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時系列で考えるデリングの思考 (前編)

水星の魔女の展開が読めないのは、ガンダムの割に結構な長さの時間軸が組み込まれているからであり、作中登場人物が物語の経過時間の中で考えを変えるからである。そこで各時間の中で登場人物が何をどーしてどの様に考えを変えてきたかを考察してみよう。

1.ヴァナディース事変(21年前)

私の想定ではデリングがまだ軍隊にいた頃。この前後にドローン戦争があり、当時30代中盤だったデリングは佐官〜尉官(少佐〜大尉ぐらいかな? 小〜中隊指揮官?)で、ヴァナディース事変を制圧する。
この後退官して企業勤めを始めるのだが、別にこれは珍しいことではない。日本でもヒゲの隊長と呼ばれた佐藤氏が退役して政治家やってる。

で、元軍人の人ってマインドセットが軍隊の現場だからちょっと違う視点持ってるんだわ。佐藤氏だとサマワのこんな経験がありまして……

軍隊は軍隊なりの「他国とのお付き合い」があり、仲間助けない軍隊は他国から「付き合いわりーな!」と言われてしまうのだ。一国単独で動くなら構わんが、日本は国防において米軍と連携する関係上、米軍と足並み揃えて戦えないと実にヤバいのである。いくら日米の政治家が結託しても、現場レベルでは「普通の軍隊付き合い」しないと協力体制は瓦解する。佐藤氏にはこの辺の調整で頑張って欲しいところである。

こんなとこ見てもわかる通り、軍需産業側に「軍隊経験者」が居るのはコネクションその他の問題以上に重要なんだわ。開発や設計者が知り得ない現場のリアルを知ってる訳ですからな。

この事変の鎮圧時に「現場判断して、果敢に問題を鎮圧した」ならば、軍隊では問題視されるが民間企業なら判断の良さが生きるかもしらん。その名声を背景に鞍替えしたと考える。(現場の部隊指揮権限あるの、大体大佐クラスだからなぁ。それより下が独断専行すると流石に問題視されると思う)

プロローグの話を13年前とする場合、21年前の事変はガンドとは異なる技術が背後にある。
私はヴァン神族とアース神族の来歴的に、それをセイズと呼ばれる技術体系だと仮定している。思考を遠隔兵器に転送するテクノロジーで、機械と脳を双方向接続するガンドの前駆技術だから、一方的に思考を機械に飛ばすだけのA→Dコンバート技術(BMI)かなと思われる。
ヴァナディースはこの技術が有れば水星での採掘とか楽ですよねー的なゆるゆる思想だったのをデリングが軍事転用可能だし、実用化されると仲間の軍人さんがえらい難儀するってんで独断専行しただべな。事実ウクライナでドローン大活躍だし。

2.プロローグ時点(13年前)

ヴァナディースはヴァナディースでめっ!されたが、それでも食ってく為にセイズ以外の技術開発をする。それがガンドだがやはり軍事利用される訳で。(GPSや電子レンジも元々は軍事技術の転用)
ここでもデリングはガンドアームの潜在的なヤバさに気付いて独断専行するのだが、表向きの理由は「兵器が利用者殺傷するのは良くない」である。多分これは前段のヴァナディース事変を踏まえた上での処置だろう。ガンドアームの本質的なヤバさはむしろデータストームが克服された後にある。操縦の熟達が早く(兵士の短期育成が可能)、ガンビットという無線誘導ドローンが利用可能なMS、金無い組織の軍備に最適なんだよね。
これ、地球圏という命が安いエリアではめっちゃ需要があるシステムなんだわ。だから完成してあちこちにばら撒かれる前に制圧する必要があった。しかし元軍人でドローン戦争本格化を止めた英雄の側面を持つデリングという「英雄の仮面」を持つ彼としては、「アレ凄いし、地球圏にばら撒かれたら洒落にならん」とは言い難い。また、ベネリットグループ的には「被害が宇宙に及ばないなら」戦争により売り上げは伸びる(朝鮮戦争特需で儲けた島国の話は必要だろうか?)
ベネリットグループの経済振興的には、それなりに戦火が拡大した方が都合が良い。だからガンドアームの表層的な問題解決を促した訳で、データストーム無くなったガンダムは商売のネタになる。それなのにデリングは商売無視して制圧した。

