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水星の魔女のラスト解説 【ペイガン】

中世ヨーロッパ話が一部でウケたので中世ヨーロッパ話の農業の話や食の話をしようかと思ったのだが、悪辣な中世ヨーロッパ警察は水星の魔女人気を借りて中世ヨーロッパの認知を高めるべく暗躍するかなどと考えた。

いいか、中世ヨーロッパの農村部やビンボ人が食ってたのはパンではない。

中世ヨーロッパ風世界の創作してる趣味人の中でも真面目に麦粥出してるのはワイと僅かな同志だけである。

パン焼き釜作ると税金取られたり作らせてもらえなかったり、そもそも小麦の反収がショボすぎて口に入らなかった中世盛期の農民はパンが食えたら御の字なのである(四葉タトは良く覚えておけ)しかもカマドが無く直火か熾火で加熱が基本だから奴らの飯は大体シチューか麦粥だ。この話は皆が興味を持ったら別項で書こう。中世ヨーロッパで狼がやたら出て来るのは……実は小麦耕作と料理に関連している。いやマジで。

暇な人はこちらの書きかけ小説で予習するが良い。当方、ガチめの中世ヨーロッパには少々煩い。

で、よーやく話は水星の魔女に戻る。
何故、魔女は辺境にいるのか? 都会に住む魔女の話は余り聞かないだろう? 魔女の宅急便でもキキは田舎から出てきた。何故だろう?

ワイは非キリスト教徒なので知ったこっちゃ無いが、キリスト教徒にはショックな話になる。対ショック姿勢を取れ……

中世ヨーロッパの悲劇はキリスト教という中東原産宗教を主要宗教にした点にある。

キリスト教ってパンやワインが儀式で使われるやろ? パン作るのに使う小麦は西アジア原産じゃ。しかも米(稲)と違い反収が物凄く低く連作障害がある。この為ヨーロッパで小麦作って主穀にすると労力の割に養える人口が少なくなり、領土戦争仕掛けてキンキンカンカンバンバンバンなのである。パンにせず麦粥で食うなら生産性が小麦より高い大麦で良かったのだが、美味いもん食ってから毎日麦粥は酷すぎるワケよ。ヨーロッパの連中キリストさんを白人と勘違いしてるが、あの人今のイスラエル辺りで生まれたバリバリの中東っ子ですよ? 文化も人種も言葉も違う人の言葉を何故信じたのか?(まぁ、我々もかなりの部分をインド人の作った仏教っちゅー宗教にやられてしもてる訳だがな! リアルお釈迦様はバーフバリみたいな濃い顔だったかもしれんやで!)

で、初期キリスト教は当時から割と嫌われてた?ユダヤ教の分派である。ユダヤ人は旧約聖書見ても分かる通り当時大正義大文明圏であったエジプトで揉めてエクソダスしてるし、そっから分派したキリスト教はローマ時代は新興宗教だ。教祖様死刑判決受けてるしな!(涙)
故に初期キリスト教は闇に隠れて生きていた。マジでマジで。十字架マークは目立つから、お魚マークを旗印にしてた。

ミラノ勅令以前はキリスト教は弾圧対象で処刑もあったかんね。
で、この新興宗教がローマの国教となってしもた! ががーん!
なんせちょい前まで弾圧される側の新興宗教で闇に隠れて生きていたもんだから、キリスト教に酒じゃー飲めー歌えーのどんちゃん騒ぎはない。近隣住民に通報されてしまうからな!

当然経済は冷え込む


で、気が付いたら西ローマ帝国は滅んでました(真顔)

こっからが問題なんだが……ユダヤ教は最後にはユダヤ人(ユダヤ教に帰依した人)のみが救われるので積極的に宗教勧誘をしない。改宗も結構厳しい。で、キリスト教飛ばしてその先で分派したイスラム教も布教をしないのである(こちらは明確に布教は戒律違反であると定めている)
キリスト教のみが布教を善行として奨励している……何故かといえば新興宗教で弾圧対象だったから積極的に勧誘していかないと宗門が途絶えるんだわ。

ローマ帝国が存在してた時期は良かったが、西ローマが滅んでからは後ろ盾となる権威も無く(異教徒からしたらバチカンにいる法王も白い服着たおっちゃんに過ぎんしな)、布教が善行だとしても中々布教が上手く行かなかった……東と南はイスラム教に押さえられてたから西と北に行くしかなく、そしてその地は修羅の国であった(真顔)

