映画の話

「HK 変態仮面」

#映画

僕が最初に「究極!!変態仮面」の実写映画化の話を知ったのは、ネットのニュースだったと思います。(多分ニコ動)

その時に真っ先に思ったのは「誰得だよ!」でした。

「究極!!変態仮面」は、 1992年より1993年まで週刊少年ジャンプにて連載された、あんど慶周さんのマンガです。

敏腕刑事の父とSM女王の母の間に生まれた色丞狂介は女性のパンティを被ることで、SM嬢の母親から受け継いだ変態の血によって潜在能力が発揮され、超人的パワーを持つ「変態仮面」へと変身する異形のヒーローです。

パンティーを被って、ブーメランパンツの両端を引っ張ってクロスさせ、両肩に掛けるエキセントリックなスタイルと、数々の変態技、また「それは私のおいなりさんだ」等の名?台詞で少年たちのハートを鷲掴みにした、カルト的人気の漫画でした。もちろん、変態と言っても少年週刊誌に載るマンガですから、あくまで小学生男子がキャッキャ喜ぶ程度の内容だし、他の王道ジャンプ作品とは違い、あくまでイロモノ的なナンセンスギャグマンガだったこともあって、その存在は連載終了とともに忘れられていった訳です。

それが、一体どういう経緯でか、連載から19年も経って、突然実写映画化されるっていうじゃないですか。

当時、ジャンプを読んでいた小学生たちも今は立派な大人ですし、今の少年たちは当然「変態仮面」なんて知るわけも無く、一体誰に向けて作られる映画なのか、作ったところで一体誰が喜ぶのかさっぱり分からない、まさに「誰得?」状態だったわけです。

しかもネットニュースを読んでみれば、俳優の小栗旬がどうやら言いだしっぺらしいと。小栗旬と言えばマンガ好きで有名な人で、中村光のマンガ「荒川アンダー・ザ・ブリッジ」の実写化でも、河童の村長役に自ら名乗り出たり、「宇宙兄弟」実写版では兄の南波六太を演じたり、CG映画「キャプテンハーロック」ではハーロックを演じたり、つい最近ではルパン三世を演じたりと、割と無邪気にオタクの神経を逆なでするのでお馴染みの人。

さらに言うと、今まで日本のマンガ、アニメ原作の実写化は殆どの場合、失敗します。少なくとも僕の目から見て、「これは面白い」もしくは「思ったよりは良かった」と思ったマンガ、アニメの実写化作品は本当に数本です。

なので、正直に言えば僕はこの「HK 変態仮面」に対してまったく期待していませんでした。

ちなみに、この映画の監督・脚本は『勇者ヨシヒコと魔王の城』の福田雄一。主演はNHK朝の連ドラ「花子とアン」村岡英治役の鈴木亮平、ヒロインの愛子ちゃんは仮面ライダーフォーゼの城島ユウキ役を演じた清水富美加。偽変態仮面は北海道の演劇集団チームナナックスのメンバーで、数々のドラマや映画にも出演している安田顕。その他にもムロツヨシなど「福田組」の濃い面々。ちなみに僕は福田監督の作品はこの「変態仮面」が初見でした。

で、この「HK 変態仮面」を見てどう思ったかというと、

僕の今まで見た全邦画の中でもベスト級に面白い映画ですコレ。

マーベルのコミックがパラパラ捲れる例のアレから、スパイダーマン(サム・ライミ版)のオープニングをまるっとパク…パロディーから始まり、しかもスパイダーマンではクモの糸だった部分がレースになってる芸の細かさ。福田監督のセンスが光ります。

で、狂介の両親の出会いから現在へ。

原作とは違い、狂介は気弱で喧嘩も弱いという設定。ある日クラスに愛子ちゃんが転校してきて、拳法部のマネージャーに…という流れでストーリーは進み、愛子ちゃんのピンチを救うために狂介はビルに忍び込み、変装のために覆面だと思って被ったのは実はパンティーで、狂介の体全体に力が漲り、という流れで、ついにその全貌が露になった瞬間……。

