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初心者向け軍事:火力の基本(砲兵)前

前回の記事
初心者向け軍事:火力の基本(歩兵)

おさらい

前回は歩兵の火力について簡単な説明をしたね

火力は殺傷能力だけでなく、敵の能力を低下させる制圧能力もある
敵を火力で制圧して釘付けに、こちらは一方的に行動するのが理想
そのために複数の部隊が互いを火力で支援するのが基本的な考え方
歩兵分隊(10人前後)では制圧火力は軽機関銃が中核

防御側は穴を掘ったりして防御に都合のいい(掩蔽された)地形を作れる
前進する必要のある攻撃側は障害物などで妨害されつつ制圧されると辛い
なので陣地攻撃は攻撃側にとって不利になりがち

というわけで、砲がないと防御してる敵への攻撃は辛いのだが
これは初心者向けの解説だから砲についての簡単な解説をしておく

とか言いながら解説が長くなりすぎたので
砲の解説までを前編にして、そのあとは後編として分割する

初心者向け:砲の簡単な解説
部隊の規模と保有する火力

前回、10人前後の歩兵分隊レベルでは軽機関銃が火力の中心だと書いた
(上のおさらいにもあるね)

その歩兵分隊が3つから4つ集まったのが歩兵小隊

歩兵小隊にも火力支援のための部隊がついている(場合もある)

それは軽機関銃をいっぱい持った軽機関銃分隊の場合もあれば
グレネードランチャーをいっぱい持った擲弾分隊の場合もあり
はたまた軽機関銃より大型の機関銃をもった機関銃分隊の場合
さらには「火力支援が(小隊という単位の中には)ない場合もある」
(この場合は小隊内にはないけど中隊により多く集約されてる場合が多い)

初心者にはややこしいが時代と国によって細かい部分はかなり違いがある
が、基本的には「3個から4個の歩兵部隊」+「火力支援する部隊」
のような構造が連なっているのが基本と考えてもらうといい
(軍団から上になってくると話が違ってくるけど)

画像1

wikipediaから持ってきた陸上自衛隊の標準的師団の編制表(TOE)
1個師団が3個歩兵(普通科)連隊+1個特科(砲兵)連隊+その他の部隊
この普通科連隊の下にさらに3個普通科中隊+1個重迫撃砲中隊+その他
とピラミッド状につながっている

ちなみに自衛隊は普通科(連隊)の下にそのまま中隊がくっついている(大隊がない)
同様に旅団や連隊がない構造になってる軍隊もある


そして分隊-小隊-中隊-大隊-連隊…と部隊規模が大きくなってくる
部隊規模が大きくなるにつれて火力支援のために存在する火器も大きくなる
デカイ武器ほど使うのに人員や機材が多く必要になってくるからね
砲と呼ばれるようなものが出てくるのは現代だと中隊あたりから

用語解説:編制・編成
興味ない人は飛ばしても問題ないです

「〇〇師団は第〇〇歩兵連隊と第〇〇歩兵連隊と~(中略)~という編制であった」
みたいな文章は戦記物を見るとよく遭遇する
会社に例えるなら「営業部は第1営業課と第2営業課と海外営業課から成る」みたいなもの
軍やその部隊の固定的な組織構造を「編制」って言うわけ

本文の例で言うと「歩兵分隊が3つから4つ集まったのが歩兵小隊だ」は
「一般的に歩兵小隊は3個から4個分隊の編制だ」と言い換えることができる
「平時編制では〇〇人だが、戦時編制では〇〇人」とかいろんなところで頻出だ

上に出てきた編制表はそれを図として書いたもの
略称でTOEとよく言われる
Table of organization and equipmentの略だ (TO&Eとも表記)

面倒くさいことに同じ読み方をする「編成」は微妙に意味が違う
こっちはそういう「組織を作ること」で動詞的なニュアンスだ
「定められた編制に基づいて編成された〇〇師団は~」みたいな感じ
事前に定められた固定的な編制に基づいてない編成をすることもある
「損害を受けた部隊をかき集めて臨時に編成した」みたいな使い方

その編制の中で上位の部隊の指揮下にあることを「隷下」と呼ぶ
「〇〇師団隷下の▽▽砲兵連隊は~」みたいな使い方だ
あるいは省略して「師団砲兵」と言ったりする
これも「〇〇師団の直接の指揮下にある砲兵(多くの場合は砲兵連隊)」という意味