いやもうガチで。右の頬を打たれたら左の頬を差し出しなさいの隣人愛を説くキリスト教徒が教化に出向いたとするならば、なんだこいつ弱っちいな、身ぐるみ剥いでしまえ!な土地ですよ。バイキングなんかも最初から略奪したがる訳ではなく、普通に交易に出向いて「襲ったら制圧出来そうだったから襲いました。儲け儲け♪」とルンルンランラン略奪した連中だと聞く。ナチュラルにみんな野盗気質。それで勇ましく戦って死ぬのは誉じゃ、死んだらヴァルハラ行ってもう死なないから戦いたい放題じゃ!でウホウホしちゃう連中ですからね。まぁとりあえずヴィンランド・サガを読め。あれに出て来るトルケルって実在の人物だからね!(あそこまで酷くは無いと【思いたい】が)

運良くフランク王国のクローヴィス王の教化には成功したものの、キリスト教にとっては苦難の日々は続く。王侯貴族は王に阿りキリスト教徒になるのだが、まずこいつら字が読めない(涙) じゃけん説法とかミサやるんだが、元は闇に隠れて生きてた質素倹約大好きな宗教だもんだから盛り上がらない。ワインは出るが酔っ払いまくると叱られる。しかも聖書の内容が割と地味。彼らの元の宗教では神様が凄い強いので凄い強い敵をパンチだキックだ雷だ!でぶっ潰す痛快「神Tueee!」物語ですからね。で、キリストさんは炎の巨人や山ほどの大きさの狼と戦ったりしねぇの?って感じですわ。そらまぁ「小説家になろう」やカクヨムで新約聖書連載しても読者は付かんわ。

という訳で、ローマがあった辺りや王侯貴族のお膝元では「それなりに」キリスト教は流行ったが、田舎に行けば行くほどキリスト教は流行らなかった。地味だからである。と、ここまで説明して「ペイガン」という言葉が出て来る。

大元の意味は田舎もんとか辺境の人であり、大体はキリスト教の教化がびっくりするほど遅れて過去の土着宗教が残る地である。その為後にこの語は邪宗の輩とかそういう意味を持つ様になった。
更に言えば、最初に書いた小麦を主穀にしたツケがある……小麦は反収(単位面積あたりの収穫量)が低く、三圃式とかで休耕しないと地力が回復せずに連作障害が起きる。つまり多くの人が食って行けるだけの小麦作ろうとしたらやたら広い土地が必要で、だから故に農村部はやったら広い耕作地を少数で管理する形になり、都市部みたいに一ヶ所に人集めて説法し難いの! 更に言えば小麦原産地はコーカサスからメソポタミアにかけてのエリアで……

このへん

エジプト、ギリシャ、トルコ、イラク、イタリア、フランスの南とかはいい。だがドイツとかポーランドなんか寒過ぎて小麦作りに適さぬ。しかも基本バルバロイだから品種改良とかも無理無理の無理ですわ。おドイツ様が黒パン食うのも無理からぬ話である(黒パンはライ麦で作る。グルテンが少ないから余り膨らまず、酸っぱくて硬いの……)

ジャーマンの魂の味

転生七女で黒パンsageしてるのを見てワイは地味に怒った。領主が黒パン食う=領地は小麦の栽培に適さないであり、領主が黒パンなら領民はライ麦かオーツ麦のお粥食ってんぞ? モンゴル襲来後なら蕎麦の実という可能性もある(あれも寒さに強く荒地で育つ)
どこでも楽に小麦が作れる訳では無い。作物には栽培に適した土地がある。黒パンが贅沢品であると言う可能性を無視してはいけないし、白パン(小麦粉で作ったパン)がヨーロッパで庶民も食える様になったの中世末期まで待たなければいかんのよ。それまでは良くて黒パン(パン焼き釜作ると税金取られるし、領主の館のパン釜借りたら金取られるしで散々だ!)あとは麦粥ですわ。尚、オーツ麦とかオートミールという奴は日本語だと燕麦といい、下手すっと馬の飼料になる奴です。

この辺見て「わぁヨーロッパって昔はとんでもねぇ田舎だったんやな!」と思うのも良いが、日本も浴びるほど白米食ってたの江戸庶民ぐらいで、農村部……特に水捌けが良過ぎる関東ローム層にあり水源から遠い世田谷や杉並の辺りの農民は第二次世界大戦の頃まで普通にヒエや粟、小麦大麦蕎麦食ってたんよ。軍隊に行くと白米食えるって特典があって、農家の次男坊以下はみんな兵隊に行くのもそんな事情があるからだ。今は雑穀としてヘルシーかつ高額な雑穀さん達だが、当時は悲しみの主穀だったんよ……

