残響

まだ少し肌寒い風と

春が近づいてきていることを知らせる

柔らかな日差し

小さなアパートの部屋には南向きの窓があって

白く薄いカーテンが隙間風に揺れている

ここにいると懐かしいような

まだ馴染めていないような

そんな不思議な気分になる


ここは私が母親と暮らす家

父親はいつの間にかどこかへ消え

代わりに少し若い彼氏ができた

このアパートには

リビングの隣に子供部屋があって

そこには母がどこからか連れてきた

少年が住んでいる


私は内気で臆病な性格で

ごめんなさいが口癖で

今まで母の言葉通りに生きてきた

いつからか母はどこからか

身寄りのない少年少女を

家に連れ帰ってくるようになった

彼らに共通するのはとても素直で真面目なことで

一体どこからこんな”いい子達”

を連れてくるのか分からないが

しばらく子供部屋に住まわせた後

また知らぬ間に彼らは姿を消した


母はのめり込むと周りが見えなくなる性格で

母の機嫌を損ねると

自分もあの子供部屋の彼らのように

ある日突然消されてしまうのではと怖くなる

何を考えているのか分からない人だった

私は母が一体何をしているのか

気にならない訳ではなかったが

あまり深く踏み込んではいけないような気がして

何も聞かなかった、聞けなかった

母の感情を逆なでるリスクを犯してまでは

何事にも興味を抱けなかった


そんな中、事実は突然明るみにでる

母が家を留守にしている時

対して注意を向ける訳ではないが

気を紛らわすためにつけていた

テレビからあるニュースが流れてきた

それは近頃私立中学校の生徒が

行方不明になる事件が多発している、

というものだった


まさか、と思った

情報提供のために画面に映し出された

行方不明の生徒の顔には皆見覚えがあった

そしてその中には

今現在もこの家に住んでいる少年の顔もあった


想像していたよりも遥かに

ヤバイことに母は手を出しているようだ

今まで家で過ごし姿を消していった彼らは

今一体どこで何をしているんだろうか

そもそも生きているのだろうか

色んなことが頭に浮かんだが

結局その後も母に真相を聞くことは

できなかった


今までと何も変わらない毎日が続く

母の彼氏が週に2回ほど家に来て

他愛もない話をして帰っていく

子供部屋には例の少年が1人

強制される様子もなく勉強机に向かっている

私は出来るだけ存在を消しながら

母の機嫌を損ねないように

最低限の家事をこなす

今までと何も変わらない毎日


そこに突然インターフォンが鳴る

モニターに映るのは母の彼氏

いつもの顔を確認して

いつものように鍵を開ける


しかし今日の彼の様子は少し違った

いつも穏やかで良い意味でも悪い意味でも

何にも考えていなさそうな彼が

見たこともない真剣な顔でこう伝える

今家が警察に囲まれている、と

警察が追っているのはお前の母親で

お前と少年は保護したいと言っている

だから今すぐ家を出て警察の元に向かえ、と


ああ、ついにこの日がきたんだなと思った

私は自分の意思などなく

ただ母の機嫌を損ねないよう生きてきたので

私がこの先どうなるかということよりも

母が暴れ出すのではないかと怖かった

思えばなぜこんなにも母に対して

畏怖の念を抱いているのか

その理由はわからない

ただ母に目を見つめられると

体が固まって動かなくなるのだ


母はこちらを見もせず背中越しに

私の名前を呼んだ

それだけで背筋がゾクッとする

6時になったら家を出なさい

何の感情もこもっていない声で

そう言われ時計を見ると5時55分

大丈夫だから、と母の彼氏は私の手を握る

母はぶつぶつと独り言を言いながら

立ち上がり簡易的な仏壇に置いてある

りんをチーンと鳴らした


その瞬間全ての記憶が蘇る

母は毎回育ちの良さそうな子供を

連れてきては家に住まわせ

飽きるとチーンとりんを一度鳴らし

その部屋を燃やし命を奪うのだ

それが母の中でどんな意味を成すのか

検討もつかないが確かにそうしていた

私にはショックが大きすぎて

記憶から消してしまっていたが

この音を聞くと思い出す

この部屋に何となくまだ

馴染めていないような感覚になるのも無理はない

部屋を燃やす度に新しい家を探していたのだ

私はいつも母の言いなりで

言われた時間になると家を空け

その間に母は子供達の命を奪っていたのだ


時計は6時を指した

色んな情報がフラッシュバックされ

立ってることもままならなかったが

母の言うことは絶対だ

私は何も考えず玄関に向かい家を出る

記憶からは消えてしまっているが

きっと何回もそうしてきたように


母は結局一度もこちらを見なかった

チーンと鳴ったりんの響きが余韻を残していた

家を出る際に子供部屋を覗くと

何も知らない少年が机に向かっていた




ここで終わった私の2022年初夢

は?


実家はアパートでもないし

母に若い彼氏はいないし

もちろん知らない少年も見かけたことはない

何にも思い当たる節はないのですが

とりあえずカミカワユウナの周りでは

今年超大作ミステリーが

展開される可能性があります


みんな今年は私のこと見逃せないね










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