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LOCUS GEARのKhufuは山岳テント足り得るのか その4<冬山リスク編>

ようこそ、男の世界へ。

そう、『雪山でスカートもボトムも無いシェルターを使おう』なんていうのは、大凡一般常識では考えられない、非常識行為。

だからこそ人は浪漫を感じ、そこにチャレンジの精神を求めるのである。レッドブルも言ってるしね。

くたばれ、正論。

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2019年4月7日。北アルプス・白馬大池。くたばったのは正論ではなく、私のテント。

雪山におけるKhufuを語るに当たり、導入はまず<リスク>です。
冬山は夏山以上に<死>が身近にあります。従って気軽に「Khufuはいいぞ」と言うことができません。

まずは私が雪山でKhufuを使用した事例から、<想定されるリスク>及び<予め承知しておくこと>を列挙します。雪山でKhufuを使用するメリットはその後です。

<想定されるリスク>と<予め承知しておくこと>

具体的には以下の5点です。

① 設営時は可能な限りの確保をすること。
② 周囲を雪で覆うこと。ただしそれでも寒いこと。
③ ①②を完遂しても、中に雪が入り込むリスクがあること。
④ 森林限界以下で幕営すること。
⑤ 総じて最良の選択では無いこと。

一つずつ説明していきましょう。

① 設営時は可能な限りの確保をすること。

自立に必要な固定だけでなく、張綱も全て使用して可能な限りの確保を行ってください。

この点はグリーンシーズンでも同じことが言えます。一方で雪山の<風>は夏山のそれとは比較になりません。平気で風速30 m/sの暴風がテントを襲います。
登山天気(日本天気協会)の風速予報が大したことなくても、実際には立っていられないほどの風が吹く。それが雪山の日常です。

加えて、その風とともに大量の雪がテントを襲います。

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降雪予報がなくても油断してはいけません。この写真ではKhufuが半分近く雪に埋まっています。これは『新たな降雪があった訳ではありません』。『少し前に降った新雪が風に運ばれ、この状態になった』のです。

このような状態になった場合、雪の重さがKhufuの幕体を襲います。特にKhufuは基本的にカーボン製のトレッキングポール一本で幕体を支えています。
雪の負荷がKhufu本体に直接掛かると、ポール損傷、幕体頂点部の破れ、幕体そのものの破れ、などなど、リスクてんこ盛りです。

これらのリスクは張綱を張ったからといって全て<リスク回避>できる訳ではありません』。一方で張綱による幕体の確保は、多くの場合で<リスク低減>に寄与します。

何があるか分からない雪山。とにかく最初の設営時点で、考えうる限りの固定を行い、より安定的な確保としましょう。

② 周囲を雪で覆うこと。ただしそれでも寒いこと。

雪山は<寒い>ものです。もう、どう足掻いても寒いです。
「テントを張ったら、もう寝袋から出ない」なんて人も多いでしょう。

ただ、分かっていてもなんとかしたいのが人間のサガ。
少しでも寒さを和らげるために、Khufuの隙間を少なくしてあげましょう。

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スカートのないKhufuの隙間問題。
グリーンシーズンは『背を低く設営する』ぐらいしか選択肢がありませんでした。雪山は違います。大量の雪で隙間を埋めてしまいましょう。

隙間風が少なくなるだけで、寒さはかなり和らぎます。
ただし暖かくなる訳ではありません。冷たい雪で覆っている訳ですからね。

加えて、出入り口の部分を雪で完全に覆うのは、少し難しいです。
「うまいこと雪を積み上げられた!」と思っても、出入りしている間に積み上げた雪が崩れて、いつの間にか隙間が出来ていまします。

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そんな時はこの写真のように、隙間をザックで塞いでしまいましょう。気休めのように見えますが、こんなのでも結構寒さは和らぎます。

でもまぁ、どれだけ隙間を塞いでも『寒いことは寒い』です。雪山なんてそんなもんです。

加えて隙間を塞げば塞ぐほど、通気性が損なわれます。幕内で火器を使用する際は言わずもがなですが、結露問題も同時に生じます。

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2019年2月9日。八ヶ岳・赤岳鉱泉。18時。「朝起きて、この結露」ではなく夜のうちから既にこの状態。翌朝はKhufu内壁から氷の板が採取されました。

冬場の結露はグリーンシーズンのようにボタボタと落ちてはきません。結露した瞬間から全部氷になっていきます。
一方でこの氷が寝袋に付着したり、幕内で水を作ろうと火器を使用した際にボタボタ落ちてきたりと、鬱陶しいことには変わりありません。