前にロシア出身のユーチューバーだかが蕎麦は苦手って話してて、ワイは一瞬怒りかけたが後段聞いて涙した。ロシアがビンボだった時期に蕎麦の実の粥散々食って嫌になったんだと。それを(命を繋ぐ為に)【食わねばならない】という状況はお辛い。

と、悲惨を煮詰めてドロドロにしてニガヨモギを散らした様な中世ヨーロッパの農村部は悲惨な訳ですよ。その鬱屈した生活を年8回ある春分、夏至、秋分、冬至とそれぞれの中間点であるクロスクウォーターデイの祝祭で紛らわせてきたヨーロッパの民衆に、キリスト教徒は質素倹約で乱痴気騒ぎ無しの生活を求めた。

受け入れられる筈がない


いやほんと、千年近くかかってる。今ではキリスト教のお祭りであると認識されてるクリスマスやハロウィンも、中世ヨーロッパの民衆をキリスト教に帰依させる為に元あった現地の祝祭を取り入れたものである。ガッチガチにガチなキリスト教会ではクリスマスにターキー焼いてケーキ食わんぞ。静かにミサやって讃美歌歌うんよ。

で、中世ヨーロッパの田舎の方ではこの様な理由でキリスト教以前の習俗が残り、医者や教師もおらんから老婆が昔からの知恵で色々な難事に対応していた。
多くの農村では燃料となる薪を必要とする関係で森や林に隣接した地に家を建て、動けるもんは家の近くの広大な小麦畑に散って農作業。ババアは森や林の近くであるが故に薄暗い家にいて、仕方ないから鍋に作ったシチューを焦げ付かせない様に混ぜ混ぜしている。光源は鍋の下の熾火か暖炉の明かりで下側からババァの顔を下からライトアップ。不思議なことに他の家人は見当たらない(畑で腰を折り、散開して農作業してるからな!)

その「皆んなが働きに出てる中、シチューを焦げ付かせない様にゆるゆる混ぜてるバーちゃん」を都会のキリスト教徒の偏見フィルター付きで見ると魔女のバァさんが出来上がるという寸法だ。しかもこのバァさん、怪しげな術で惚れ薬(精力剤として蜂蜜酒飲んでた時代やからね。蜂蜜酒飲んで子作りに励む月だから「ハネムーン(honey moon)」と言うんやで)作ったり病気や怪我を癒すという。所謂民間療法であるが、都会の医療もローマやギリシャ時代から然程進化せず、四体液説が全盛で【なんかあったら瀉血する】というガバガバも極まる状況だから救えない。

瀉血の図

と、言う訳で魔女は田舎の農村に居るのが当たり前なのである。キリスト教徒側から見たペイガン──田舎に住み邪宗を信仰する老婆とは、単に教化が進んでないエリアで体悪くして、薄暗い農家で家族が飯食いに戻るの待ちつつシチュー混ぜてるばーちゃんだもの。

で、スレッタは学校作ろうとしてるだろ? これはつまり学習支援に見せかけた「正統宗教への教化」であり、スレッタはペイガニズムを捨ててキリスト教に宗旨替えしやがったという事である。(実際フランシスコ会とかドミニコ会という修道会が学校建てて教化を図った事例はあるし、日本にもあるミッションスクールって「そういうモン」だ)

物語中、ガンダムは全て粒子に還り、魔女プロスペラは身体を悪くして田舎の農村部で余生を過ごす。スレッタの相方であるミオリネの父はドミニコ会を模したドミニコス隊元指令で権力者であり、アスティカシアという「正統宗教の国」と取れる学園の理事長だ。多分枢機卿とか次期法王狙えるぐらいの権力者であろう。

水星の魔女が中世ヨーロッパの魔女の実態を模した物語であるならば、もうこの話はこれで終わりであると見て良いだろう。中世が終わり近代に進む道は逆行しないのである。(多分基礎設定作ったグループだかの構成がめっちゃ良くできてだんやろな的な……ワイは「レイピアは中世ヨーロッパの決闘で用いられた云々」のトンチキかましたのはナノ河内本人だと睨んでるし、あいつマジでバカ田大学卒業生並みにコモンセンスが無いからな。なんで富士見書房でドラマガのバイトしてた奴が中世ヨーロッパ関係知識が壊滅的に無いのか不思議でしゃーない)

方針変えて、noteでの収益は我が家の愛犬「ジンくんさん」の牛乳代やオヤツ代にする事にしました! ジンくんさんが太り過ぎない様に節度あるドネートをお願いしたいっ!