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クズ星兄弟の旅路-5

 俺とセイは手錠をされて捜査員に引きづられるようにパトカーに乗り込む幹部どもを離れた場所から眺めていた。教祖・山田金蔵の死後、ヤツに近しい幹部どもはこの本部の二階の会議室に立てこもっていたが、発見時は全員意識を失った状態で発見されたらしい。

「まったく、余計な事をしてくれましたね」と、柳田が指でメガネを押し上げながら言った。
「あなた方は、ただ建物内に我々が入れるようにしてくれるだけで良かったのに――何ですかあれは、爆弾? いや特殊音響旋光弾か。あんなものを持ち込んで信者たちを気絶させるなど――」ボスの鶴爆音の爆音はしっかり外まで聞こえ、駆けつけていたマスコミを騒がせたらしい。
「そりゃぁとんだ勘違いだぜ。俺たちはただのカタギだ。爆弾なんか何処に売ってるかも知らねえよ。
 俺たちに気づいた、幹部共が、焦ってどっかから手に入れたあの、音だけの爆弾を爆発させて勝手に気絶したんだろ」俺は口から出まかせを言う。
 どうせ本当の事を言った所で、この男は信じやしねえだろう。
「俺たちは巻き込まれた側。むしろ被害者だぜ」
 柳田は俺を憎々し気に睨みつけてきたが、ふっと諦めたように肩を落とし、
「……まぁいいです。料金は後日口座に振り込みますので、本日はこれでお引き取りください」と言った。
「そうかい。それじゃぁどうも、お疲れさんでした」
 後ろで柳田にガンを飛ばすセイに肘うちをくれてやって、俺たちはこれから一時間以上かかる駅に向かって歩き出した。

「なぁ兄貴」タダでさえ猫背な背中をさらに丸めながら、セイが口を開く。
「なんだ」
「あいつ、放っておいて良かったのかい?」
「あいつって柳田か?」
「そう、アイツの後ろに憑いてたろ?かなりヤバいのが大量に」
「柳田本人が言ってたろ。余計な事はすんなとよ」
「でもよ」
「いいんだよ」と、俺はセイの言葉を遮る。
「あいつには全く視えてねぇし信じてもいねえんだから。祓ってやると言ったところでどうせ断るだろう。それに、アイツについてたアレは全部、アイツが出世のために踏みつけにしてきた奴らの怨念、いわば生霊だ。俺たちの専門外だ」
 まぁ、本当にヤバイ状況になったら、ボスの恩人とやらが何とかするだろう。
「触らぬ神に祟りなしってやつだ」
「兄貴、それあんま上手くないぜ」と笑うセイのケツに、俺は蹴りを入れた。

epilogue

 後日、ボスの事務所に所要でやってきた俺は、あの日からずっと気になっていた事を聞いてみた。
「なぁ、あん時の鶴ってもしかして――」
「対生霊専門の呪符だ」
「あぁ、やっぱり」
「なんだ、気づいてたのか」
 俺は「まぁな」と答える。
「確かに雑虗に近い気配だったが、いくら気配を探っても本体の居場所が分からねぇ。最初はあの雑虗が本体かと思ったが、柳田の後ろに憑いてる生霊を見て、もしやと思ったのさ」
 ボスは「そうか」と答える。
「っていうか、あんな爆音がすんなら最初から教えとけよ」俺の苦情にもボスは涼しい顔で
「あの柳田って小僧、マスコミ対応で随分慌てたらしいな」       
いい気味だと言ってニヤリと笑った。生霊に、雑虗の群れ。あの建物の中で起こっている、すべての状況を見越したうえで俺たちに鶴を持たせ、ついでに気に入らないクライアントに意趣返しってわけか。このタヌキジジイめ。
「それともう一つ」俺はずっと気になっていた事を聞いてみる事にした。
「例のあんたの恩人って、いったい何者だよ」政府官僚の柳田が逆らえない相手なのだ。かなりの大物なのだろう。
 俺の質問にボスは、不意に俺の顔をじっと見ると、
「おめぇは一生絡まなくていい相手よ」と言って、普段見せねぇような優しい顔でふっと笑いながら、節くれだった手で俺の頭を掴んでゴリゴリと撫でた。
「おい、何しやがる!」
 俺が手を払いのける俺にボスは、
「いつの間にか立派になりやがって」と言ったすぐあと、
「まぁ、俺に比べりゃまだまだだがな」と笑った。

おわり
 

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