もし冬山におけるKhufuの結露問題を克服したい場合、DCF-eVentのKhufuが選択肢に挙がるかもしれません。

Khufu DCF-eVent:最も高価で機能的なKhufu。材質はDCF-eVent(Djediと同じ)。重量435 g。¥80,000-

DCF-eVentのドームテントである<Djedi>を使用していますが、雪山で👆の写真のような結露を生じたことはなく、快適そのものです。

③ ①②を完遂しても、中に雪が入り込むリスクがあること。

「しっかり固定もした!」  「隙間は全部塞いだ!」
「「これでどんな風雪が来ても、完璧やな!!」」

いいえ、違います。

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最初の方でチラチラ写真が出ていた<雪に埋もれたKhufu>。こちらがその<設営直後>の様子です。

この後張綱をしっかり張り、隙間は雪で埋め、出入り口の隙間は大型ザックで埋めました。
加えて雪ブロックを風上に積み上げて、どこからどう見ても「完璧やな!」のはずです。……はずでした。

翌朝、2019年4月7日 4:44 起床。

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目が覚めて、瞬間、まだ夢でも見ているのかと思いました。
Khufuの幕内が雪で埋め尽くされています。奇跡的に、寝袋は雪による被害を受けていません。

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寝袋に入ったまま、右に視線を移します。
そこには食料の入ったバッグや、ドラゴンフライ(ガソリンバーナー)、水作り用の大鍋がある……はずでした。
黒い魔法瓶だけがかろうじて雪から「コンニチハ」していますね。

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こちらは入り口の隙間を塞いでいたはずのバルトロ75くん。
すっかり雪と仲良くなっています。楽しそうですね。

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で、外に出て撮った写真がこちら。
雪ブロック壁とはなんだったのか。夜間、風と共に襲いかかる雪によってKhufuくんはすっかり雪面と一体化しています。
恐らく寝ている間に僅かな隙間から雪がKhufu内に侵入したのでしょう。

この時は<既に4月で気温0℃程度と温暖であったこと>、<シュラフに雪が接していなかったこと>。これらのお陰で命に影響が及ぶような事態にはなりませんでした。

一方でコレが厳冬期であったならば……想像するに恐ろしいですね。なので、

④ 森林限界以下幕営すること。

Khufuで雪山、特に厳冬期を楽しむならば、森林限界以下のテン場・適地で幕営した方が吉でしょう。

例えば八ヶ岳。

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冬の定番・赤岳鉱泉。冬は夏以上の賑わいを見せる。

定番の赤岳鉱泉をはじめ、黒百合ヒュッテ、行者小屋、根石岳山荘、本沢温泉、しらびそ小屋などなど。八ヶ岳のテン場は全て森林限界以下なので、雪山をエンジョイするにはもってこいです。

あるいは南アルプス。

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数少ない通年営業小屋・甲斐駒ヶ岳 七丈小屋のテン場。トイレが少し遠いので、アイゼン履くか毎回迷う。

通年営業をしてくれる七丈小屋には頭が上がりません。

北アルプスの中でも積雪期のアクセスが容易な後立山連峰は、天候が安定する3月以降が良いでしょう。

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北アルプス・五竜岳。遠見尾根の幕営適地。森林限界より上ですが、天候に恵まれれば別天地です。

北アルプスの中でも一部の山は、森林限界以下に幕営適地があるケースも。

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北アルプス・常念岳。積雪期限定ルートの<常念岳東尾根>。暖かくなって雪が溶けると薮薮になるので、早めがオススメです。幕営適地は森林限界以下。

⑤ 総じて最良の選択では無いこと。

このようにKhufuを雪山で使おうとすると、多くの<憂慮すべき事項>があります。加えてそれら事項を対策しても<完全にリスクを回避することは不可能>です。

より多くのリスクを低減するためには、やはり冬季使用を前提に設計された堅牢なテント(エスパースなど)を使用することが最善策です。

したがって雪山におけるKhufuの立ち位置は『幕営地の地理特性、天候条件などのリスクマネジメントを実施できること。その上で生じる可能性のあるリスクに適切に対処できるスキルを有し、加えてリスクとメリットを天秤にかけて適切に判断できる人が使える幕体』であると考えています。
要約すると<ハードモード>です。

それでも抗えない魅力があるのだ、Khufuには

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ハードモードであると理解していても、<Khufu × 雪山>を貫き通したいと感じるメリットもあります。

次回はそのメリットについてです。