風が教えてくれたこと

いつも、どんなときも、優しい風が、吹いていた。

生きていく上で、人は、様々な悩みを抱く。
私の場合は、いつもその悩みを、一人で抱え込むことが多かった。

家族に相談すれば、余計な心配をかけてしまう。
友人は話を聞いてくれるかもしれないけれど、「忙しいのに迷惑かもしれない」と思う程度には、疎遠になっていた。
離婚してからは、付き合っているパートナーもいなかったし、甘えられる場所もなかった。

そんな時は、いつも、心休まる場所探して、自然の中へ出かけた。
穏やかに流れる川の辺りや、木漏れ日のさす森の中、こんこんと湧水が湧き出る神社の境内、あたたかい太陽の日差しと、心地よい木陰のある公園のベンチ。

そこで静かに目を閉じて、周りの音に耳を澄ませる。
鳥のさえずり、道路を走る車の音、砂利道を歩く誰かの足音、枯葉が風に舞う音。
自分がどんどん透明になって、周りの音と一体になっていく感覚。
深く入り込む時は、眠っているのか起きているのか、よくわからない状態になることもあった。
家での瞑想とも違う、自然の中に溶け込んで、一体になる感覚。

その感覚を、体の細胞全てで感じ切ったあと、ゆっくりと目を開くと、ネガフィルムからポジフィルムに切り替わるように、目の前の色と、光が、鮮やかに、豊かになる。

そして、あの風が、吹くのだ。

風は、木々の葉や枝、ススキの穂を通して、私にこう話しかける。

大丈夫、心配いらないよ。
全ては順調だから。
何も心配しなくていいよ。
いつもすぐそばで、見守っているから。

私が一番欲しかった言葉。
私が誰かに言って欲しかったセリフ。
風は、ただ優しく私を抱きしめながら、いつもそう、伝え続けてくれてた。

その風が吹くたびに、私は涙がとまらなくなり、ただただ「ありがとう」という気持ちにでいっぱいになるのだ。

いつも、どんなときも、すぐそばで私を抱きしめてくれたあの風は、気のせいなんかではなかった、と、最近、気づく出来事があった。

そこに気づくと、見えてくる景色が変わった。

自分が傷つけられたと思っていた出来事も、
思い通りにいかなくて苦しんだ出来事も、
怒られたことも、
責められたことも、
うざったいと思ったことも、
心臓がえぐられるような思いを残したあの出来事も、
元をたどれば、全て「愛」が源だったのではないか。

そう、思えた。

もしそうだとすれば。
わたしは、どれだけ遠回りをしてきたのだろうか。
そして、どれだけ、自分と相手を責め続けてきたのだろうか。

もうそんな必要はないのだ。
敵なんて、最初からいなかったのだから。

今の私は、毎日、笑ったり、泣いたり忙しい。
その中から、一つずつ、私にとってかけがえのないことを確かめながら、あらためて私はどう生きたいのかを、問い続けている。

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