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年も明けたのでLOCUS GEARのDjediを語り尽くしたい。

2021年、明けましておめでとうございます。あんかけだよ。

今日はLOCUS GEARのDjediについて語り尽くします。長いよ。

LOCUS GEAR

LOCUS GEARは神奈川県相模原市にあるMagic Wand, Inc. の山岳テントブランドです。主なラインナップはトレッキングポールを支柱にするようなワンポールシェルターです。

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従来、山岳においてはツェルト的な役割しか果たしていなかったワンポールシェルターを実用的な山岳テントに昇華させた、ワンポールを語るには外せないメーカーです。

その特徴はまず基本的に受注生産であること。

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受注生産なので細かいオーダーにも応えることができ、同じテントでもシルナイロン、タイベック、DCF(キューベンファイバー)など素材違いでラインナップされていることもあります。

それらの素材は従来のテントに使われているデニール数の大きなナイロン生地と比較すると、強度が低い傾向があります。一方で山岳テントには嵐に耐えうるような設計強度が必要とされます。LOCUS GEARのうまいところは軽量な素材を採用しつつ、ダイニーマを主とした補強を適切に行うことで、山岳テントとして求められる強度を実現しているところです。

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2019年4月、白馬大池にて。猛吹雪に一晩耐えたLOCUS GEAR/Khufu。

Djedi

そんなワンポールテントメーカーとして定着していたLOCUS GEAR。しかし2017年のOff the Grid(ガレージメーカーを主としたアウトドア展示会)で突如発表したドームテントは話題を掻っ攫っていきました。

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LOCUS GEARが初めて世に放つドームテント、Djedi(ジェダイ)。正式名称は『Djedi DCF-eVent Dome』。その美しい真っ白なフォルムに誰もが眼も心も奪われます。

もちろん界隈を騒がせたのはフォルムだけでなく、その特徴にあります。

●特徴その1. 本体・ポール・スタッフサック込みで合計870 g
●特徴その2. 耐水性能:15,000 mmH2O, 透湿性能:50,000 g/m2-24h
●特徴その3. この性能でこのお値打ち価格

●特徴その1. 本体・ポール・スタッフサック込みで合計870 g

ただ軽いだけのシングルウォールテントなら、いくらでもあります。例えばカモシカのクロスオーバードームは(緊急シェルター扱いですが)630 gです。一方でDjediの特徴は「居住性が高いのに、軽い」ことです。

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これは確か土砂降りの中、尾瀬の見晴らしにテントを張ったときの写真です。写っているマットは山と道の<UL Pad 15 XL>で幅は50 cm。そのマットの左右に濡れ物を乾かせるほどの空間が確保できます。加えて長辺は230 cmで、具体的には176 cmのあんかけくんが足を伸ばして寝ても、寝袋の足側もテント内壁に全く当たらない広さがあります。高さも最大高105 cmで、幕体内部でポールが立ち上がっているので、スペック以上の高さが確保されています。

幕内空間の広さは快適さだけでなく、山中におけるリスク管理に大きく影響します。例えば冬山で寝ている時に寝袋の足側がテント内壁に接触していると、その部分が濡れてロフトが低下し、足が冷えてたまりません。意外と重要視されない最大高も重要です。冬山ではテント内で<モニョモニョ>を済ませることが多くなります。特に<大モニョ>の際は土俵入りのような格好になりますが、この時に最大高が低いと首がグニョンと曲がって不快極まりません。

●特徴その2. 耐水性能:15,000 mmH2O, 透湿性能:50,000 g/m2-24h 

シングルウォールとダブルウォールの最大の違いは、幕体における防水・透湿の扱いについてです。ダブルウォールテントはインナーテントとフライシートにそれぞれ異なる役割を持たせることができます。フライシートは高い防水性があればよく、透湿性は必要ありません。一方インナーテントはとにかく透湿性さえあればいいので、メッシュ素材を採用することができます。

しかしながらシングルウォールテントは一つの幕体に防水・透湿の両方の機能性を付与することが理想です。しかしながらほとんどのシングルウォールテントは透湿性を諦めて防水性に特化しています。結果、「確かに軽いけれども、とんでもなく結露する」テントが出来上がります。

これはシングルウォールテントにおける最大の課題で、特徴:その1で例に挙げたカモシカのクロスオーバードームも2020年のリニューアルで透湿性の向上が図られています。

