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1122「すべてはポルノ」

昨日は、仲良くなったフィンランドのとても大きな会社のパーティーにお呼ばれして、ずっとウォッカを飲んでいた。私のようなアジア人どころか、黄色人種が全くいない空間だった。そのパーティーだけではなく基本的に東洋人はすごく少ない街であり、国だなと思うが、同じく「自国人種=日本人がやたら多い国」である日本に比べて、私のような外国人に対してすごく慣れているように思える。正直、普段ニューヨーク で暮らしているときよりも英語をしゃべっている量が多いような気もする。よくしゃべる。台湾の人たちなども同じことを言うが、フィンランドは国内マーケットが非常に小さいので(人口が500万人しかいない)、元来外国相手に商売しないと生きていけないのだという。

パーティー苦手だが、人と繋がりに行くのが仕事なので、がんばっていろいろ説明する。しかし途中で疲れてオフィスのルーフトップに出て一人で酒を飲む。この会社は、ヘルシンキ大聖堂の横にあるので、ルーフトップからヘルシンキ大聖堂を見ることができる。

ヘルシンキは実は、20年前くらいに初めてヨーロッパでバックパッカーをやったときの最初の街で、ヘルシンキからユーレイルパスを使って、ヨーロッパ中を巡った。二週間くらいか。アエロフロートで行ったので、正確にはトランジットのモスクワで一度飛行機を降りていたので、そこでヨーロッパ感は体験するにはしたが、モスクワでは一晩トランジットホテルに幽閉されたので、ちゃんとヨーロッパの街で外に出たのはヘルシンキが初めてだった。そのときはヘルシンキに夕方に着いた。初めて緑の屋根のヘルシンキ大聖堂を見たときは、「これがヨーロッパというものか」などと感動したものだ。何しろ、海外などに出かけることのないドメスティックな少年時代だったので、ヨーロッパの教会なんて、本とかテレビの中の存在だった。ヘルシンキに来たのはそれ以来なので、なんだか、若い頃に一度読んだ本を読み返しているような気分になる。

当時は、トラムに乗るのも怖くて、敢えて歩いて移動していたほどだし、貴重品を貴重品袋みたいのに入れて厳重に肌身離さず身につけていたものだが、もはや私は旅ズレしたおじさんなので、トラムには乗れるし、カフェで荷物置いて、隣の人に「荷物見といて」と言ってトイレに行ったりもできる。やることが大雑把になったものだなと思う。

そんなわけでベランダで大聖堂を見ながらウォッカを飲んでいたら、パーティーの飲み物を配ったりしていた兄ちゃんがタバコを吸いに来て、話しかけてきた。彼は「お前は技術者か?」と聞いてきて、「まあそうだ」と答えると、何を思ったのか、Wi-Fi Pinappleという、偽のアクセスポイントを通してそこを通過するデータを全て手に入れる方法について語り始めた。それを使うと、そのアクセスポイントを通して利用された人のIDやパスワードを入手できるらしい。「SSL使われたら無理じゃん」と言ったが、SSLStripというものを使えばいけるのだという。

なぜ、人が20年ぶりにヘルシンキ大聖堂と静かに対峙しているのに、私は彼のとっておきのハッキングテクニックを教えてもらわなければいけないのか、と思ったが、それはそれでわりと勉強になった。

詳細は、いま連載系の記事のために書いているSlushの記事で書くのだが、そのパーティーでがんばってソーシャライズした後は、酒をある程度飛ばした後、ヘルシンキの街外れにある24時間営業、というか誰かが必ず勝手に入っている最高にやばいサウナ小屋に行った(前日も行った)。2日目にして、超冷たいバルト海に飛び込むのも慣れた。

20年前の旅では、オーロラを見るためにフィンランド北部の北極圏まで北上して、間違えて何もないところでバスを降り、吹雪の中死にかけたり、オーロラが見れなかったり、一日中暗かったり、寒かったりして、暖かいところに行きたくなって、スウェーデン経由でコペンハーゲンからドイツに入ってミュンヘンまで行き、ホーフブロイハウスでビールを飲み、そこからオーストリアアルプスを越えて、ベネチアまで行って暖まって、そこからミラノ、スイスを経由してパリに行ってロンドンに行ってロンドンから東京に戻ったんだったと思う。バックパッカーだったので、全て直感的に、財布の中身と相談して行き当たりばったりで行動していたが、あの旅くらいから、アドリブで行動を決める楽しみを知った気もすると同時に、新しい刺激を追い求めるポルノ的な旅をしていた気がする。

ある種、バックパッカーはポルノだ。そしてそこで培われるポルノ的な根性と、ポルノへの絶望というのが、「可愛い子には旅をさせよ」みたいな格言の趣旨のような気もする。そう考えると仕事も人生もソーシャルメディアも全体的にポルノだな、などと考えながら全裸で真夜中のバルト海に飛び込む。とてもポルノ的で狂った行動だなと思いつつ、それならばポルノと心中するのも悪くないなあとも思う。

今日の日記を含めてあと四通で日記という形式で文章を書くのは終わりなので、配分を考えなくてはいけない。三日分は既に書くことがあるような気がする。照ノ富士とか。