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0503「ベッドバグの神様」

【おことわり】予告しますが、今日の話は結構かゆい話です。かゆいの嫌いな人は読まないでください。誕生日のメッセージありがとうございます。

昨日は日記に書いたようにロサンゼルスの海岸を滑りまわったりとかした後、引き続きプロジェクトの打ち合わせ。そして、また2週間後に来なきゃいけなくなった。

夜9時の便に乗って5時間でニューヨークに帰る。到着はニューヨーク時間の午前5時なので、いわゆるオーバーナイト・フライトだ。寝れば良いものを、出張に出る直前に長男が突然、「なんか出張ばかりでかわいそうだから持ってきなよ」と言って貸してくれたニンテンドーSwitchで、ずっと「ウイニングポスト9」をやっていた。競走馬育成ゲームだ。オリジナル馬名をつけるときに、飛行機の席のところに出る地図の地名を適当に入れれば良いから楽だ。

それであんまり寝ないで家に着いてしまい、そのまま次男を学校に送り、仮眠を取って事務所に行ったら誕生日を祝ってもらえた。ブルックリンの工場に打ち合わせに行ったら、Facebookで見ていてくれたっぽく、ここでも誕生日でウイスキーをご馳走になった。みなさん、ありがとうございます。

数日前に日記に書いたように、最近自分という人間について妙に理解を深める出来事があって、誕生日なのでそのことについて書こうと思ったのだが、恐らく決して明るい話ではないので、あんまり誕生日みたいに、皆さんが構ってくれるような日にわざわざそれを書くのもなーと思い直して、結局何を書くのかというと、昨年末からたまにこの日記でも「家の事情が大変だ」みたいなことを書き続けていたのだが、それについて書いてみようと思う。
この一連の出来事を経た結果、私は筋トレを始めることになったのだが、その経緯みたいなものを書く。

事件が起こったのは、私が上海に出張中のことだが、正確にはその出張に出る数日前に、兆候はあった。どういうことかというと、妻が何か虫に刺されてかゆい、というのだ。出張前にそんな話があったのだが、私は虫刺されや吹き出物にひどく無頓着なところがあるので、「まあ別に、蚊だろう」くらいに思っていた。

こういう場合に日記をつけておくと便利なのだが、事件が発覚したのはこの日だ。

この日の日記の最後に「夜にはニューヨークからとんでもない連絡が入ったりして」と書いてあるが、それが本件だ。上海についてすぐに妻から連絡を受けたのだったか。
何が起こったのかというと、妻からこういう写真が送られてきた。モザイクをかけざるを得ない。

何なのかというと、これは「南京虫」だ。英語だと「Bed Bug」つまりベッドの虫、と呼ばれている。
つまりこの写真は、妻から「家にベッドバグが出たよ」ということを示している。妻が数日前からかゆがっていたのはそういうことだったのだ。で、アメリカにおいて、「家にベッドバグが出た」ということの意味がどれほどのものかを説明していきたい。

最近のニュースでいうと、「ニューヨークの五番街のアップルストアでベッドバグが出て閉鎖」というのがあった。

ベッドバグは、発生するとお店が封鎖される程度の騒ぎにはなる。

あとはこの記事がわかりやすい。

ここに書いてある通り、ベッドバグとは悪夢の害虫である。駆除が大変で、発生したらとりあえず専門業者がやってきて殺虫処理をするが、それに伴い、ありとあらゆる家の中の布製品を高温洗浄するか焼却しなくてはならない。他の部屋に広がり始めることもあって、建物全体に広がったら建物全体で避難とかもありうる、「災害」だ。