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Djediはその結露課題に対し、幕体全てを防水透湿素材にするという乱暴な方法で解決を図りました。Djediの幕体(ボトム以外)はDCF-eVentで出来ています。DCFはDYNEEMA®︎ COMPOSITE FABRICSの略称で、アウトドアマンには旧名称の<キューベンファイバー>の方が馴染み深いかもしれません。DCFは「超高強度ビニール袋」のような物なので、透湿性はありません。そこでDCFに透湿素材の<eVent>をコーティングしたものが<DCF-eVent>です。

DCF:ダイニーマ(超高分子量ポリエチレン繊維)をフィルム(不織布)にしたもの。超高強度(引っ張りに対して)、加水分解しない、軽量。
eVent:素材の詳細は『ePTFEメンブレン』。Gore-Texの親戚のようなもので、メンブレンに水蒸気を通す孔が空いている=透湿を生じる。

このeVentコーティングのお陰で50,000 g/m2-24hというインフレスペックが実現されています。しかしこの数値だけでは何も語れません。透湿量は<測定方法><測定条件>によって結果が多く異なるからです。

では実際に四季折々の環境で使用した感想はどうでしょうか。まとめると以下のようになります。

雪山:幕体内で水作りをしようが、鍋を煮込み続けようが、全く結露しない。
冬以外:極端な雨天でなければ、朝起きた時に結露していることは殆ど無い。
雨:結露地獄。

雪山:幕体内で水作りをしようが、鍋を煮込み続けようが、全く結露しない。

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冬のテント泊は特殊で、吹雪いていて外に出れないことがザラにあるため、どうしても幕内で火器を使用する機会が増えます。加えて水作りや食事で必ず火器を使用しなければなりません。この時に幕体の透湿性が無いと、水を作っているのか、雨を降らしているのか分からない状況になってしまいます。2019-2020年の冬シーズンに八方尾根、鏡池、大天井、北岳などで幕営した結果、これらの水作りや煮込み料理では結露しないことを確認しました。

冬以外:極端な雨天でなければ、朝起きた時に結露していることは殆ど無い。

グリーンシーズンではどうでしょう。

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2020年8月、槍ヶ岳山荘のテン場。

元々、結露が問題になりにくい時期なので判断が難しいところですが、少なくとも朝起きて結露でベチャベチャになっていることはありませんでした。同じシングルウォールのKhufuと比較しても、朝起きた時の結露は少ない傾向がありました。

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2019年8月、ヒュッテ西岳のテン場。

DjediとKhufuの構造的な違いは<密閉度>です。Khufuはスカート等なく下が空いているので、基本的に通気性MAXです(張り方で少しは調整可能)。一方でDjediは小さな通気口が付いている以外は、高い密閉性があります。言わずもがな、山岳においては密閉性が高いほど耐候性が高まり、安全です。グリーンシーズンのDjediを語るならば、「高い密閉性で暴風にも耐えられるが、透湿性も高いので結露しにくい」となるでしょう。

雨:結露地獄。

さて、問題なのは雨の時です。悪いことは言いません、やめておいた方がいいです。一日中雨が降り続くような環境下において、Djediは機能的・構造的の両方の観点から適しているとは言えなくなります。

まずは<機能的>な問題から。Djediの透湿性は物理的なベンチレーターではなく、幕体のeVentコーティングに依存しています。eVentに限らず、世にある防水透湿素材というのは、その素材を界面として内側と外側に相対湿度や温度の勾配が存在しないと、その透湿効果を発揮しません。つまり幕体内側の相対湿度が80%で、外側の相対湿度が60%の時は、その勾配を中和するために内側⇨外側への湿気移動を生じます。

一方で一日中雨が降り続くような場合、幕体の外側は相対湿度100%の状態になります。この時、内側の相対湿度が低くても外側から内側に湿気が逆流してくるようなことはありませんが(コーティングに内側外側の概念が存在するため)、内側で発生した湿気は外に逃げることができません。

もう一つは<構造的>な問題です。一般的なダブルウォールテントの場合、雨が降ってもフライシートによる前室が存在するため、内部を換気することが可能です。

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濡れたザックやレインウェア、靴もその前室に入れることができるため、幕内に濡れ物を持ち込まずに済みます。これはダブルウォールテントでは当たり前のことですが、シングルウォールテントではそうはいきません。特にDjediの場合、出入り口が↓のように開くため、雨の日に開けようものなら全部入ってきます。

