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ドイツの公共善エコノミ-企業視察からパーパスについて考える

久しぶりの投稿になります。今年の2月に「公共善エコノミー」視察の目的でドイツを訪れました。この内容はもっと早く紹介するつもりでしたが、ようやく投稿にまでこぎつけました。

2月の「公共善エコノミー」視察 inドイツ

公共善エコノミー

「公共善エコノミー」とは、持続可能でホリスティックな新しい経済モデルです。2010年にオーストリア、イタリア、ドイツ、スイスでボトムアップの運動として始まりました。
経済活動を公共善(人間が共通して持つ普遍的価値)に方向転換することで、人がより生き生きと生活したうえで、生態学的な地球の限界を尊重した経済のシステム設計を図り、かつ実践していくプロセスです。今では、全世界35か国、1500の企業、35の自治体が公共善エコノミーに取り組んでいます。

2025年2月の公共善エコノミーイベント

公共善エコノミーについては、コンセプト・ファウンダーのクリスティアン・フェルバーが来年2月に初来日することになり、それに合わせてイベントを行います。イベントについての詳細は下記を参照ください。

公共善エコノミー企業とパーパス

公共善エコノミー企業の紹介

ここでは、公共善エコノミーに取り組んでいる企業のパーパスの位置づけについて、訪問の振り返りと考察を述べます。

視察では以下の4社の企業を訪問しました。

  1. Diakonieverbund Schweicheln e.V. 青少年教育福祉事業 130年の歴史を持つ協会慈善組織

  2. Nack オフィス家具メーカー 1954年創業

  3. Inoio ソフトウェア開発 2012年法人化

  4. WEtell 通信プロバイダー事業 2020年創業

それぞれの訪問企業の概要は以下の通りです。「公共善エコノミー」に取り組む企業は、そもそも志が高い(≒パーパスフル)企業が多いと推察されます。ですので、ここでは、パーパス考察の背景整理ために公共善エコノミー(ECG:Economy for Common Good)の取り組みと効果についても簡単にまとめています。

公共善エコノミー訪問企業の概要(筆者のまとめ)

4つの企業の設立時期や業種・規模・組織形態は異なりますが、いずれの企業にも共通する視点を感じました。

外部:環境持続可能性の視点、社会的な企業価値の視点
突き詰めていうと、自らの組織が「何のために存在するか」を探索する視点です。存在意義を自ら問う中で、外側の世界(社会・生態系・地球)との接点・関わり方について定めようとしています。

内部:意思決定の視点・対話・チーミング・コンセンサスの視点
存在意義が生まれている組織内部のシステムを観る視点と言えます。従来のヒエラルキー的組織構造から、フラット型へのパワー・シフトも垣間見えますが、本質的には、組織の中でどれだけ人のパワーが開放され、創造的になりえるかを試行錯誤しているといえます。そのためには、組織内の透明性とビジブルなコミュニケーション・対話の重要性を認識していることがベンチマークと言えそうです。

Teal組織の3つのブレイクスルーの視点から整理する

この内容を、「Teal組織」で示されている「3つのブレイクスルー」の視点で整理するとよりクリアになります。以下に一覧にしてまとめました。

Teal組織の3つのブレイクスルーからの視点(筆者のまとめ)

進化していく目的(Evolutionary Purpose)
自分たちが持っている視点や認識が、新しい企業ほど環境の持続可能性や気候変動への意識が高く、生態系や地球規模の視点でパーパス(存在意義)を持っていることを示しています。

自律性(Self-Management)
環境変化に柔軟に対応するために、アジャイル型・自己組織化型の意思決定にして、個人のパワーと創造性を解放していくことが感じ取れます。

全体性(Wholeness)
全体として、対話重視・抵抗値を見逃さない(テンションを活用するともいえる)ことによって、組織と個人の全体性を保とうとしています。

これらの3つのブレイクスルーの視点は、相互に深く関係し合っています。特に、パーパス(存在意義)が意識的であり、パーパスを起点としたものであればあるほど、自律性や全体性もそのパーパスと共鳴し、調和した軌跡を描くようになると言えます。

パーパス起点の組織へ:事業が手段となり存在そのものを体現する

とくに圧巻なのは、2020年に設立されたWEtell社です。WEtell社は、地球環境の持続可能性のための社会変革がパーパスそのものであり、社会変革を起こす手段として、通信プロバイダー事業を選択したと言い切っています。パーパス実現のために、本気でパーパス起点での事業構築をしているといえます。

WEtell社が立地する、スタートアップ企業インキュベーション・センター内写真
さまざまなスタートアップ企業が入居している
開放的な打合せスペース、もとは列車の車庫であった施設を活用

世界のグローバル化や技術の進歩が進む中で、生態系や経済、社会への影響は加速度的に広がり続けています。この変化は、多くの危機や課題を生む一方で、私たちの視野や認識を広げるきっかけにもなっています。

こうした背景から、パーパス(存在意義)のアップデート・更新が求められていると言えるでしょう。その典型的な例が、WEtell社のケースです。

この流れの中で、特に若い組織ほど、その視点がより広がりを見せていることがわかります。そして、そのパーパスは個々の組織や社会の枠を超え、生態系や地球全体の視点へと拡大しています。こうした傾向は、WEtell社に限らず、さまざまな組織にも今後拡大していくでしょう。

結果として、組織はこの視点の拡大を通じて、より「パーパスフル」な存在へと進化していく道を歩んでいると言えるでしょう。このことは、これからの複雑化を超えたカオス化する時代において、組織がどのようにパーパス(存在意義)を見つめ直し、地球規模での視点をもって貢献していくかという重要な示唆を私たちに示しています。

パーパスを構造的に担保する「スチュアード・オーナーシップ」

こうしたパーパスフルな組織を、構造的に担保するために「スチュアード・オーナーシップ」というフレームワークが欧米では拡大しつつあります。実際に今回の公共善エコノミー企業の訪問では、WEtell社の他に、Inoio社でもこのフレームワークを採用する動きがありました。次回以降の投稿では、この「スチュアード・オーナーシップ」に触れていきたいと思います。



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