0709「富士見荘」

日本に来ている。今やっているこれはいわゆる、子供を連れて帰省する、というやつで、毎年子供の学校が夏休みになると、家族で日本に来るようになっている。ので、うちの両親や姑にとっては、約一年ぶりに成長した孫たちに体面することになる。

これは、何度やっても、なんとも楽しみな瞬間だ。子供の時分は当然成長が早いから、一年もするとかなりしゃべることも雰囲気も変わるし、テレビ電話ではわからない、生孫の良さというのはあるだろう。

ので、これはとても親孝行的な観点から言っても効果的なイベントだ。

一方で問題はあって、何が問題かというと、子供たちがうちの実家に行くと、酒池肉林状態になるのだ。

両親である我々と違って、祖父母は、「アイスが食いたい」と言えばすぐにいくらでも与えてくれるし、長男などは、去年はずっとiPadでYouTubeの教育に悪そうな都市伝説チャネルばかりを観て、アイスとお菓子を食いまくっていた。結果、奴は夏休みが終わってニューヨークに戻る頃には、パツパツに太っていた。

私なんて、小6の夏休みなんて中学受験でバチバチな辛い状態にあったので、「こいつはこれで良いんだろうか」とか思うが、まあ中学受験は害だと思うので、それは良いとして、とにかくそういうことになる。ここ数年の長男は、夏に実家でガーっと太り、一年かけてニューヨークで痩せる、というの繰り返している。おまけに、夏の間に、妙な都市伝説の知識を増やしてくる。

私も、小さい頃は父の実家で夏休みを過ごした。父の実家は、伊豆の韮山というところにある「富士見荘」という温泉旅館だった。祖父母が亡くなってもう畳んでいるが、でっかい温泉のある風情のある宿だった。

小学四年生のときには、高熱を出して、旅館の一室で寝込んでいた。寝込んでいたら、日航機が御巣鷹山に墜落した。生存者の川上さんが、ヘリコプターで釣り上げられるのを、熱を出しながら見ていた。あのときに見た、青い背景に映し出される搭乗者リストの映像が忘れられない。

旅館の裏山は、源頼朝が旗揚げしたという守山という山で、旅館と地続きだった。カブトムシがやたらと獲れた。今思えば100%アスペルガーそのものだった祖父は、旅館の敷地から十数年近く一歩も外に出なかったので、レアキャラだった。夏の終わりには山にタケノコが生えるので、祖父がタケノコを獲りまくっていた。旅館のお客さん用のコーラを勝手に飲むと、すごく怒られた。

富士見荘はもう存在せず、どうなっているかというと、裏山が由緒ある山だっただけあって、跡地から遺跡が発見された。いまは、なんか「北条氏邸・円成寺跡」という発掘現場になっている。すぐ近くに堀越御所跡があったし、北条政子の産湯、みたいなものがそばにあったので、あんまり驚かなかった。富士見荘があったところは、北条氏のもともとの本拠地だったらしく、源頼朝は嫁の実家の本拠地の隣の山で旗揚げしたということなのだ。

鎌倉時代の食器とかそういうのがわんさか出土するらしい。子供の頃、掘っとけば良かったなと思う。


東京という場所は、ニューヨークで暮らす子供たちにとっては、韮山であり、富士見荘だ。あまりアイスやお菓子を与えないで欲しいが、お互い楽しんでもらえればと思う。

私は働く。