1109「チワス」
台湾でのミッションが終わり、Whatever Taiwanのむろいちさんと酒を飲み、一通り悪態をついたところで、そこそこ酔っ払いつつ睡眠不足なのか時差ボケなのか、ひどい眠気が襲ってきて、宿泊先のAirbnb部屋を間違えて、迷惑なことに午前2時に人の部屋でピンポンダッシュしてしまったり、まともに機能できなくなってしまった。本当に申し訳ない。朝6:30の飛行機に乗らなくてはいけないので、どのみち4時前には出ないといけない。このまま宿泊先で寝ると寝過ごす自信があったので、その場の判断で早めに空港に向かった。タクシーで30分寝て起きたら、酔いは覚めていた。こういうとき、酒の分解能力が高いのは便利だ。
セキュリティゲートが開いていなかったので、出発ロビーの床で寝ていたら、空港の人に注意されたというか、たぶんやや同情されて、閉まっているモスバーガーのソファで寝かせてもらった。
昨日はBASSDRUMの関係者を連れて行きつつ、台湾のクリエイティブウィークでしゃべってもらうという会だった。私は眠気にやられていたので結構ゆるかったが、他の人たちが素晴らしいプレゼンをされたのでとても良かった。
結構台湾が初めての人たちもいたのだが、みんな今日帰ってしまうという。私もいろいろあるのですぐに日本に移動したいのでもう出発するが、折角だし、台湾は本当に素晴らしいところなので長めに滞在すると良いのに、とも思ったが、皆さん忙しい人たちなので、そういうものなのたろう。
以前、いつだったかもはや忘れたが、やはり仕事で台湾に来ていたときに、少し時間が空いて、一人で酒を飲みに行った。近所に泊まっていたからだったか、普段あんまり行かない日本人向けのいかがわしいお店がある林森北路のバーに入った。ハイボールを飲みたかったが、あんまりハイボールという概念か伝わらなくて、注文に苦労した。
そこのバーの店主の、ママ、とでもいうのかそういう方がたどたどしい日本語で話しかけてきて、自分の話をしてくれた。自分は台湾の原住民族の生まれで、タイヤル族の人なのだという。笑いながら、「昔は首狩り族だった」などということを教えてくれる。これはわりと事実で、台湾の原住民は、結構最近、といっても明治くらいまで敵の民族の人たちの首狩りの習慣があった。
出身は台湾の北東の宜蘭のへんなのだという。台湾をうろちょろしているとたまに原住民系の、いわゆる中国系の人とは違う人と出会う。中国系の人たちにも、早めに台湾に移住してきた福建とか客家の人とか、蒋介石と一緒に渡ってきた、最近まで中国本土の人たちだった人まで、いろいろな方がいるが、原住民の人たちは、そもそも血筋的に中国とは離れて、むしろ近所の、沖縄とか八重山の人たちに近い系統なのだと思う。タレントのビビアン・スーさんなんかは、原住民系だったはずだ。結構原住民系のタレントさんは多いはず。
台湾の方々は、基本的に私たち日本人にとても親切だが、中でもこういう原住民の方々は多くの場合、日本人にとても親切だ。一度、台北でタクシーに乗ったとき、私が日本人だからといって、突然料金を無料にしてくれたことがある。運転手さんは高砂族出身で、中国人は高砂族を迫害してきたが、日本人は占領時代も原住民に良くしてくれたから、なのだという。実際は、日本統治下の台湾でも、霧社事件とか、陰惨な台湾原住民との衝突は起こったし、一概に日本の統治が良かったわけでもないはずだが、とにかく、そういう意味で、日本の統治時代を肯定している原住民はわりと多い（下記記事、怖い写真あり）。
このお店のママもとても親切で、タイヤル族の話にからめて、宜蘭クレオールのことについて教えてくれた。宜蘭クレオールというのは、日本の統治時代に台湾の山奥に生まれた、原住民の言葉と日本語が混じった混成言語で、もはやこれを母語とするような人が存在するようなものらしい。そういうのをクレオール言語という。YouTubeに宜蘭クレオールのサンプルがある。ママご本人は別に宜蘭クレオールの話者ではないらしかった。
上の動画の人は、いつも世界中の変わった言葉のサンプルをつくっていて、とても素晴らしいと思う。八丈島の言葉とか、しびれる。
そんな話をしているうちに、ママは自分の名前を教えてくれた。「チワス」という名前なのだという。「ちわーす」みたいだな、と思ったが、そこそこ酩酊しているうちにinstagramのアカウントを教えてくれて、よく見てみたら「ジワス」だった。これが、ジワスさんのinstagramだ。お元気で暮らしているようだ。息子も大きくなっている。
こういうのはソーシャルメディアの良いところで、旅先でふっと出会った、通常なら二度と会わないような人の消息をずっと追えてしまう。かといって同じ店に行ってわざわざ会おうとも思わないし、むしろ野暮な気もする。今回もジワスと会わずに台湾を出た。