「ニューヨークの洗礼」とも言われているこの災害、ついに我が家にもやってきてしまった。しかも私が外国に出かけているときに。

さあ大変だ。「8時だョ!全員集合」の片付け音楽(「地球滅亡」のやつ)が頭の中に流れ始める。あの曲は「盆回り」という曲らしい。

上海のホテルで「盆回り」のサウンドがぐるぐる回りながら、ニューヨークの建物の管理会社や台湾に住んでいる大家に連絡する。完全に大事なので、管理会社側はすぐに殺虫業者を手配してくれる。ニューヨークの法律ではベッドバグの殺虫費用は大家が持つことになっているので、大家にその旨報告する。家族は、殺虫業者が来るまでベッドバグが出たのとは別の部屋で避難。殺虫業者が来るまでに家具などを分解して部屋の真ん中に置かなければいけないので、妻がその作業を進める。

次の日、予定通りに上海からニューヨークに帰ってすぐに家に向かい、そのまま殺虫業者を迎え、年末に予定していた旅行の時期までAirBnBで近所のアパートを借りる。殺虫成分は2週間は残る。最初の段階では完全に殲滅できる可能性も少ない(実際に、一定期間内に再発したらまた無料で殺虫しに来てくれるオプションがあった)ので、子供をそういう場に晒したくはないし、その上で学校に行かせないといけない。近所のAirBnBしか手がなかった。

そこから年末をまたいで2週間にわたる避難生活。そして2週間後に再度ダメ押しの殺虫処理。これで終わったかと思い、平和な暮らしを贈ろうとしていたのだが、実はこの裏でひどい問題が発生していた。台湾に住んでいる大家に、駆除費用(日本円で45万とかそのくらい泣)を請求しようとしたら、大家が音信不通になってしまったのだ。最初、「ベッドバグ出たよ!」という報告には反応したにも関わらず、それ以降、お金の話になったところで連絡がつかなくなった。

困ったので費用を払わず、管理会社の方から大家に回してもらうようにしつつ、「反応もらえなかったら家賃払うの止めますよ」みたいな警告をして反応を待ってみることに。

ところが大家の反応が無いまま、その1週間後、妻がベッドバグに刺された。反応を待っている場合ではないのでまた関係各所に連絡。ところがこんどは駆除業者が真面目に見てくれない。ちゃんとした検査器具で検査しないで「いや、いないっぽいね」みたいなことを言っている。そんなことはなく、妻は明らかに刺されているのだ。要するに、この駆除業者は、上述の「虫が再発したらタダで再駆除」というのをやりたくなくて、適当に検査しているっぽいのだ。

それへのクレームも含めて、管理会社に連絡。そして大家からは連絡なし。

1週間ベッドを捨てたりとか、できることをやりながら、ベッドバグの恐怖の中で暮らしていたら、今度は部屋の隅から新たなベッドバグの死骸が。さすがに駆除業者も折れて次の日に駆除作業が入った。しかし今度は保証期間が過ぎているので追加料金がかかる。

家族全員この時点でうんざり状態。妻も私も死んだ魚の眼で生きていた。で、お金の件で大家に連絡しても無反応。

このくらいから、ある問題が気になり始める。このベッドバグが出た家、賃貸契約が3月15日に切れるのだ。アメリカのこういう賃貸契約は、契約が切れる数ヶ月前に大家とコミュニケーションして延長の話をするのが基本だ。ところがもう問題発生から1ヶ月以上過ぎて2月に入ってしまっているのに大家とは連絡がつかない。

「これは、このまま大家と連絡がつかず、家を出なくてはならないのではないか。あとそもそもこの信頼できない大家とこの後も一緒にやっていくのは無理なのではないか」と考え始めた。

このくらいから、会社関係で紹介してもらったウォール街の弁護士さんの事務所に毎週のように通うようになる。そもそも私たちは家を出なくてはならないのか。家賃は払うべきなのか。駆除費用は大家に負担させることができるのか。そういったことを毎週のように相談して、法的措置の準備を始める。うちはこの前の引っ越しのときにも契約書の問題で揉めて、弁護士のお世話になっていて、そのとき弁護士に「今度何かあったら早めに弁護士のところに行ってね」と言われていたのだ。

