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竜の読書術

これを受けて

「若いモンはええのぉ……」

 読書好きな竜、フラマルラゴーン(1241歳8ヶ月)は心底羨ましそうに溜息をついた。彼も若き日には自ら本を読んだ。その頃は人間の書く「本」というものは羊皮紙で作られており頑丈で、その上大判だったのだ。若き竜だった彼の爪も今と比べて細く鋭く、アルベルトゥスやプラトンを心ゆくまで楽しめたものだった。しかし人間は…あのグーテンベルグの奴めが生み出した活版印刷! あれは良くない! 紙は竜がページを捲るには余りに薄く、柔らか過ぎた。本自体も小型化して文庫などという極小サイズの本はフラマルラゴーンの爪先ほどの大きさしかない。読書、つまりは知識の吸収が大好きな竜種にとっては死活問題だ。燃えやすいのも難点だ、何十年かぶりに鼻がムズムズしてクシャミをした時、ついうっかり炎まで吐き出してコレクションしていた紙の本が灰燼に帰した時は男泣きに泣いた。ヒュージドラゴンの眼にも涙、ドラゴンとて趣味の品が失われたら泣くのだ。

 何百年かは塗炭の苦しみを味わった。余りの辛さに不貞寝をして目覚めた時、目の前にはGoogle マップのストリートビュー撮影ユニットを背負った山男がいた。彼が大変に有能だった。世界を変えたと言っても過言ではない。

 数年前、Googleが「この世にある全ての書籍を電子化する」と言い出したのも、実はフラマルラゴーンからの申し出を受けての事だ。電子化してしまえば読み上げ自体はプログラムで実行できる。その様にして人類の叡智をフラマルラゴーンに提供するのとバーターで、Googleは竜の持つ太古の知識を手に入れた。実は音声入力プログラムの急速な発展は、フラマルラゴーン氏の少々聞き取りにくいラテン語の認識能力を高めていった副産物だ。ここだけの話、竜の話すラテン語に限って言えば音声認識精度はなんと99.9891%に達している。フラマルラゴーン氏の専用ハンドヘルド端末はデジタルサイネージ用タッチパネルを改造したものだ。今はパネル9台を連動させて更に大画面を構成できないか研究中である。

「さぁ、アレクサ。今日も読書を続けよう」

 薄暗かった洞窟はLEDライトで明るく照らし出され、プロジェクションマッピングで静かな森の中の景色を映し出している。プログラムが読む古典にフラマルラゴーンは耳を傾け、彼の知る版との差異があればその旨音声入力でメモを残す。フラマルラゴーンはノイマンが姿を変えて人間に知恵を授けた竜族の1人と信じて疑わない。ありがてぇありがてぇ。フォン・ノイマンとITに竜神の祝福を!

 ITにより、Googleとフラマルラゴーンは互いに「また別のアーカイブ」を手に入れたのだ。

方針変えて、noteでの収益は我が家の愛犬「ジンくんさん」の牛乳代やオヤツ代にする事にしました! ジンくんさんが太り過ぎない様に節度あるドネートをお願いしたいっ!