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銀河商店街【おとなのためのSFファンタジー #2】

ようこそ!
こちらは「おとなのための、創作小説」です。
ほんのひととき、
ちょっぴり不思議な世界を
お楽しみください。

今回のおはなしは
「銀河商店街」
です。

では、いってらっしゃいませ。

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銀河商店街

 
 また目が覚めた。もう何年も、夜中に目覚めてそのまま眠れない日が続いている。
 わたしはゆっくりと体を起こし、その姿勢のまま横にぐるりと九十度回転してベッドの端に腰を掛けた。開け放した窓からは月光が差し込み、薄いカーテンの影を床に細長く転写している。風が吹くたび、影絵の中のカーテンは海の底でゆらめいている海藻のように身をくねらせた。

(外が明るいのは、今日が満月だからかな)

 そうつぶやいた途端、何かがわたしを急き立てた。体に巻き付いたシーツを脱ぎ、夜具を着たまま、カーテンを開け、窓枠を乗り越えて外へ出た。月明かりがわたしを誘ったのだ。

 夏だというのに、ひんやりとした空気が月下の世界に満ちていた。わたしはあてもなくふらふらと歩を進ませた。不思議なことに、虫の声ひとつ聞こえてこない。いつもならどこかでお酒を飲んで帰ってきたであろう人々の賑やかな(言い換えると五月蠅い)笑い声が聞こえてもおかしくないのだが。

(誰もいないなんて…考えたら怖くなりそう。考えないようにしよう)

 少し不安に感じて辺りを見回した後、ふと足元に視線を下ろすと、裸足のまま出てきてしまったことに気が付いた。
「あっ、わたし、裸足で来ちゃった。何で気付かなかったんだろう」
 思わず声に出てしまった。再び辺りを伺うと、誰もいないことに今度はほっとした。そして、冷たくふわっとした土の感触が何とも心地よかったので、わたしはそのまましばらく歩いてみることにした。

 月光を全身に浴び、ささやかな風に身をゆだねながら、身体が動くほう、足がのびゆくほうへと優雅なダンスのごとく流れていく。月明かりのお散歩とはなんて贅沢な遊びだろう。いつの間にか遠く、遠くへ来てしまっていることは分かっていた。それでもなぜか時間の流れが緩やかであるように感じられ、散策に興じるこの時間を、睡眠よりも貴重であると心から喜ぶのだった。振り返ってもと来た道を戻るという選択は、わたしには無かった。

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