに、みんな内容を知っているし、初めてでない人も多いはずだ。

対して東京では、オープンから一カ月しか経っていない、多くの人にとって未知のアトラクションであり、周りの人々のほとんどが、初めて「ソアリン」を体験する人たちだ。みんなの「初ソアリン」に同乗しているということになる。

そうなるとどうなるか。「初ソアリン」の人たちは、プレショーから乗り物の一挙一動に至るまで、大歓声を上げて感動するのだ。

飛行ルームに入って乗り物を目にした瞬間、飛行マシンが「離陸」する瞬間、球状のスクリーンに飛び込んでいく瞬間、場面が変わる瞬間、いちいち、「キャー」だの「すごーい」だの、純粋な感動をみんなが表現している。私と息子は、すでに体験したことがあるものだが、なんだか一緒に爽やかな感動を得てしまう。

そもそも感動的な体験である「ソアリン」が、一度しかない処女航海に変わって、今までに体験したことがないものになってしまった。

この感覚を思い出すのは、自分の場合、カジノだ。例えば私はスロットマシンというものに全く興味がない。パチンコなんかと同じで、機械をいじっているだけだし、あんなのはリスクの高いATMみたいなものだ。

ディーラーがいるテーブルゲームの方がよほど面白いと思うが、それはそれで、一人でやっていても全然面白くない。あれは、みんなでワーとかキャーとか言いながら一喜一憂し、うまくいけば客同士でハイタッチをして喜び合う。それがあるから凄い楽しい。他の見知らぬ人と激しい感情の波長が共振することで、さらに楽しくなる。

東京の「ソアリン」も同じで、今なら、いろんな人の「初ソアリン」の感動の中で五倍増しくらいで楽しむことができる。

私のような、人としゃべるのがまあわりと怖くてセロトニンのサプリ飲んでどうにかやってる人でも、そこはそこで違う刺激なのか、しっかり共振して楽しくなってしまう。

世の中にはこういう力が働くことがあって、それは強く人を揺さぶる。カジノは人と一緒にテーブルゲームをやるべきだし、スターウォーズの新作は初日に映画館で観るべきだし、東京の「ソアリン」は、今すぐに体験すべきなのだ。

いやまあしかし、ある種ネタを知っていた「ソアリン」ではあったが、つくり手としてめっちゃ悔しかった。あんな感じで人を沸かせるようなものをつくりてえ。悔しい。悔しくて嫌になるわ。

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