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「ン」

コンバンハ。キョウハサイキンワタシガミテコワカッタユメノハナシヲシタイトオモイマス。ヨカッタラキイテイッテクダサイ。

突然ですが、カタカナってちょっと怖くないですか?丸いフォルムの多いひらがなと比べるとカクカクしてるし、無機質な感じがして不安になるんですよね。上の文みたいな全部カタカナで書かれている文章なんかを見ると、なんだか得体がしれない感じがして怖くなっちゃいます。

今日お話するのは、その「カタカナ」の夢のお話。


夢の中の私は、普通に生活していました。たまに見ません?朝起きて、仕事に行ったり学校に行ったりする、まるで現実のような平凡な夢。目が覚めた時に何だか損しちゃった気がする夢。もう今日は夢の中で仕事行ったんだけどなぁ、って。

顔を洗って、着替えて、散歩に行って、朝食を摂って、休憩しながらスマホを弄って、その辺りまでは普通の1日でした。

スマホでネットのニュース記事を眺めていると、ふと「エアコンの試運転はいつやればいい?試運転に適した温度とは」みたいな記事のタイトルが目に入ってきたんです。

「ぎゃああああああああああああ!」

それを見て私、怖くて悲鳴をあげちゃったんです。何が怖いんだろう?って思うでしょう?私は「ン」が怖かったんです。カタカナの「ン」という文字が、怖くて怖くて仕方がない。自分でも、何故「ン」が怖いのか分からないけどとにかく怖い。どうして怖いのか分からないのも怖い。スマホを放り投げて、私は家から走って出ていきました。

とにかく「ン」から逃げたくて出てきたけれど、外に出たら出たで、たくさんあるんですよね、「ン」って。セブンイレブン、ガソリンスタンド、ローソン、プリン、ボランティア、キャンペーン、カウンセリング……。どこに行っても、「ン」「ン」「ン」

「ン」から逃げている内に、気付いたら日が少し傾いていました。ハッとして左腕の時計を見ると、時間は午後4時過ぎ。5時からバイトだということを思い出しました。本当はバイトどころではないけれど、「ン」が怖くて行けないなんて言えないし、体調不良で休む場合も3時間前までに連絡しないといけないし、そもそもスマホを持っていない。仕方ないから急いでバイト先に向かうことにしました。

偶然にも、逃げているうちにバイト先の近くまで来ていたみたいで、思ったより時間に余裕を持ってバイト先に着きました。
「先生めっちゃ汗かいてない?」
バイト先の塾の生徒が心配そうに声をかけてくれました。
「あはは、今日暑いねぇ」
生徒と雑談しながら汗を拭いて、制服の白衣、ピンクだから正確にはピンク衣とでも言うんでしょうか、とにかく制服に着替えると、私の中の先生スイッチが入って、なんだかさっきまでのことが夢みたいに思えてきました。ま、実際夢なんですけど。なんで「ン」なんかが怖かったんだろう、変なの、なんて思いながら、教室の机の前に座って授業準備を始めました。

準備をしていると、後ろでカッ、カッとチョークの音が聞こえてきました。またか、と思いながら、私は振り向かずに彼に声をかけました。
「落書きするのはいいけど授業始まる前に消しといてくださーい」
「はーい!」
想像していた通りの声で返事が返ってくる。いつも黒板に変な落書きしてるんだよなぁ、この子。
しばらくするとチョークの音が止まりました。
「せんせー、かけたからみてみてー!」
これもまたいつものやり取りです。
「おー……ぐふっ!」
後ろを振り返って黒板を見ると、みんな大好き、顔が食べられる空飛ぶ正義のヒーロー……っぽいけど、お目目がぱっちりで鼻水を垂らしていて、その上何故か某ネコ型ロボットのようなヒゲも付いているという、ふざけた落書きが描かれていて、吹き出してしまいます。
私を吹き出してしまったのを見て満足気な顔をする生徒。毎週そんな顔してるよね。実は、その顔が見たくて毎回吹き出してしまったフリをしているのは内緒です。毎週ふざけた落書きを見せられるもんだから、ちょっと耐性がつきつつあるのよ。
「ちょ、ちょっとっ……これ誰なの、ちょ、私こんなキャラ知らないんだけど……ふふふっ!」
私が声を震わせながら聞くと、彼は絵の下の所を指さして言います。
「ほら、ちゃんと書いてるでしょ!」
彼が指さした先を見ると、そこには大きく書いてありました。


「アンパンマン」


「いやああああああああああ!!!」

黒板の文字を見た瞬間、生徒の前であることも忘れて叫んでしまう私。え、なんで「ン」が3つもあるの!?怖すぎるだろ、いやなんでこんなもの怖いのよ!?パニック状態になった私は生徒を放ってその場から逃げ出す……ってとこで目が覚めました。

いつもなら枕元のスマホを開くところだけど、直前で手が止まってしまう。だって、もしあの字を見ちゃって本当に怖かったら怖いんだもん。とは言っても、このまま眠るのも怖くなってしまったので、しばらくしてから恐る恐るスマホを開いて知り合いにLINEを送ってみたりしました。夜中だったから当然寝ていて、返事は返ってきませんでした。なんで返してくれないのー!怖くて寝れないのに!!と理不尽な怒りを抱きながら布団でゴロゴロしているうちに、私もまた眠りに落ちていきました。


次の日の朝、あの夢のことを思い出して、なんで「ン」だったんだろう?って思ったんです。なんとなくカタカナに対して恐怖心みたいなのがあるのは自覚していたけれど、なぜ夢の中では「ン」に対してあそこまでの恐怖を覚えたんだろうって。

そこで、最近どこかで聞いた話を思い出しました。世界で1番有名なカタカナって知ってます?答え言っちゃいますけど、「シ」らしいです。それでは、なんで「シ」なんでしょう?ヒントを言うと、同じ理由で「ツ」も有名みたいですよ。

答えは、どちらも口角を上げて笑った顔に見えるから、です。スマイルマークとして使われているんですね。普段文字として認識していると、言われないとそういう風には認識できないですよね。でも多分、日本人が 「 (*゚Д゚*) 」みたいに、顔文字としてキリル文字使うのと同じ感覚でしょう。

この話を踏まえて、もう一度「ン」を見てみると、なんだか違って見えてきませんか?そうです、多分私は無意識のうちに「ン」を「シ」から目がひとつ抉れた状態、もしくは1つ目の妖怪かなにかのように認識していたのではないでしょうか?

すっきりはしたけど、理由が明確になったせいで、夢の中だけではなく現実世界でも「ン」がちょっぴり怖くなってしまった私でした。

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