「アホかデリング……」

ガンダムが世に敷衍して1番儲かるのグラスレーなんよ。ノンキネティックで無効化出来るから。その商売上の大チャンス潰されたのだからあの顔にもなろう。更に軍事機密みたいな制限技術になりガンド医療も開発が停止した……

老いて身体機能が衰え鼻チューブになったサリウスからしたら「今更ガンドOKとか舐めてんのか。俺が苦しい思いしてんのガンドダメになったからやぞ!」だろうし、ガンドアーム普及を見越してノンキネティック増産体制整えてたらヴァナディース潰れて生産設備が無駄になったと。数百億から数千億宇宙ドルがダークマター的に宇宙に散ったのは予想に難く無い(ガンダム社設立時のミオリネ試算に依る)
そりゃガンダムに恨みを持つであろうそうであろう。ジェタークが現在売り上げトップなのはこの辺の問題が無かったからだと予想できる。また、エアリアルとの決闘でアンチドート兵器をしこたま持たせたのは……売り先が無い在庫が大量にあるからでしょうなぁ(虚無)
しかも、その後生大事にしてきた在庫はエアリアルによって無効化された訳で(涙) これで不良在庫化待った無し。アキバのジャンク屋にキロ幾らで買い取られる未来しか見えない。

デリング的にはガンダムは超性能だから「表に出したく無い」が本音だろう。勘違いされることが多いが、世界で一番戦争したく無いと願っているのは兵隊さんである。戦争が無ければヒコーキや戦車動かして体鍛えてるだけで金貰える仕事なんよ。誰が好き好んで鉄砲弾飛び交う戦争なんてやりたがるもんか。最初に死ぬのは兵隊だぞ? もし今戦争をさせない国にしたいなら、戦争になったら国民皆兵法案作ったらいい。戦争になると銃持って最前線に「年齢性別関係無く」送られてしまうとなれば誰も開戦に賛成しないし自衛隊の防衛費は難なく倍増可能だろう。自分の武器になるかもしらんと思えば重くて使いづらいライフルなんか誰も歓迎しないである。

逆に言えば、表に出ず内密に、しかもデータストーム克服したガンダムを「専有出来るなら」興味を持つと考えられる。

つまり、プロローグの時点で「なんか知らんがデータストームが起きないガンダム」になってたルブリスは、彼が専有できて秘匿できるなら価値があるのだ。

恐らくプロローグの後、ルブリスとエルノラ、エリクトは制圧部隊かその後詰めの部隊に投降するか鹵獲される。そして尋問受けてルブリスがデータストーム克服モデルである事を白状させられてるか、ルブリスの解析でそれがバレてしまう。そして取引を提示される筈だ。水星でやるならルブリスの開発やアップデートは許可してやる。但しガンダムを地球圏に売ったら殺す。あと、ヴァナディースの残党を探して報告せよ……

もし、エリクト・サマヤがデータストームで死ぬなりルブリスに吸われているなら、そんな厄介なモノは廃棄されるであろう。利用価値が無いからポイーである。必ず暴発する拳銃なんて怖くて使えぬ。

また逆に、その条件を飲めばエリクトもエルノラも辺境であれば生活を保証する。デリングがルブリスでのデータストーム抑制実験の成功直前直後に制圧しに来ていることから、ヴァナディース内には内部を探り進展を報告するスパイがいる。データストーム抑制プランがある程度進んで完成間近だったからこそ技術流出を恐れて襲撃した訳だし、中で何やってるか掴めていないならもっと穏当な作戦を取るはずだ。完成しそうにないなら脅威では無いから排除はしない。

プロローグ時点でデリングはガンダムのヤバさをほぼ完璧に、開発者以上に理解していて「完成したガンダムはゲームチェンジャーになり得る」そしてそれはばら撒かれたら大量の死傷者や孤児、難民を産む。だからトロッコ問題でヴァナディース殲滅を選ぶ訳だ。

後編に続く(もう3000文字超えた!)

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