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「衣」 過去のブログから(2013-11-06 )

さて、衣替えのシーズン。
というわけで今回のコラムお題は「衣」です。

“ころも”、“きぬ”、と読むと何とも雅やかな響きです。
日本では『”衣”食住』の最初にきます。

ちなみに、他の言語ではどうでしょうか。
英語では『food clothing and shelter』(食衣住)
ドイツ語では『Kleidung Nahrung und Wohnung』(衣食住)
スペイン語では『comida vestido y vivienda』(食衣住)
お隣、韓国は『衣食住』
“食”か“衣”が最初の場合が多いようです。
生きて行くのにそれだけ重要なものという事ですね。

この時期、着物が好きな私は、虫干しやら防虫香の入れ替えやらでお天気とスケジュールと睨めっこです。

なぜ着物が好きなのか、、、
それは日本の民族衣装であるという事や、着物を取り巻く世界(農業・手工芸産業・地域福祉・文化・風習など)を大切にしたい、という想いも大いにあるのですが、一番は着物に心身を健やかに調整する機能があるからです。
なんと、衣類も我々の健やかな生活をサポートしてくれる重要なアイテムなのです☆

というわけで、意外と知られていない「衣」について、まずは伝統的な手工芸としての布の視点からちょっと書こうと思います。

「衣」

この『衣』、古代日本では植物繊維から作られたものだけを指していた時代もあった様です。(初期は麻・苧麻・藤・楮・葛など)
そのうち木綿が加わり、高価だったため別扱いだった絹も同じ扱いとなり、ウールが入り、今では化学繊維なども多種が生み出されています。
これらの布は糸から作られますが、その糸から布への加工法には大きく次の3つの方法があります。


「織り」「編み」「組み」


「織り」は皆さんお馴染み、経糸(たていと)と緯糸(よこいと)を直角に交差させて作られます。
これを作るのが機織り機。最初に反物の長さ(普通の着物で12~13mほど)の糸を張り、そこに緯糸を左右へくぐらせて織目を描き出します。(基本は平織り・しゅす織り・綾織り)
織りや糸の加工、そして染めの技術は世界中で様々開発され、日本でも地域ごとに素晴らしいものが沢山あります。

特に、糸の段階で模様を考慮して経糸緯糸細かく染め分け、柄を合わせながら織られる絣(かすり)の技術は気の遠くなるような神業です。

参考:日本三大絣の一つ”久留米絣”
(久留米絣も機屋さんは3軒しか残っていないそうです)

画像1

その貴重な一軒「山藍」さん(以下の広川町のWebページからお写真お借りしました)
https://www.hirokankou.org/tokusan/kasuri/yamaai/


・2つ目の「編み」はいわゆる編物です。
1本の糸を絡めながら一目一目編んでゆきます。
一般的にはニットであるセーター・帽子・手袋・マフラー等が想像しやすいでしょうか。
小さい時にリリアン編みで親しんだ方もいるかも知れません。


その編みの技術も、華麗で繊細なレースなど超絶技巧があります。

画像2

(写真はクロッシェレース wikiから引用: http://ja.wikipedia.org/wiki/ファイル:Irish_crochet.jpg

この細かさ!
とても私の編むカーディガンと同じ編みの世界にあるとは思えません。
今はこういった繊細なレースの技術も失われつつあります。


・そして最後の「組み」は、人類最古の布技術といわれ、一番歴史がある技術です。
正倉院や法隆寺宝物館等にも組みで作られた華麗な束帯装飾等が残されていますので、何らかの展覧会などで目にしたこともあるかもしれません。

