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場による微分なんか怖くない!

【要約】
「場による微分」で悩んだらこの記事を見て!
汎関数微分は離散化して考えれば迷わない!

あなたは迷ったことはないだろうか。
たとえば場の古典・量子論において、場$${\phi(x),\pi(x)}$$(両者は独立とする)の以下の積分

$$
\int dx\ \pi(x)\partial_x \phi(x)
$$

を$${\phi(x)}$$で微分せよ、と言われたらどうするか($${\partial_x:=\partial/\partial x}$$)。
私は迷った。
つぎの疑問が頭にうかぶのである:
(以下場や微分の引数を省略することがあります。また場は積分の境界でゼロであるとして、部分積分の表面項は落とします)


  1. $${\partial \phi}$$を$${\phi}$$で微分するとどうなるのか。$${\phi }$$を消して"$${\partial}$$"になる?(意味わからん!)それとも$${\partial \phi }$$は$${\phi  }$$と独立だと思ってゼロ?

  2. 部分積分したら$${\int dx \ \pi\partial\phi = -\int dx \ \phi\partial\pi}$$となるので、不定性があるのでは?

  3. そもそも積分はどう扱えばよい?


これらに答えよう。

偏微分 or 汎関数微分

まず重要なのは、偏微分なのか汎関数微分なのか、という区別。以下のようにして見分けよう:

  • 偏微分: 場の引数を無視して微分する。$${\partial/\partial\phi}$$のように書く

  • 汎関数微分: 場の引数、微分、積分は重要。違う引数の値の場は独立だとして微分する。$${\delta/\delta\phi(x)}$$のように書く。微分する場の引数を明示する必要がある。積分された関数を微分すれば積分が取れ、積分されていない関数を微分すればデルタ関数になる(のちに例を見る)

これをちゃんと見分けよう。
 そのうえで...

偏微分のとき

このとき、場の時空依存性は無視する。
積分の外から微分しようが、中から微分しようが関係ない。
そして、場で偏微分する際には、何が独立変数であるかを明示する必要がある
ふつう場を微分した$${\partial\phi}$$と$${\phi}$$は独立である(はず)。
そうなら

$$
\frac{\partial}{\partial \phi}(\partial\phi)=0
$$

もし何が独立変数なのか明示されてないのなら、それは明示してないほうがわるい。テスト問題でそれが指定されてないのなら、問題作成者の落ち度である。

例えば古典場$${\phi(x)}$$に対するEuler-Langrange方程式

$$
\partial_\mu\frac{\partial {\cal L}}{\partial (\partial_\mu\phi)}-\frac{\partial {\cal L}}{\partial \phi}=0
$$

を計算するとき、$${ {\cal L}={\cal L(\phi,\partial_\mu\phi)}}$$(いま$${t}$$には陽には依存しないとする)のように、何を独立変数とするかをちゃんと指定すべきである。"$${\phi}$$での微分"とは、「$${\cal L(\cdot,\cdot)}$$の1番目の引数に関する微分(上記の$${{\cal L}(\phi,\partial\phi)}$$のとき)」という意味だし、"$${\partial\phi}$$での微分"とは「$${\cal L(\cdot,\cdot)}$$の2番目の引数に関する微分」という意味である。場が微分されていることを気にする必要はない。そういう記号だと思って、記号が違う変数は独立変数だとみなすべきである。
まあ、E-L eq.に関してはあまりによく使うので、独立変数が何かを明示的に示さないこともあるが、本来はちゃんと示すべき。
部分積分もしてはいけない。あくまでそこで与えられた関数を、その変数で微分するべきである。(部分積分しても問題ない場合もあるけど)

汎関数微分のとき

このとき場$${\phi(x)}$$の引数が重要である。汎関数微分は、連続変数の各点の場を独立だとみなして微分する操作である。
定義は以下である:

$$
\frac{\delta F[\phi(x)]}{\delta \phi(y)}=
\lim_{\epsilon\rightarrow 0}\frac{F[\phi(x)+\epsilon\delta(x-y)]}{\epsilon}=
\frac{d}{d\epsilon}F[\phi+\epsilon f]|_{\epsilon = 0}
$$

$${F}$$は$${\phi}$$に依存する汎関数(関数から数への写像)である。

しかし、こんな定義は忘れよう。そして離散化して考えよう
積分は和にして、微分は前後の場の値の差にしておく。
こうすると、汎関数微分が単なる偏微分になる。
こうして計算すれば、あなたは全ての悩みから解放される。

いくつか計算例を挙げよう。
[例1]

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\phi(y)
$$

これを計算するとき、$${x\rightarrow i, y\rightarrow j}$$($${i,j}$$は整数)と離散化し、さらにふつうの偏微分とみなそう。ちなみに離散化は何を採用してもよい(ただし最後に連続極限に戻すときは、展開したときのオーダーと整合的にしてください)。:

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\phi(y)\xrightarrow{離散化}\frac{\partial}{\partial\phi_i}\phi_j=\delta_{ij}\\ \xrightarrow{連続極限} \delta(x-y)
$$

とすればよい。$${i,j}$$の足が残っていることに注意せよ。

[例2]

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy\ \phi(y)
$$

は上記の操作をすると

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy\ \phi(y) \xrightarrow{離散化}\frac{\partial}{\partial\phi_i}\sum_j\phi_j=\sum_j\delta_{ij}=1\\ \xrightarrow{連続極限} 1
$$

