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レビュー②:山崎元「経済評論家の父から息子への手紙」

山崎元さんの著書「経済評論家の父から息子への手紙」を読み、その主要な内容や私自身の感想については前回の記事で詳しくお伝えしました。しかし、前回触れなかった中で特に取り上げたいポイントがありましたので、今回はその部分を番外編として深掘りしたいと思います。


株価のリターンは成長からではなく価格形成から生じる

どの箇所かというと、「株式のリターンは成長からではなく株価形成から生じる」という話です。

株式のリターンは成長からではなく株価形成から生じる

本書では株式投資で得られるリスクプレミアムを年率5%程度と想定している。株式投資のリターンは、短期金利(無リスク金利)にリスクプレミアムを足した値だ。 この高いリターンは、どこから得られるのか。 素人が考えがちなのは、株式投資の高いリターンは企業や経済の成長から得られるとするものだ。「世界経済の成長を借じて投資する」などと言いがちだ。

しかし、ちがうのだ。息子よ、君はもう少し深くものを考える人間になってほしい。

では、今後人口が減って低成長が見込まれる日本の株式はダメなのかというとそうではない。 実は、株式のリスクプレミアムは市場での株価形成の過程を通じて生じる。以下、この事情を納得してもらおう。株式投資は、対象が高成長でも低成長でも同様に有望でありうる。投資家が期待を託すべき相手は、「経済成長」ではなく、「市場の価格形成メカニズム」なのだ。

山崎元「経済評論家の父から息子への手紙」

この点については、SNSなどでも多くの人が誤解しているように感じます。多くの投資初心者や一般的な投資家は、株式投資で得られる高いリターンは企業や経済の成長によるものだと考えがちです。「世界経済の成長に乗って投資する」や「これから成長が期待できる新興国に投資しよう」といったフレーズをよく耳にします。

しかし、実際には株式のリターンは市場での株価形成の過程を通じて生まれます。つまり、投資家が得るリターンは、企業や経済の成長そのものではなく、市場での価格設定や投資家の期待によって決まるのです。

株式の価値は、将来得られる利益を現在の価値に換算して、その合計で計算できます。

具体例で考えてみる

例えば、将来得られる利益が毎年成長する場合、その利益を一定の割引率で現在の価値に割り引いていくと、将来の利益の合計の現在価値を求めることができ、「現在価値 = 現在の利益 / (割引率 - 成長率)」という式で、将来得られる利益を考慮に入れて、今の価値を計算できます。

本書の中でも出てきた具体例を取り上げながら考えてみましょう。ある会社が1億株を発行していて、今期の予想利益が100億円(つまり一株あたりの利益が100円)だとします。この会社の利益が毎年1%ずつ成長し続けると仮定し、割引率が6%であるとします。このとき、この会社の株価(現在価値)は次のように計算できます。

現在価値 = 現在の利益 / (割引率 - 成長率)  = 100 / (0.06 - 0.01) = 2000円

つまり、この会社の理論的な株価は2000円になります。このように、将来の利益を基に株価を計算することで、企業の成長が株価にどの程度影響するかがわかります。

次に、A社とB社という2つの会社について考えてみましょう。どちらの会社も今期の一株あたりの利益は100円です。しかし、A社の利益は毎年2%成長すると予想されているのに対し、B社の利益は毎年2%減少すると予想されているとします。それぞれの理論的な株価を計算すると次のようになります。

A社: 現在価値 = 100 / (0.06 - 0.02) = 2500円

B社: 現在価値 = 100 / (0.06 + 0.02) = 1250円

ここで注目すべき点は、A社のように成長している企業に投資する場合でも、B社のように利益が減少している企業に投資する場合でも、割引率が同じなら期待されるリターンも同じであるということです。つまり、高成長で株価が高い企業に投資するのと、低成長で株価が低い企業に投資するのでは、期待されるリターンは同じになります。

アメリカと日本で考えると

A社を成長しているアメリカ経済の企業、B社を低成長の日本経済の企業と考えてみましょう。日本株が低成長であっても、その成長率が株価に織り込まれていれば、アメリカ株に劣らない投資先となり得るのです。経済全体の成長率が異なっていても、企業の成長見込みが株価に反映されている場合、投資としての価値は変わらないのです。

過去のデータを見ると、経済成長と株価は連動しているように見えるかもしれませんが、それは「予想外の変化」が株価に影響を与え、その影響が積み重なったからです。この「予想外の変化」には、経済成長が急に加速したり、逆に減速したりすることが含まれます。特に、日本経済の過去30年間は、成長の期待が徐々に下がっていく厳しい状況が続いてきました。バブル崩壊後、日本の企業の成長見込みは何度も下方修正され、それが株価に反映され続けてきたのです。

さらに、日本では少子高齢化や労働力不足といった問題も経済成長に想定以上の大きな影響を与えています。これらの要因が重なって、日本の企業は成長が難しくなり、その結果として株価も低迷しました。しかし、経済の成長期待があらかじめ株価に織り込まれている場合、投資家にとっては依然として魅力的なリターンを得る可能性があります。つまり、たとえ低成長であっても、その分低い価格で株式が取引されていれば、投資先としての価値は十分にあるということです。

まとめ

このように、株価は単に企業の将来の利益を反映したものであり、成長率や割引率を使って現在価値を計算することで、投資の価値を判断する手助けになります。高成長であれば高い株価、低成長であれば低い株価となるため、それぞれの成長率に応じたリスクとリターンを見極めることが重要です。また、経済成長が予想以上に加速したり鈍化したりした場合、その変化が株価に与える影響も理解しておく必要があります。


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