見出し画像

男のせいにさせて

 私のファーストキスの相手は好きでもない人だった。中学1年生、過ごしやすい秋で、勉強をする為にと一緒に図書館に行った相手。学校でしか会ったことはなかったし、二人で会うのは初めてだった。

この話をすれば、「二人で図書館に行くなんて、もうOKってことでしょ。」とか、「その気がない人と二人で会うほうがおかしい。」とか、そんなふうに言う人もいるだろう。
当時の私は、本当にそんな事、これっぽっちも考えていなかった。何よりそんな事何も知らなかった。ただ、同級生の中ですごく頭が良かったその人に誘われて、賢い人の勉強方法は知りたいと思った。図書館で勉強なら、と母にも許可を取り、父に買ってもらったマウンテンバイクに乗って図書館に向かった。
図書館で英語の勉強をしていると、その相手は私のノートを奪い、端のほうに「SEX」という文字を書いた。私は何のことなのかもわからず、意味を聞いたが、相手は答えず、勉強に戻った。その日にその言葉を知った。
数時間の勉強の後、帰る途中で公園に寄って、二人でベンチに腰掛けた。その後すぐに、急にキスされた。えっ?私は混乱して、マウンテンバイクに跨がり、全力で漕いだ。家について、母の顔を直視できなかったのを今でも覚えている。自分の唇が気持ち悪かった。
キスがどういうものなのか、は何となくわかっていたんだと思う。なんてことしてしまったんだろう。「彼氏」である人とすることじゃないのか?なんでそんなことした?当時は思い悩んだ。

「相手の同意がないにもかかわらず、その意思に反して無理やりキスをした場合、不同意わいせつ罪(刑法176条)が成立する可能性がある。」

今思えば、同意もなく一方的にキスをすることも、犯罪になりうる。ノートにSEXという文字を書かれたこともだ。
警察に駆け込んでも良い出来事なのに、当時は全くそんな発想にも至らなかった。

現代の学生のことは私は知らないが、当時は、犯罪やそれまがいのことが、学生男子の中では日常のようになっていたと思う。このような話は、女友達の間ではよく耳にするからだ。
実際、私自身、”ファーストキス事件”の他にも、いろいろな事件を体験してきた。

私が子供の頃にはまだ、女子風呂覗きとか、スカートめくりとか、そういうのがメディアでは笑いとして使われる風潮がまだ残っていたし、それを見て笑う大人も、それを見て育った子も、まともな感覚であるわけがないだろう。未だに感覚のおかしいままの、告発されていないだけの犯罪者がいくらでも世の中に潜んでいる。告発されていない犯罪がどれだけ潜んでいるか。実際に全てが露呈されれば、私の身近な誰かだって、犯罪者かもしれないのだ。

 かといって告発すれば済むとうわけでもない。実際に危ない目に遭った時、警察が助けてくれるのかといえば、そうではないから。
7、8年前だろうか、もともと友人だった男性から、つきまといやネットでの暴行予告を受け、警察に相談にいったことがある。何の知識もなかった私は、例えば相手への注意喚起なんかをしてもらえると思い、警察署に出向いた。
結果、時系列と起こった出来事(ネット配信で「これから殴り込みに行く」と言われたり、電話番号を公開され、迷惑電話がたくさんかかってきた 等)を伝えた結果、警察には「何も出来ません」と言われた。
(相手の住所、名前もわかっていた。)

その上、簡単にいえば「このまま帰って何かあっても、警察のせいではなく、自らの責任です。警察署はシェルターの案内をしてくれましたが、それを断ったのは私です。なにかあっても自己責任です。」というような内容がしつこいほど書かれた用紙にサインをさせられ、時間が奪われただけだった。
実際にシェルターの案内は受けた。しかしながら、毎日働きながら利用することは難しい条件だったので、利用することが出来なかった。

結局、自分で身を守るしかないのだ。
「自意識過剰」とか「考えすぎ」とか「大げさ」とか
「自慢話か」とか、何を言われても自衛するしかない。

夜道で背後を歩く男性を警戒するのも、電車でとなりに男性が座ることに警戒するのも、エレベーターで男性と二人にならないようにすることも、必要以上に愛想よくしないことも、髪を刈り上げたり、派手な色にする人、露出を控える人、皆それぞれの自衛がある。

全ての男性が悪いなんて全く思っていないけど、男のせいにさせてほしい。皆好きに自衛させてあげて欲しい。こんな世の中だから。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?