〜絶対売らない100枚〜 No.8

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まずは色を無くそうか!!  / 灰野敬二

真打ち登場というか、ことアングラな世界の音楽を語ろうとするならば灰野敬二はやはり取り上げなければならない。灰野さんに関してはその長いキャリアや様々なバンドでの活動もあって、絶対売らないものが何枚かあり、本音を言えばなにか一枚に限定したくはない。そして、今回私が取り上げる一作、この「まずは色を無くそうか!!」という2002年発表のソロアルバムは、灰野敬二というミュージシャンのパブリックイメージを考えると入り口としての最初の一手としては最良ではないと思う。少なくとも、ガツンとしたロックモードの灰野敬二を聴きたいと思う人はこの作品は後回しでもよい。

それを了解した上で、私が今作を灰野敬二の一枚として取り上げる理由は、これ程までに完成されたインナーマインドトリップミュージックは他にそうはないからである。「ここではない何処かへ」、聴いていてそんな風な感覚になる音楽、その向こう側が本当に見えそうな、生きているような死んでいるような、この世の縁であったり、覗き込んではいけない深淵が見えるような。些か大袈裟だが、私はこのアルバムを聴くたびにそんな気持ちになってしまう。入手以来何百回と通しで聴いてきたが、未だに飽きない。

作風としては「慈」や「光闇 打ち溶けあいし この響き」に近い部分あるが、もっと内に閉じられていてひっそりとしている。低音にしろ高音にしろその響きは微弱で、儚い。このアルバムの音作りに関しては本人がインタビューで「深夜に自分の部屋でとても小さなアンプで声もギターも吹き込みそれをDATで一発録りした」、「四畳半サイケデリックフォーク」といった発言を残している。つまりは、ノイズでもなく爆音でもない、静かな灰野敬二の世界ということだ。

一時期は、寝る前に必ずこのCDをかけていた。部屋は必ず真っ暗にして、そして音量をそれなり上げて。音量を上げても全く煩くない、それが素朴に良かったのだ。灰野さんが作った時と同じ様に、深夜に真っ暗な部屋で聴く、これがこの作品に関しては最も正しい聴き方なのだと思う。流石に作品数が多い人なので、そのどれもが手放しに素晴らしい、とは言えない。しかし、くどい様だが、これは人生において死ぬまで聴くのではないかと思う。

そういえば、私は未だに灰野敬二のライブを観たことがない。時世柄、なかなかライブに行くこと自体が難しいことは事実だが、生の灰野敬二の音をなんとしても今年は聴きたいと思う。そういえば大学生の頃に短期のアルバイトをした際にバンドをやってるという男の子と一緒になって、アングラな音楽の話から何がきっかけか忘れたが灰野敬二の話題になり休憩中に話しまくった思い出がある。彼が今も元気に音楽をやっててくれればいいなと思う。







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