人生ブラボー!(2011) 感想

#映画

過去に行った精子提供によって、遺伝子上533人の子どもがいることが発覚した男をめぐるカナダ発のハートフル・コメディー。
脚本、監督のケン・スコットは実際にあった話に着想をえて、本作を作ったらしい。
主演はパトリック・ユアール。
2013年にはケン・スコット監督、ヴィンス・ヴォーン主演でハリウッドリメイクもされている。
原題は「STARBUCK」

あらすじ

42歳の独身男ダヴィッド(パトリック・ユアール)は、この歳になってもフラフラしていて、おまけに8万ドルの借金持ち。
独立もできず、家業の肉屋の手伝いで食いつないでいるロクデナシ。
そんなある日、彼は過去「スターバック」の偽名を遣い693回に及ぶ精子提供した結果、現在533人の子どもの父親であることが発覚。さらに142人の子どもから身元開示の訴訟を起こされていることを知る。

最初は身元を明かすつもりはなかったダヴィッドだったけれど、142人の1人が、自身が応援しているサッカーチームの選手だったことを知り、徐々に、他の141人にも関わっていく。


まず、主人公ダヴィッドが精子提供の時に使っていた「スターバック」という偽名について。
僕はてっきり大手コーヒーチェーンの方かと思ってたけど、これはカナダ生まれの超優良な遺伝子を持つ種牛の名前。

この種牛には世界中で20万頭以上の子供がいて、その「実績」を知っていたから、ダヴィッドは23年前の19歳の頃に「精子提供者」のバイトの時「スターバック」を名乗ったということらしい。

で、この映画、若き日のダヴィッドのオナニーシーンという、僕の知る限り一番サイテーな始まり方なんだよね。(笑)
イキナリそれかーい! っていう。

で、時は流れて、42歳になったダヴィッドは立派なダメ人間だった。
一応家業の肉屋を手伝ってはいるものの、地元のマフィア? に8万ドルの借金を抱え、家族からは呆れられ、彼女は放ったらかしで、金を稼ぐために大麻の水耕栽培に手を出すも上手くいかず。

そのあげく、精子提供で生まれた子供が533人いて、そのうち142人から自分の生物学上の父親を知りたいっていう訴えを起こされていることを知らされる。
最初は冗談じゃないと、友人の弁護士アボカット(アントワーヌ・ベルトラン)に相談するダヴィッド。
けれど、彼女のヴァレリー(ジュエリー・ル・ブルトン)の妊娠を知ったことで、彼の中の「何か」が変わる。

ダヴィッドは興味本位で、原告側の弁護士が置いていった142人のプロフィールの中から一枚選んで抜き取る。
そのプロフィールには、ダヴィッドが贔屓にしているサッカーチームの選手の名前が。
彼が出場して活躍している試合を見に行ったダヴィッドは、残り141人にも興味を覚え、正体を隠して何人かに会いにいく。

俳優志望でコーヒー屋のアルバイトの青年、ヤク中の女の子、路上で歌う歌手志望の青年、観光地のガイド。
正体を隠しながら、彼、彼女らの人生に関わりを持ち、問題を解決していくことに生き甲斐を見出すダヴィッド。
ここは父性の目覚めにも見えるし、それらしいセリフもある。でも多分、この時点では今まで、誰の役にも立っていなかった自分が、初めて役に立つことが出来た。しかも相手は自分のDNAを分けた子供たちだから嬉しい。くらいの感覚なんじゃないかな。

その次にダヴィッドが出会うのは、難病でコミュニケーションを取るのも難しいような青年。
いままで『子供達』の人生に関わり役に立つ喜びに浮かれていた彼が、冷水をかけられるようなシーン。
一日青年と触れ合い、でも彼の役に立ったのか分からずに打ちのめされた気持ちのダヴィッドに、病院(施設?)のスタッフが言うある言葉で、彼は救われるんだけど、ダヴィッドに『父性が芽生えた』としたら、多分このシーンなんだと思う。

子供の問題に無力な自分を思い知って、それでも向き合う覚悟?を知るみたいな。

つまりこの映画は、一人の男が「父親」になっていく物語なんだよね。

これ以降、ダヴィッドの心境にも変化が現れていく。
仕事や生活も真面目になり、恋人を家族に引き合わせる。(ここで、なぜダヴィッドが精子提供のアルバイトをしたかが語られる)
『子供たち』の望みを叶えるため、「本当の父親」として名乗り出てもいいんじゃないかって思いはじめる。
けれど、この事態を嗅ぎつけたマスコミの報道によって、『スターバック』の存在は世間に知られ、非難や中傷を受ける。
さらに、借金の取立て屋がダヴィッドの父親に危害を加える。
借金を返すためには、守秘義務を破った病院を訴えて賠償金を勝ち取るしかない。でも、そうすると『子供たち』に名乗り出ることはできない。

まぁ、なんやかんやあって、結局ダヴィッドは名乗り出ることができて、さらに恋人との間の子供も生まれてハッピーエンドになるんだけど。

この映画が扱っているテーマは実は重い。
精子提供の是非もあるし、最初興味本位で『子供たち』に関わってくダヴィッドを勝手で無責任な男だと不快に感じる人もいると思う。

それでも、僕がダヴィッドを憎めないのはケン・スコット監督のツボを押さえた軽妙なテンポと柔らかな語り口、ダヴィッド役のパトリック・ユアールの、身体はゆるゆる、いつも無精ひげを生やしてて、なんとも冴えない感じなのに、なんとも言えない愛嬌のあるキャラクターがでかいんじゃないかな。

なんか、久しぶりにヒネリなし。誰にでもすすめられる、ど直球の良い映画だった。






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