編成:organize
編制:organization
と考えておけばだいたい問題ない

ここからは砲の種類についてのざっとした解説

「ここはわかる」という人は読み飛ばして次回を読んで問題ありません

初心者向け軍事:火力の基本(砲兵)後

砲の重さ・射程・威力を決定する諸要素

砲の射程・威力・重量を決定する諸要素

図表にだいたい書き示したけど補足説明
砲の重さは単純な砲身の重さだけではない
初速+砲弾重量を大きくすると反動も大きくなるので
反動を抑え込むための装置も大型化するから砲が巨大になる

迫撃砲

(現代の)歩兵中隊レベルで保有する砲といえば(中型の)迫撃砲
大型の重迫撃砲は歩兵連隊レベルについてくる
迫撃は現用される砲の中で一番シンプルで軽い作りをしている
小型で軽いから比較的小さな部隊でも扱えるわけ
(大型の重迫撃砲はもうちょっとランクが上だ)

具体例を例示してみよう
陸上自衛隊の普通科(歩兵)中隊が保有するのはL16 81mm 迫撃砲だ
重さは36.6kgで、頑張れば背負って移動できなくもない
しかも12kg程度づつに分解して運べるのだから迅速に移動・展開できる
(この迫撃砲はこのクラスの迫撃砲としても特に軽い)

なんで迫撃砲はそんなに軽くできるのか?
それは一つは真横に撃つことを完全に諦めているから(ほぼ真上に撃つ)
もう一つは砲弾の速度(≒射程)をある程度は妥協してる
最後に(一般的な迫撃砲は)装填装置を持たないことが主な理由だ

砲弾を発射すると反動を受ける
地面に対して平行に撃つと、もちろん反動は地面と平行に発生する
すると、当然ながら真横にずれるわけだ
普通の砲はそれを防ぐためにいろいろな設備がついて重くなる
(基礎知識のところにも書いたね)
ところが、横ではなく真上に撃つなら地面に押さえつけられるだけで済む
だから砲を安定させるための構造を簡略化できて軽い

そして砲弾の速度を妥協してるから砲弾はあまり遠くには飛ばせない
だけど、砲を頑丈に作る必要がない(=砲が薄くてもいい)ので軽量だ
(ここがわかんない場合は基礎知識を見直してどうぞ)
更には砲弾に大きな力がかからないので砲弾の炸薬を増やしやすい

そして普通の迫撃砲は複雑な付随装置がついてないただの筒同然だ
しかも砲弾は4kgほどだから人間が簡単に装填することができる
じゃあ、装填装置なんかなくったって砲の先端から直接砲弾を入れればいい
これで砲が単純になってさらに軽くできるわけだ
(砲をほぼ真上にしか向けないので重力で勝手に砲弾が根元まで落ちる)

言い換えるならば迫撃砲は小型軽量かつ(規模に対し)大威力な砲なのだ

250px-富士駐屯地で展示される81mm迫撃砲L16

wikipediaからL16 81mm 迫撃砲
真上よりちょっと浅い程度の高仰角(上向きの角度)



更に5kmも視線が通る場所というのはそうそうない
実用上、目視できる範囲の外側から撃てるのだ
(あるいは迫撃砲でさえそれくらいの射程はあるとも言える)

最初の通り(中型)迫撃砲は歩兵中隊など比較的小部隊が保有している
これは最前線の現場だけの判断で使えるというのも大きなメリット
極端な話をすると超大型火砲とかは軍団とか軍の直接指揮下にあったりする
いわば将軍たちの都合で動かすような砲なわけだから滅多に来ない
それは極端にしても、なるべく近い上司の都合で動く砲のほうが迅速
最前線の兵士にとっていちばん身近な砲なのだ

扱う兵士も砲兵所属ではなく歩兵所属なことがほとんどだ
なので日本軍は曲射歩兵砲とも呼んでいた
(次に紹介する歩兵砲を示すときは平射歩兵砲と呼び分ける)

歩兵砲

現代だと使われてないけど二次大戦ごろまで歩兵砲というものがあった
迫撃砲と違って単純に小型だから(他の砲に比べて)軽いだけの砲
(頑張れば)分解して歩兵が人力で運ぶこともできなくはないレベル
なので砲の威力に比してもっと軽量な迫撃砲に取って代わられた