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加えて濡れに濡れた靴、ザック、レインウェア等の全てを幕内に入れる必要があります。前述のeVentからくる特性よりも、むしろこっちの方が使用する上でストレスだったりします。

ちょっとした雨、つまり「天気予報ではこの時間だけ雨が降るけど、その後はそんなに悪くないな」とか「縦走中にこの日だけ雨だな」とか、そんな場合に使用するのは問題ないレベルです。一方で「ガッツリ雨降るの分かってるけど、オレは山に行きたいんだ!!」という時にDjediを使うのは止めておいた方がいいでしょう。

少しフォローするのであれば、Djediは不織布で出来ているので水を吸水しません。不織布の吸水しにくさは、皆さんお持ちの不織布マスクに水をかけて試してみて下さい。強い雨が降っても撤収時に幕体が重くなりにくいメリットはあります。

雨天時の解決策

雨天時のDjediをボコボコに叩きましたが、それが劇的に解決する策があります。それがコレ、Djedi専用タープ(前室)です。

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このタープ、Djedi VXと言います。DCF製で重量は165 g。Djedi本体と3箇所で連結し、さらに後方に伸びるガイロープ2本を本体を固定しているペグと共有するので、追加のペグは2本だけ(前方の一箇所と頂点から出ているガイロープ)。設営……というのも憚られるくらい手軽で、前室……というには広すぎる空間が出現し、もちろん連結部の隙間から雨が入ってくることもありません。

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この前室、とにかく広いのです。どのくらい広いかというと、炭火焼肉ができるくらい広いのです。

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もしDjediを雨の日でもガンガン使いたいという人は、最初からDjedi VXを買いましょう。買っちゃっておきましょう。

●特徴その3. この性能でこのお値打ち価格

さぁ!こんなに素敵なDjedi!そのお値段も素敵ですこちら!

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素敵ですね!最新のMacbookを買ってもお釣りがきます!キャー!ステキー!

さらに専用前室のDjedi VXはこちら!

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わぁ!ステラリッジテント1のインナーとフライを足したよりちょっと安いね!安い安い!Djedi本体の値段を見た後だと尚更安い!!

はい、このお値段です。この大きさの山岳テント、しかもシングルウォールとしては最高ランクです。A5です。血統書付きです。これを買うと他の山岳テントに対する物欲が消滅するので、ある意味安い。実質無料というやつです。

メッシュ・ドアパネルはどうする?

さて、Djedi本体のお値段欄を見ると何やら「メッシュ・ドアパネル付き/無し」だの買いてありますね。ここまで触れてきませんでしたがDjediには入り口にメッシュパネルを付けるタイプがあり、オーダー時に決める必要があります。要するに「換気をしつつ虫が入ってこないよ!」ということですね。その分ちょっと(?)高くなります。

私が持っているのは<メッシュ・ドアパネル無し>ですが、この選択についてはドアパネル無しを強く推奨します。理由は次の2つ。

理由1:メッシュ・ドアパネルはただのメッシュ素材のため、別に結露しにくい訳ではない。せっかくの透湿素材で囲まれたテントなのに、結露する素材をわざわざ追加するのはありえない。
理由2:修理難易度が上がる。以前、Djediを修理した時のnoteを書きました(https://note.com/purute2/n/nebee8521840d)。Djedi出入り口のファスナー故障でしたが、この時LOCUS GEARさんから言われたのは「メッシュタイプだったら修理できなかった」です。Djedi本体は非常に強靭な素材で故障リスクは低いですが、ファスナーなどの部品は一般的な水準であり、故障リスクがあります。加えて出入り口のファスナーなんてのは、壊れるとテントの使用可否に直結する重要な部品です。その部分の修理難易度が上がる、というか実質的に修理不可能になるのはリスクが高すぎます。

メッシュパネルが無いことで虫が入ってくるリスクはありますが、そもそも日本アルプスのテン場などの高所では、そんなに虫はいませんので使用していて気になりませんでした。

耐候性はどうなの?

