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中世ヨーロッパの決闘についてー

中世ヨーロッパ警察おじさんは激怒した。必ず、かの無知蒙昧むちもうまいの「ナーロッパを現実の中世ヨーロッパと勘違いする連中」を除かなければならぬと決意した。中世ヨーロッパ警察おじさんには歴史がわからぬ。中世ヨーロッパ警察おじさんは、村の牧人である。超戦術級シミュレーションゲームを楽しみ、メタルフィギュアと遊んで暮して来た。けれども中世ヨーロッパ時代の兵装に対しては、人一倍に敏感であった。

という事で中世ヨーロッパの決闘について書く。前回中世ヨーロッパについての言及した際に、実は鋼がヨーロッパで量産できた時期が日本人視点だと滅茶苦茶遅いとか、戦争での闘い方が変化した結果として兵装が変わって行ったという話は前段として押さえておいて欲しい。

その上で、だ。
創作で中世ヨーロッパ臭いナーロッパを舞台にして近世ヨーロッパ風の決闘をやっても構わないとゆーか、現実の中世ヨーロッパにおける決闘をやっても構わない。ナーロッパに限らず大体の大衆向けエンタメは時空間がバグっているのが当然だからだ。面白いのが前提で、リアルな話や歴史を加味した考察が面白さを生むならそれはそれで良いが、資料漁ったりちゃんとした歴史考察したら話が面白くなるとは限らない。その辺は私もちゃんと理解している。
しかし、バグりまくったナーロッパベースの知識を安易に「中世ヨーロッパでは〜」というなら話は別だ。現実世界の中世史を学び直してこい。ナーロッパ物語をなんぼ読んでも中世ヨーロッパは理解できぬ。司馬遼太郎で歴史を学ぶが如きだ。

で、前回中世ヨーロッパの起点は西ローマ帝国崩壊後という話をした。この崩壊もまた、ゆるゆるとずるずるべったん気味に続いて「いつ終わったのか諸説ある」案外地方行政などはローマ式で続いたし、領土や首都も奪われたり奪ったりするの。ある時決定的な何かでローマ帝国が滅亡した訳ではない。まぁ大体5世紀頃にはほぼほぼ終わっていて、その辺から中世ヨーロッパが始まるというのが今の所の学説だ。

この頃になるとローマからの締め付けは弱く、物流(ローマは街道整備して物流を確立していた!)が崩壊気味でヨーロッパ南部はかなり大きな文化的後退を余儀なくされた。文化、技術、その他諸々のギリシャ・ローマが作り上げてきたものがヨーロッパ中・北部では保存されず、てーか北部ヨーロッパはローマの昔から割とウホウホ気味であった。言わば蛮族である。その為多くの人は終末期にローマ帝国国教になったキリスト教を知らず、彼らが持っていた土着の信仰に帰依して生きていた(さりげなく重要)

で、この筋で決闘裁判なるヴァンダルな事例が出てくるのである。

元々ゲルマンとかローマ北方域の蛮族さん達の中には、「神様はいつも俺ら見ててくれるから、決闘すると正しい方が神様の加護を得て必ず勝つ」という狂った価値観があったのだ。よって紛争解決に裁判という文化的なやり方を取るにも関わらず、「裁判結果に不服なら決闘して神様に判断してもらってもえーよ?」という呆れたルールがあるの(しろめ

という事でこういう決闘裁判なる奇習が生まれるのだが、当初は当時の軍装……つまり、鎧兜に剣やメイスや盾持って、タイマンでガチ勝負するのである。

ヘビーファイトの図

創造的アナクロニズム協会(SCA)という組織がやってるヘビーファイトみたいな戦いだ。このSCA、中世ヨーロッパの風俗を再現して保存してる人達で、この様な組織は意外と世界各地にある(オランダ辺りではヨムスヴァイキングのコスプレ集団もいる)

普通は?中世ヨーロッパというと最盛期である10〜11世紀ぐらいをイメージするのだが、何故か日本のファンタジー好きはもっと後期(400〜500年後!)を中世ヨーロッパのコアと考える不思議の習性がある。ナーロッパの接収過剰により脳がバグっておるのだろう。漫画やファンタジー小説で歴史を学んだ気になっているのである。まずお前らは世界史の教科書を読め。

当然決闘裁判や決闘も支配者層から何度も禁止令が出るのだが、元々の文化としてそれを継いでいるのだから中々止まらない。聞いて驚け「決闘による決着」は19世紀末まで続く。恐らく諸君は別物として理解しているかと思うが、西部劇で良くある「背中合わせになって3歩歩き、ピストルでバキュン」は決闘の名残である。時系列で並べると……

