『改訂版 地球環境学』を読んで

2019年3月に、古今書院から『改訂版 地球環境学』が発行されました(出版社Webページ)。読んでみて、旧版と変わったなと思うことをいくつかまとめていきたいと思います。

私は、2007年発行の旧版の『地球環境学』を使って1年次に勉強してきました。内容が大きく更新されているページも見かけて新鮮に思ったところもあれば、旧版から引き継がれた記述もありました。

今までは30章構成でしたが、2019年度から授業カリキュラムが変更となることを踏まえつつ25章構成に変更されています。1章 - 3章が導入部分、4章 - 7章が大気科学(気象学・気候学)、8章 - 10章が水文科学、11章 - 14章が地形学、15章 - 17章が人文地理学、18章 - 20章が地誌学、21章 - 25章が応用的な内容に該当します。執筆時には2019年度のシラバスは公表されていませんが、おそらく春学期は主に1章 - 10章、秋学期は主に11章 - 20章で、適宜21章 - 25章の内容を補いつつ行うのではないかと予想しています。

旧版が発行された2007年から今までに、東日本大震災・福島第一原発事故(2011年)をはじめとして国内外で多くの災害が発生しており、第1章の導入部で自然災害に関する言及が加筆されています。また、旧版では大気科学、水文科学、地形学それぞれで分散していた災害に関する言及(旧版8章, 13章, 20章)が集約されました(改訂版22章)。改訂版では主に豪雨・豪雪、洪水、土砂災害について解説されています。それぞれの説明内容でも、洪水の節では、旧版では降水量が変化するメカニズムについての解説がメインでしたが(旧版13章(2))、改訂版では外水氾濫、内水氾濫の現象の説明や対策についての解説がメインとなる(改訂版22章(3))など変化が見られます。旧版では「外水氾濫」「内水氾濫」という記述自体が見られません(授業では解説があり、さらに試験にまで出題されたのですが、教科書にも掲載されるようになります)。また、災害による経済的影響など、人文社会的な側面についても新たに記述されています(改訂版22章(1))。

他に大きな相違点として、第18章 - 第20章(地誌学分野)が挙げられるかと思います。地誌学分野ではここ10年ほどで教員の入れ替わりが比較的大きいこともあり、改訂版では2007年以降に着任された教員の研究成果が反映されていると思います。地域変化の具体例をみるとわかりやすく、旧版では九十九里浜やカンザス州のトピックが提示された(旧版27章)ものの改訂版では大阪の水環境に関するトピックとなっていること(改訂版20章)、また改訂版で新たにオーストラリアが取り上げられるようになったこと(改訂版コラム, 24章)が挙げられます。大阪の水環境については今までも授業では取り扱われていたので、教科書に反映されたことで勉強もしやすくなるように思います。一方、地理学用語としての「地域」(日常語とは必ずしも同義ではありません)の説明(改訂版18章)は旧版26章とほぼ同じであり、地理学の基本事項は今まで通り説明されています。

教科書全体を通して、細かな修正も見られます。個人的には、全般的な話だと、各分野について左ページから解説されるようになったこと、それぞれの章の見出しで横幅いっぱいに線がひかれ、章ごとの区別がわかりやすくなったこと、図表が旧版より大きくなったことは良かったと思います。

個々のセクションについて言及すると、改訂版では「水質」そのものについての説明が充実化したと思います。旧版12章では水に溶けている物質の濃度のことを指すように読み取れますが、改訂版10章では水温や電気伝導度など(水の物理的性質)も水質要素の1つと読み取れますし、水質とは何かについても簡潔に説明されるようになったかと思います。期末試験で水質とは何かに関連する設問があって戸惑った記憶がありますし、定義がはっきり書かれるようになったことで、私が勉強したときよりも覚えやすくなったと思います。

地形学分野で「マスムーブメント」という用語が登場しました(改訂版12章)。今までは侵食プロセスのうち滑動と崩落のみ説明されていましたが(旧版16章)、土砂災害が発生していることを踏まえ、匍行、崩落、滑動、流動の4点について少しは言及が必要ということでしょうか。

ただ、大気科学分野で北極振動についての解説が追加されなかったのは残念に思いました。授業でも1年次から北極振動について取り上げられ、かつ他の専門書でもあまり言及が見当たらないので、教科書に載っていると勉強のうえで有意義に思えます。私自身も試験前などに北極振動について勉強するときに苦労した経験を持つ身です。

また、水文科学分野での水循環についての説明で、旧版では9章, 10章と2つに分かれていたのが、改訂版では8章だけにまとめられ、1つの章で6ページ半となり、おそらく授業も今までは2回で行っていたことを1回に圧縮するだろうと思われます。けっこうハードになるのではないでしょうか。受講生の皆さん頑張ってください。

この教科書は1年次学生向けの教科書ですが、とはいえ改訂版を読んで初めて知った最新の事項もけっこうありましたし、これから受講する1年生は言うまでもなく、地球環境学の授業で単位修得済みの方も一度読み直しておくといいのではないでしょうか。