まぁ真横にも撃てるから見えてる敵を撃つのは迫撃砲より容易なんだけどね
それもあって迫撃砲と歩兵砲はしばらく並行して使われた
でも、戦後になると直射の役目は無反動砲とかのほうが優れてたんだな
「歩兵砲」は所詮は単に小さいだけの砲なので性能不足で姿を消した

画像4

wikipediaより鹵獲された九二式歩兵砲
歩兵大隊についてくる砲だったのでそのまま大隊砲と呼ばれた

歩兵砲は基本的に歩兵大隊や歩兵連隊についてる砲だった

榴弾砲(りゅう弾砲)

最初からややこしいことを言う
二次大戦ごろまでの「榴弾砲」と
冷戦半ばから現在の「榴弾砲」はちょっとニュアンスが違う


昔の榴弾砲というのは
砲の規模に対して大きい砲弾を撃つ代わりに射程が短めの(普通の)砲
くらいの意味だった
それに対して
射程が長く真っすぐ伸びる弾道を描く高速砲弾を撃つ砲
としてのカノン砲(キャノン砲、加農砲)があったのだ

これは二次大戦頃の話になるけれども
歩兵師団クラスは両者のどちらか、もしくは両方を保有していた
(師団が運用する規模の軽量カノン砲は野砲と呼ぶのが一般的)

基本的に「砲兵」のボリュームゾーンはこの師団砲兵だったりする
(用語解説にも書いたけど師団砲兵=師団の直接指揮下にある砲兵部隊)
野砲や榴弾砲はthe 「砲」とでも言うべきクラスの砲だったのだ

二次大戦で師団クラスが運用する砲の例をあげれば
ソ連で大量に生産されたされた76.2mm野砲ZiS-3は戦闘重量で1200kgくらい
(戦闘重量ってのは砲を設置して砲撃できる状態での重さ)
ドイツの軽榴弾砲である10.5cm leFH 18は同じく戦闘重量で2000kgほどある
師団砲としては重いドイツの重榴弾砲15 cm sFH 18はさらに重く5500kgほど

ZiS-3はsFH18より砲そのものがずっと軽いのに射程は同程度だ
(どちらも13kmほど)
その代わり砲弾の重さは7分の1しかない、重い砲弾を飛ばすのは大変なのだ
(sFH18の砲弾は43kgあるがZiS-3はの砲弾は6kgほど)

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ソ連の122mm榴弾砲
6000門近く作られて地味に活躍した





では現代の榴弾砲はどうなのかというと
自衛隊が使う155mmりゅう弾砲FH-70は8トンある
これは大戦時でいうと師団より上の軍団に所属する砲兵の火砲に匹敵する
二次大戦当時の師団クラスの火砲よりずっと大型だが大威力長射程
なのだ
射程が短かったはずの榴弾砲が、射程が長い砲に変わったわけだ

何が起きたのかと言えば
砲を牽引用の輸送車両とかが増えたりパワーアップして制約が緩くなった
そして「長射程かつ大威力」がいいからと榴弾砲が大型化してしまい
昔の(軍団砲兵クラスの大型)カノン砲より少し軽い程度になってしまう
だから、カノン砲と榴弾砲の区別がなくなって「榴弾砲」に吸収されたわけ

師団クラスの火砲は
現在:(現在の意味での)榴弾砲
大戦時:野砲・榴弾砲

画像6

自衛隊のFH70 155mmりゅう弾砲
輸送状態だとこんな感じに畳める

まとめると
それぞれの部隊の火力として運用されるのは

現代
中隊:迫撃砲
大隊から連隊:重迫撃砲
師団:榴弾砲
軍団以上:大型ロケット砲 戦術弾道ミサイル

二次大戦頃
大隊から連隊:歩兵砲および迫撃砲
師団:榴弾砲および野砲
軍団以上:大型カノン砲 超大型榴弾砲

といった感じになってくる

ちょっと簡略化しすぎてるかもしれないが
大まかにはね

というわけで次回こそ本題に入る


初心者向け軍事:火力の基本(砲兵)後


「ここの補足とか必要だろ」とか
「ここは事実誤認」とかあるときはコメント是非ください


お金は要らない、読んでくれさえするならば