1.鎧兜のフル装備でタイマン
2.鎧が廃れてきて切れ味が鋭い刃物を用いる決闘(皆が決闘として思い浮かべる奴)
3.鉄砲による決闘

大体の区分として中世→近世→近代である。これが何故「決闘というとレイピア」になったかちゅーと……

ベルサイユのばらと三銃士ではあるまいか。


大体において、我々日本人は中世ヨーロッパを知らなさ過ぎる。中世ヨーロッパに区分されるアーサー王の話にしても、なんか君らアーサー王がナイフとフォークで優雅にステーキ食ってるイメージあるかと思うが、フォークがイギリスで流行り始めるの18世紀以降だ(しろめ
成立が10世紀ごろであるアーサー王物語では、まぁ大体イギリスの支配者層でも手づかみで肉食ってた。野蛮な……と思うであろうが奴らは印欧語族で出自はインドや。何もおかしくは無い。だからその名残でヨーロッパ料理にはフィンガーボウルという指洗う水が配されるの。ガチやぞ。

所が日本人は西洋崇拝が過ぎて「ヨーロッパの連中が歴史を牽引したのは大航海時代とか蒸気機関発明や産業革命以降で、それより前は日本の方が各種分野で先進していた」という事実を知らんのだ。もし私が500年ぐらい前の世界に飛ばされるなら、せめて日本であってくれと願う。ヨーロッパで生き抜ける自信がない。つーか、ヨーロッパの王族に生まれるぐらいなら江戸庶民がいい(切実)
近親婚により遺伝子レベルで弱りまくり、美食を飽食して栄養バランス崩れまくりのヨーロッパ王侯貴族とか罰ゲームじゃねーか!(涙)

この様に中世ヨーロッパというのはかなり……かなーりヤバい世界なのであるが、それを割と正確に描いた物語というものが日本だとヴィンランド・サガぐらい。私の知る限りではあと王領寺 静作の黄金拍車か。

黄金拍車
1988年発表。スニーカー文庫。恐らくラノベで最古参の「主人公が時空間転移する物語」の一つ。異次元騎士カズマシリーズとして結構続いた。黄金拍車は第一シリーズであり、シャルルマーニュの12勇士と絡む話。時代的には8世紀ヨーロッパが舞台。

考証が弱い所もあるが、当時としては破格に資料調べてる。35年前の作品だゾ

それ以外だとヨーロッパの話のメジャー所ってベルばらと三銃士ぐらいしかないんだわー。三銃士が17世紀前半が舞台で、ベルばらは18世紀後半である。ベルばらなんて完璧に中世ではない(フランス革命の話だぞあれ)
例えば、世界的には有名なドン・キホーテが三銃士よりちょっと早い17世紀初頭に出版されているのだけど、騎士道物語の読みすぎで頭がイカれた時代遅れのロバに乗った騎士という形で「既にそんな物語に出てくる様な騎士は絶滅している」のが前提になっている。まぁ、皆読んでないのであろうが。ジャンヌ・ダルクが15世紀の人物なんだけど、fgoのキャラとしか認識されてない気もするで?

つまり、中世ヨーロッパを知ろうにもお手軽に当時の様子を知ることがが出来る書籍が無いのである。下手すりゃ今の若い子は三銃士も知らんだろ? 何一つ中世ヨーロッパを知る事が出来る資料読んでないのに当時の世相や風俗を知るわけが無い。(ワイはTRPGの舞台として正確に中世ヨーロッパを文献調査してた時期があり、農業を始めとする各種技術の発展ツリーや人口推移なども抑えている)

Amon Amarthとか中世ばっちりど真ん中なんだがヒゲデブがデスボイスでがなってる時点で余り聞かんわな。

昔のヨーロッパに興味を持つ人間の9割5分までがギリシャ・ローマ好き+ベルばら好きであるのは周知の事実であるし、残る5分の大半はナポレオン好きであろう。

ダヴーがいいよネ☆

と、言うわけで漫画やラノベばっか読んで歴史資料を紐解かない人間が中世ヨーロッパを知っている可能性は極めて低く、その結果として藤田和日郎のゴースト アンド レディじみた決闘を「中世ヨーロッパでは……」と言ってしまうのである。それは

「いやー、僕も鎌倉時代大好きなんですわー、暴れん坊将軍とか大江戸捜査網とかイイっすよねー」

これぐらいトンチキな話だからな。常識を疑うレベルでアホだから。

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