と同時に、大家と連絡を取りたくて、家賃の支払いを止めていた。2ヶ月分滞納したところでやっと、逆ギレメールが届いた。

「すぐに家賃払え」
「ベッドバグの駆除費用はお前たちが払え」

 みたいな凄惨な罵倒メールが届いたのだ。家の更新に関しても、下記のように書いていた。

「駆除費用を全額払ったらいさせてやってもいい。どうせお前ら子供3人いて、今よりお手頃な部屋なんか入れないだろう。そもそも子供がたくさんいて散らかしてるから虫なんか出るんじゃないの?」

もう滅茶苦茶だ。そもそも下の部屋から毎週音がうるさいという苦情が来るので防音マットを敷いているし、普通のアメリカの家よりよほど綺麗なはずだ。もう頭に来た。

で、この段階で弁護士と話して出した結論が、「黙って次の家を見つけて引っ越す」というものだった。ベッドバグはさすがにいなくなったっぽいが、もうこの家にはいられない。

大家が書いていたとおり、子供3人が大きくなってきているので、少し大きい部屋に引っ越す必要がある。そこから先、妻手動で必死にStreeetEasyとかで物件を探した。

https://streeteasy.com/

最終的にギリギリのギリギリで物件との契約と引っ越し許可が出て、今の家に入ることができた。引っ越し直前のグダグダは、下記の記事にも少し書いた。あの日の展開もひどかった。

この体験の中で総じて思ったのは、まだまだ自分は弱いということだ。この嵐のような、いじめのような展開の中でどんどん追い詰められて辛くなってしまう。このひどい状況の中で、妻とも何度も喧嘩した。前向きになろうと思ってもなれない局面があった。このバタバタの中で後厄が終わったが、自分としては、厄年シリーズ最後の試練を通して、課題を突きつけられているような気がした。自分は暗い。そして弱い。もっと打たれ強く、疲れを知らない人になりたい。

この状況と相まって、BASSDRUMとは別にニューヨークの会社も結構バタバタしていた。川村さんも日本に帰ってしまったので、これからは別の展開をつくらないといけない。新しい事業をやるためには、強靭な心身が必要だ。

「明るく、前向きな人間になりたい」

「自分に自信が欲しい」

肉体改造、そしてそれに伴う人格改造。そこに着手しなければ次に行けない。ベッドバグの神様が最後に出した課題は、そういうことなのではないか。
そう思ったとき、新しい家の階下に、でっかいトレーニングジムが備え付けであって、しかも住民は無料で使えることが判明した。

「ベッドバグの神は、私を筋トレに導いているのか」

そこから先は、歩くたびにどんどん筋トレの扉が開いていくかのようだった。

アメリカの新事業を一緒にやっているメンバーが、アメリカでオリンピック強化選手のトレーナーをやっていた人でやたら筋トレに詳しかったり、その人に良いプロテインを教えてもらったり。

1日か2日おきに身体全体の筋肉を鍛える。

出張先のロサンゼルスでも、東京でも大阪でも、台湾でもトレーニングができる場所を見つけて鍛え、密輸した粉プロテインを飲んだ。

昨日は筋トレのメッカ、Veniceのマッスルビーチにも行った。GOLD’S GYM本店にも行った。しかし筋肉痛がひどかったので、プロテインだけ買って飲んだ。

全く痩せていないが、ちょっとずつ身体が締まってきていて、とりあえず明らかなのは、疲れにくくなってきたということだ。あと、決して性格は明るくなってはいないと思う。まだ暗い。時間がかかる。

誕生日を迎え、43歳になった。例年のようにメッセージを頂いた方々におかれましては、ありがとうございました。

幸い、BASSDRUMの仕事も、それに付随する新しい事業も楽しい。そして今年はいろいろな状況が変わっていく年になろうとしている。状況が変わっていくのではない。私自身が変えなくてはならないのだ。筋肉がついて前向きで明るくなった、「明るい43歳の清水」がこれからの時代を変えるんじゃないかと思う。

前向きで明るい、自信に満ちたこれからの私をよろしくおねがいします。

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