[例3]

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy\ \phi(y)^2
$$

なら

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy\ \phi(y)^2\xrightarrow{離散化}\frac{\partial}{\partial\phi_i}\sum_j\phi_j^2=2\sum_j\phi_j\delta_{ij}=2\phi_i\\\xrightarrow{連続極限} 2\phi(x)
$$

[例4]

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy\ \pi(y)\partial_y\phi(y)
$$

を考える。離散化に際し、1階微分を中心差分とする:

$$
\partial_y\phi(y)\xrightarrow{離散化} (\phi_{j+1}-\phi_{j-1})/2
$$

すると

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy \ \pi(y)\partial_y\phi(y) \xrightarrow{離散化} \frac{\partial}{\partial\phi_i}\sum_j\pi_j(\phi_{j+1}-\phi_{j-1})/2\\ = \sum_j\pi_j(\delta_{i,j+1}-\delta_{i,j-1})/2\\ = (\pi_{i-1}-\pi_{i+1})/2\\ 
\xrightarrow{連続極限} -\partial_x\pi(x)
$$

となる。一方で最初に部分積分をすると

$$
\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy\ \pi(y)\partial_y\phi(y)=-\frac{\delta}{\delta \phi(x)}\int dy \ \partial_y\pi(y)\phi(y)\\ \xrightarrow{離散化} -\frac{\partial}{\partial\phi_i}\sum_j\phi_{j}\left[(\pi_{i+1}-\pi_{i-1})/2\right]\\ =-(\pi_{i+1}-\pi_{i-1})/2\\ \\ \xrightarrow{連続極限} -\partial_x\pi(x)
$$

このように、部分積分と整合的である。

[例5]

$$
\frac{\delta}{\delta\phi(x)}\int dy \ \phi(y)\partial_y\phi(y)
$$

$$
\frac{\delta}{\delta\phi(x)}\int dx \phi\partial\phi\\ \xrightarrow{離散化}\frac{\partial}{\partial\phi_i}\sum_j\phi_j(\phi_{j+1}-\phi_{j-1})/2\\=\sum_j\left(\delta_{ij}(\phi_{i+1}-\phi_{j-1})/2+\phi_j(\delta_{i,j+1}-\delta_{i,j-1})/2\right)\\=\left((\phi_{i+1}-\phi_{i-1})/2+(\phi_{i-1}-\phi_{i+1})/2\right)=0
$$

ゼロになるのは、$${\phi\partial\phi=\partial(\phi^2)/2}$$のように、被積分関数が表面項だからである(場は積分の境界でゼロであることを仮定しています)。

[例6]

$$
\frac{\delta}{\delta\phi(x)}\int dy \ \partial_y\phi(y)\partial_y\phi(y)
$$

を計算する。

$$
\frac{\delta}{\delta\phi(x)}\int dy \ \partial_y\phi(y)\partial_y\phi(y)\\\xrightarrow{離散化}=\frac{\partial}{\partial \phi_i}\sum_j\frac{(\phi_{j+1}-\phi_{j-1})}{2}\frac{(\phi_{j+1}-\phi_{j-1})}{2}\\=2\sum_j\frac{(\delta_{i,j+1}-\delta_{i,j-1})}{2}\frac{(\phi_{j+1}-\phi_{j-1})}{2}\\=\{\frac{\phi_i-\phi_{i-2}}{2}-\frac{\phi_{i+2}-\phi_i}{2}\}\\=((\partial\phi)_{i-1}-(\partial\phi)_{i+1})\\=-2\frac{(\partial\phi)_{i+1}-(\partial\phi)_{i-1}}{2}\\=-2(\partial^2\phi)_i\\ \xrightarrow{連続極限}-2(\partial^2\phi)(x)
$$

となる。一方、先に部分積分をすると

$$
\frac{\delta}{\delta\phi(x)}\int dy\ \partial\phi\partial\phi=-\frac{\delta}{\delta\phi(x)}\int dy\ \phi\partial^2\phi\\\xrightarrow{離散化}-\frac{\partial}{\partial\phi_i}\sum_j\phi_j(\phi_{j+1}+\phi_{j-1}-2\phi_j)\\=-\sum_j\{\delta_{ij}(\phi_{j+1}+\phi_{j-1}-2\phi_j)+\phi_j(\delta_{i,j+1}+\delta_{i,j-1}-2\delta_{ij})\}\\=-(\phi_{i+1}+\phi_{i-1}-2\phi_i)-(\phi_{i-1}+\phi_{i+1}-2\phi_i)\\=-2(\phi_{i+1}+\phi_{i-1}-2\phi_i)\\ \xrightarrow{連続極限}-2(\partial^2\phi)(x)
$$

よって、これもまた部分積分と整合的である。

このように、離散化して各点の場が独立だと思って計算すれば、微分や部分積分の不定性などに惑わされず整合的に計算ができる!

以上まとめると、場の関数の微分に関して


  1. まず偏微分なのか汎関数微分なのか把握せよ。

  2. 偏微分:時空の引数無視。独立変数を明確に指定する必要がある。

  3. 汎関数微分:時空を離散化し、各点の場が独立だとみなして、ふつうの偏微分だと思って計算すればよい。積分も微分も離散化する。(最後に連続極限に戻す)



知っている人にとっては当然でした。失礼しました。

おしまい。


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