COVID19のなか日本に住む外国人

 すでにニュースでも取り上げられているが,日本に住む外国人の多くが,COVID19の感染拡大に伴って職を失い,職とともに住まいも失ったり,海外との往来が止められたため母国に帰国することもできないでいる人が増えている。名古屋の徳林寺というお寺は,生活困窮に陥ったベトナム人たちを受け入れ,寄付によって支援を続けているという。また国士舘大学の鈴木江理子先生が代表を務める東京のNPOでは,募金を募りながら独自の給付を続けつつ,政府の準備した様々な支援金の申請手続も支援しているという。どうして支援を受けられない外国人がいるのか。

 昨日(6/25)のNHKラジオに出演した鈴木先生は,次のようにその状況を説明している。第一に,国の外国人労働者受け入れ拡大で日本で働くようになった外国人は,技能研修や特定技能など在留資格で区別されている。かれらの多くは下請け製造業で派遣・請負など非正規雇用で働いていたが,感染防止策によって親会社の経営が悪化すると真っ先に解雇される立場にあるという。また観光業などサービス業でも経営自粛に入ると,日本人のパートやアルバイトより先に解雇されたり職を失ってしまった。つまり,安上がり労働力として景気の調整弁とされてしまったのである。

 第二に,製造業の下請けなどでは仕事と住まいがセットになっており,母国から家族も呼んで暮らしている人達が職を失うと同時に住まいも失ってしまったということだ。リーマンショックの時の派遣切りと同じことが起こっており,同時に学校に通う子どもがいる世帯さえ,友人を頼りながら夜露をしのぐ状況に追いやられているのである。冒頭紹介した徳林寺の支援は,このような状況への対応でもある。また,外国人のうち労働組合や行政の支援を受けられる人と,条件上受けられなくなっている人がいると鈴木先生は示し,後者への支援がなかなか行き届かないという。私が考えるのは,在留資格の複雑化とともに移民労働者としての一貫した政策をとってこなかった国の外国人政策に原因があると考えている。先日,元技能実習生のベトナム人青年が強盗で逮捕されたという事件が起きたが,これも仕事がなくなり帰国することも出来なくなった末の犯行である。在留資格の緩和特例などは行われていても,当事者に伝わっていないのだという。

 第三に,これは行政による多言語での情報発信の問題があると鈴木先生が指摘する点がある。外国人向けの情報発信はおもに行政の利用するメディアを用いる。しかし外国人が多く利用するSNSなどのメディアまで行き届いている訳でなく,鈴木先生曰く「発信することで自己満足している」自治体もあるそうで,福祉サービスではしばしばみられてきたことだ。外国人の命綱はこれらSNS等であるが,わずかな収入で通信料を維持するために,食事回数を減らしたり夜も照明を使わないとか入浴を控えるなどの努力をしている。私の関わる留学生もこのような状況にある学生もおり,オンライン授業に参加が難しくなっている。

 近年,観光立国を経済政策の柱にしてきた国や自治体は,外国人の受け入れ条件を緩和し目に見える部分の充実を続ける一方,労働力不足の著しい産業で不安定な雇用形態のまま,むしろ労働者としての権利を認めず,外国人を受け入れ続けてきた。また民間での支援もおいつかず,たとえばEPAの介護分野に従事する人たちのサポートも雇った施設などの努力に任せ,大阪以外の職能団体は何の対応もしていない。かれらは日本で働く移民労働者なのだという基本認識すら築けず,在留条件が満たせなくなればとたんに「不法残留者」という犯罪者にされてしまう。

 私たちは,まず目の前で苦しむ日本に住む外国人を支えることの大切さを見失わないでいたい。日本の総人口の約5%が外国人で,かれらの働きがなければ成り立たない社会だという認識をもちたい。その認識にたつとき,これまで述べたかれらの窮状が,決して「三密」や衛生条件の整っていないことが想像に難くないこともご理解頂けると思う。外国人労働者で拡大した感染クラスターへの対策が行き届いていないシンガポールの経験は,対岸の火事でなく日本社会で広がっている問題そのものなのだ。けれど同時に協調しなければならないのは,COVID19の感染とかれらの存在を結びつけて外国人への差別が露わになっている問題を提起することだ。感染クラスターの起こった病院やライブハウスの関係者への差別とともに,Hate Crimeを日本で蔓延させる必要はない。私たちに出来るのはまず隣人としてかれらを受け入れる社会の整備と,共生する隣人の窮状を解決することだ。ILOのいう内外人平等待遇という原則に立ち戻って,COVID19のある社会でともに生きる隣人のことを思い,支え合いたい。

 

 

 

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