【メモ】東京地判令和1年9月17日裁判所Website

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第1 事実の概要


1. イランにおける改宗者の状況とXの信仰状況
 イランでは、イラン革命以降、イスラム教徒が他の宗教へ改宗することは背教罪とされ、背教は死刑に値する罪と考えられている。平成21年当時のイランでは、当局は福音派教会のリーダー層を中心に改宗を注視していた。一方で、一般の信者については注視していなかった。しかし、平成21年以降は、改宗者を罪に問うことがより一般的になった。特に、平成24年以来、民家に集まってキリスト教信仰を行っている改宗者については、逮捕・訴追され身柄拘束をされるケースも増加した。
 原告であるイラン国籍男性Xは、イランにおいては教会に行ったことはなく、聖書を読むのみであった。しかし、日本入国後からは毎週日曜日の礼拝にほぼ毎回参加し、奉仕活動を行ったり、聖書の研究を行っている。

2. デモ参加の事実
 Xはテヘランでタクシー運転手をしていた平成19年6月、ガソリンの配給制に反対するデモに参加し、シュプレヒコールを上げたが、暴動には加わらなかった。しかしXは、イラン当局がビデオ撮影をしていることに気づき、逮捕を恐れ、イランからの出国を考えた。

3. 入国後の事情
 Xは、平成19年7月、空手団体の一員として正規の旅券及び手続で日本に入国した。入国から約1ヶ月後に、①反政府活動をしたこと、②キリスト教への改宗をしたことを理由とする1回目の難民認定申請をしたが、不認定処分を受け、異議申立ても棄却された。Xは難民不認定処分の取消しを求める訴えを提起したが、地裁、高裁で棄却された。Xは上告及び上告受理申立てをしたが、平成25年9月12日、最高裁は上告棄却・不受理決定をした。
 Xは、平成24年4月24日、2回目の難民認定申請(本件難民認定申請)をしたが、法務大臣Yは同年10月25日、不認定処分(本件不認定処分)をし、平成25年2月28日、Xに通知した。Xは、Yに対し、平成25年3月4日、異議申立てをしたが、5月31日に棄却された。
 Xは、平成30年7月19日、本件不認定処分の取消しと、難民と認めることの義務付けを求めて、本件訴訟を提起した。Xは、同年7月20日、Yに対し難民認定申請をした。

第2 争点

①難民及び迫害の定義並びに立証の程度

②Xの難民該当性


第3 裁判所の判断

1. 争点①について

 入管法にいう難民とは,「人種,宗教,国籍若しくは特定の社会的集団の構成員であること又は政治的意見を理由に迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有するために,国籍国の外にいる者であって,その国籍国の保護を受けることができないもの又はそのような恐怖を有するためにその国籍国の保護を受けることを望まないもの及び常居所を有していた国の外にいる無国籍者であって,当該常居所を有していた国に帰ることができないもの又はそのような恐怖を有するために当該常居所を有していた国に帰ることを望まないもの」をいうと解する。
 「迫害」とは,通常人において受忍し得ない苦痛をもたらす攻撃ないし圧迫であって,生命又は身体の自由の侵害又は抑圧を意味するものと解するのが相当であり(難民条約33条1項参照),また,上記にいう「迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有する」というためには,当該人が迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱いているという主観的事情のほかに,通常人が当該人の立場に置かれた場合にも迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存在していることが必要であり、立証責任は原告が負う。

2. 争点②について

 前回判決が前提としていた「平成21年当時のイランにおいては,イスラム教からキリスト教へ改宗した者が,改宗したことのみを理由にしてイラン政府から逮捕,訴追等される蓋然性が高いとまでは認められない状況にあった」。しかし「平成24年(2012年)時点においては,平成21年(2009年)時点と異なり,イスラム教からキリスト教に改宗した者が民家に集まりキリスト教信仰を行うこと(家の教会)について,イラン政府から逮捕・訴追されて身柄拘束を受けることが一般化しており,イラン政府から迫害を受ける蓋然性が高まっていたと認められる。」

 「以上を踏まえると,本件難民不認定処分がなされた平成24年10月25日時点では,イランにおいて,イスラム教からキリスト教に改宗した者については,改宗したことのみを理由にイラン政府によって逮捕,訴追等される蓋然性が高いとは認め難いものの,民家に集まってキリスト教信仰を行っている改宗者については,教会のリーダー層に限らず,一般の信者であっても,イラン政府によって逮捕,訴追等される蓋然性が高かったと認められる。」

 そして、上記事実からすれば、「本件難民不認定処分時における原告のキリスト教に対する信仰は真摯なものであったということができる。」「イランにおけるイスラム教からキリスト教に改宗した者に対するイラン政府の迫害状況を前提とすると,本件難民不認定処分当時,原告が,上記活動をすることによってイラン政府から逮捕,訴追等がされる蓋然性は高かったと認められる。」「原告がイランに帰国した後も本邦におけるキリスト教徒としての活動と同様の活動をすることを前提とすると,そのことを把握したイラン政府によって,逮捕,訴追等がされる蓋然性が高かったと認められるのであるから,通常人が当該人の立場に置かれた場合に迫害を受けるおそれがあるという恐怖を抱くような客観的事情が存在していたといえる。

 一方、Xは、本件デモに大勢の参加者のうちの一人として参加したにすぎず,Xが本件デモに参加したことにより,イラン当局が殊更に原告に関心を寄せるとまでは認め難い。また、Xの妻に警察から呼び出し状が届いたといった事実が認められたとしても、Xの「本件デモへの参加の態様等の事情を前提とすれば,上記事実は,本件デモの状況等に係る当局としての一般的な関心の域を出るものであるとまで認め難い。」「他に,Xが本件デモに参加したことについて,イラン当局が殊更にXに関心を寄せていたことをうかがわせる事情は見当たらない。」
 したがって,本件難民不認定処分がされた時点において,Xにつき,本件デモに参加したことをもって,前記1に述べた意味における迫害の恐怖を抱くような客観的事情が存するとまでは認め難い」。よって、デモに参加したことをもって難民と認定することはできない。
 

 「以上からすれば,Xは、宗教を理由とする難民に該当する」から、本件難民不認定処分は違法であり、取り消されるべきである。

判決原文:https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail5?id=88961


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