さて、5000文字を超えてきました。まだまだDjediの語りたいことは尽きませんが、またの機会にしましょう。最後に耐候性、主に山岳地域における耐風性能について語ります。山岳、特に日本アルプスの稜線にあるテン場では、下界のキャンプ場では信じられないような風が吹きます。

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一般的に山岳テントとして販売されているものであれば、日本の山で想定されるような風(最大風速で30 m/s程度?)に対して、きちんと本体、張綱を固定していれば、耐えられるような設計になっていると思います。Djediもその例に漏れず、十二分な耐風性能を有しています。コレについてあまり突出して書くことはないのですが、敢えて挙げるとすると次のような特徴があります。

耐風観点からの特徴1:テントポールが幕体内側にあるため、暴風でポールが破損した際のリカバリーがしやすい、と思う。実際にポールが折れたことはありませんが、Djedi購入時には念のためのリカバリー部品が付いてきます。
耐風観点からの特徴2:ポールを通して自立する前に本体+張綱を全てペグダウンできる。これ何気に大きいポイントです。フライシートを被せないと張綱を固定できないテントの場合、必然的にテントをポールで自立させてから出ないと張綱を固定できないことが多いです。一方で強風下では自立させたテントが風の影響をモロに受けてテントが崖下に、なんてことも考えられます。実際に2年前、北岳肩の小屋のテン場から崖下にテントがサヨナラする場面を目撃したことがあります。

地味ですが重要なポイントは特徴2の方ですね。<強風下でいかに安全に設営をするか>という点では、Djediはかなり強いです。特徴2について詳しく解説します。

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写真はダブルウォールテントのインナーテントですね。このテントではインナーテントから張綱が出ており、フライシートにはその張綱を通して外に出す穴が付いています。このような構造になっているのはスリーブ型テントの特徴です。スリーブ型テントの生地強度(デニール等)は基本的に『インナーテント>フライシート』の関係にあります。理由は、スリーブを通すインナーテントが幕体における主構造であり、フライシートの役割は雨よけの意味合いが強いため、フライシートの強度をそこまであげる必要が無い(=軽量化)、からですね。張綱は強い風を受けたときに主構造を守るために存在していますので、必然的に張綱はインナーテントに付きます。ところがこの場合、設営の順番は①インナーテントにポールを通して自立させる、②フライシートを被せて穴から張綱を外に出す、③本体、張綱をペグダウンする、です。強風下では何より先にペグダウンをして確保したいのに、コレではペグダウンが最終行程になってしまいます。コレを強風下で設営するのは勘弁願いたいですね。風でテントが宙を舞うのが容易に想像できます。

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一方でDjediはシングルウォールであり、かつスリーブ式ではなくインポール式なので、本体+張綱を最初にペグダウンすることが可能です。スリーブ式のシングルウォールテントでも同じことが可能ですが、既に地面に固定されたテントのスリーブにポールを通すのは地味に高難易度です。対してインポール式はテント内部にポールを突っ込むだけで完結しますので、地面に固定されていても楽に設営できます。どんなに良いテントでも設営前に風で飛んではオジャン。ここもDjediの良きポイントです。

最後に

7000字に迫ってきたのでこの辺りにしましょう。最後にタイトル画像にちょっと触れます。これは2019年の年末に南アルプスの北岳に行った時の写真です。

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幕営場所は池山吊尾根にある池山御池避難小屋の場所ですね。標高2200 m地点なので比較的低い場所ですが、当然12月末なのでそれなりに冷えます。よく「シングルウォールテントで冬って寒くないの?」と聞かれます。確かに生地による保温効果は期待できませんが、厳寒期の冬山ではどんなテントを使っても(※)生地による保温効果は期待できないです。それよりも隙間風が無いことの方が重要だったりします。Djediは防水透湿素材で幕体を構成することにより、物理的なベンチレーションを最低限にすることを可能にしているため非常に高い密閉度があり、そういった隙間風は皆無と言っていいでしょう。

※例外があるとすればファイントラック/カミナドームの内張(ファインポリゴン)でしょうか。あれくらいすれば幕体生地による保温効果が期待できそうです。

以上になります。Djediへの熱い思いをダラダラと綴ってきましたが、総論としては「最高のテント」です。雨天時など、使い方に多少癖があるものの、コレを買ってからは他のテントを使う機会が減少、というか山ではDjediしか使っていません。まだまだ語りたいことがありますが、それはまた別の機会にしましょう。それでは!✋