さて、「組み」は縦糸のみで、これを斜めにクロスしながら交差させて作られます。
ですので、柄が斜めに出るのが特徴です。
一般的には組紐が有名でしょうか。


以下は藤岡組紐さんのインスタグラムから

藤岡組紐

https://www.instagram.com/p/CFeURNOAUHM/

そして最古の技術「唐組」を復刻させた京都ひなやさんのサイト

http://www.hinaya-obi.jp/

ひなやさんは組紐でなく、組布を作製出来る貴重なお店。
今、組布の技術を継承しているのは上記ひなやさんを含め数軒のみになってしまいました。

皆さんも普段目にするのは「織り」か「編み」の布だと思います。


糸の素材


さて、この『衣』、原材料は植物、絹はお蚕さんと桑の木です。
生物である以上、食物と同じで固有のエネルギーを持ちます。

・麻や苧麻「浄化・潔斎・簡素」
・綿「グラウンディング・協力・共存共栄」
・絹「強さ・守る・育む」


絹は分かりやすいと思います。
素材の繭そのものが幼虫の羽化を守るパワフルなものですものね。
では、着物一反に何個の繭(何匹の蚕)が使用されているか知っていますか?

なんと、その数は平均で2600~2800個!
反物によっては4000個!!!もの繭を使用するそうです。

芋虫のような幼虫から羽を持ったカイコガへ羽化する不思議は、まさに人智を超えた神の世界。それを守り育む小宇宙を2600~4000個分です。
これを考えただけでもどれだけ強力なエネルギーを持つかがお分かり頂けると思います。
着物に限らず絹製品は大切にしないと、命を捧げたお蚕さんに申し訳が立ちませんね。


綿花は直根(ゴボウのような一本根)を張り、根の周囲の環境との関係性を深く結びます。(根からストリゴラクトンという物質を分泌し共生菌を育て、自ら環境を整えます。植え替えする時は付近の土ごと植え替えないと枯れてしまう事も多いそうです)
その性質ゆえに、そこに深く根を張り共存共栄し強く生き抜くエネルギーを持つのでしょう。


麻や苧麻は、神事に使用される神祭具や神官の方々の装束等に使用されている事からも、古くからその浄化・潔斎の力を認められていたのでしょう。(麻の文化は日本と縁深く、またの機会にゆっくり書きたいと思います。)
実際に夏場、苧麻(縮・上布)の着物を着ると、暑く息苦しい感じが和らぎ、汗をかいてもベタベタせず、その清浄感に病み付きになります。

小千谷織物同業協同組合HP
http://www.ojiya.or.jp/cloth/tij

残念ながら現代は栽培に農薬・化学肥料、また殺菌の為に漂白剤、染色に化学染料やホルマリン等が使用されていますので、植物本来が持つエネルギーを感じる事が難しくなっています。
それでも、オーガニックコットンやオーガニックシルク、草木染めなどの試みを辛抱強く行っている職人さんや作り手さんはいらっしゃいます。

草木染め

草木染めに至っては、使用原料を見れば分かる通り

紅花・茜・藍・柘榴・梅・紫紺・栗・玉葱・黄檗・蓬・葛・山桜、、
など百数十種類以上

これって???
そう、漢方薬ですよね。

草木染めは「着る漢方」なのです。
特に紅花や茜等は色も鮮やかな事から女性の襦袢に使用されますが、血行促進、うっ血を防ぎ、抗菌作用があるとされます。
冷えが大敵の女性に最適♪ なんて理にかなっているのでしょうか!
(最近は紅花染めのマフラーやスカーフ、下着等が見直されています。)


草木染めの生き字引 小森草木染め工房さん
(この記事を書いた2013はリンクを記載しておりましたが、残念ながら2016年に閉業されました、、、涙)


さて、ざっと簡単にご紹介しましたが、如何でしょうか。
これ以外にも、着付けや紐の使い方で姿勢や骨盤の調整が出来たり(妊娠時の岩田帯などが有名)、所作でインナーマッスルが鍛えられたり、文様や色合わせで言霊(結界を作る、現代のバリヤ?)や色のエネルギーを纏っていたり(カラーセラピーですね)、と着物は知れば知るほど唸る文化です。

今は着物を持っている方すら少なくなってしまいましたが、こうやって素材から今一度見直してみると非常に楽しいものです。

まさに一生勉強出来る素晴らしい文化、日本人に生まれて本当に有り難いと思います。
というわけで、衣替えがどんなに大変でも、手入れが面倒でも着物は手放せないのです♪

ではでは、今月もお健やかに。


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