「変態仮面だーーー!!」

多分、変態仮面のマンガを読んでた人は全員、心の中で叫んだと思います。

それくらい肉体もポーズも完璧。どこから見ても完璧な変態仮面です。

これはもう、納得せざるを得ません。

この映画のために主演の鈴木亮平はハードな肉体改造をしたそうですが、この瞬間、そのビジュアル一発で観客を納得させるんだから、スゴイの一言ですよ。

で、その後学園乗っ取りを企む敵(ムロツヨシ)の一味との戦いを経て、偽変態仮面のヤスケンこと安田顕が登場。

なんやかんやあって、ビルの屋上で変態仮面と直接対決となるわけですが、このシーンは日本映画屈指の名シーンと言っても過言ではないと思います。何よりヤスケンの鬼気迫る変態演技は僕の中で、ヒース・レジャー演じるダークナイトのジョーカーに匹敵するインパクトでした。なんならちょっと勝ってるくらいです。ヤスケンあんたスゲーよ。

この戦いに敗れすっかり自信喪失した狂介だったけれど、その後、愛子ちゃんが敵の一味に拉致され、そして狂介は……。

という内容。

もうね、ラスト近く、狂介が愛子ちゃんに言うある言葉。冷静な頭で考えれば実にバカバカしい台詞ですが、それまでの流れもあって泣きそうになりましたもん。つまり、それくらい完全に「HK 変態仮面」の世界に入り込んで観ていたって事なんですよね。

もちろん、100点満点の映画ではないです。CGはチープだし、悪ふざけ的な部分もあるし、ストーリーも粗が見える部分は多々あります。でも、低予算のB級映画であることも、この映画に限ってはプラスになってると思います。低予算ゆえのチープさが、この作品世界のチープさと上手くマッチして丁度良いサイズ感になってるんですよね。このサイズ感は意外と大事で、制作費が日本とは文字通り桁違いのハリウッドならいざ知らず、せっかく風呂敷を広げても中身が詰まってないとみっともない事になっちゃいますし。(どの作品とは言いませんが)

さらにこの映画で大事なのは、主演の鈴木亮平、清水富美加、ヤスケンの熱演もさることながら、福田監督の読解力です。

マンガやアニメの実写化が失敗する最大の要因は、監督が元の内容の上っ面だけを真似て、その作品の「核」の部分を理解してない事です。もしくは元の作品の美味しい部分だけを素材に監督が「自分の作品」に作り変える、いわゆる二次創作をやっちゃったりすると、もう最低です。(どの作品とは言いませんが)

アニメやマンガの世界やキャラクターを現実の人間が現実の世界で演じるんだから当然無理は出るわけで、そこを無理なく見せるためにキャラ設定や世界観を変えること自体を僕は悪いとは思いません。マンガ、アニメ、小説、実写、それぞれの表現にはそれぞれの文脈と、文脈からくる表現の向き不向きがあって、例えばマンガをアニメにするときは、その作品をマンガの文脈からアニメの文脈に翻訳する必要があります。その中で元の作品の文脈を読み取り「核」の部分さえちゃんと描いてくれれば(例え意訳であっても)ファンはその作品を支持すると思うんですね。その為には元の作品を読み解く読解力が必要なんです。

この「変態仮面」で福田監督は、その「核」の部分を読み解き、ちゃんと翻訳してくれたからこそ、この映画は面白くなったんだと思います。

なにより、いい大人達がこんなバカバカしい映画を真剣に、変態仮面をちゃんとカッコよくしようと作っている姿勢(カッコよくは小栗旬の希望でもあったとか)がこの映画からは見えるのです。

まぁ、僕の勝手な思い込みかもしれませんが。

とまれ、以上のことから僕はこう言いたい。

世界よ、これが日本だ! と。

そして、クールジャパンとか言ってる人たちは、まずこの映画を世界に発信するべきだと。

そんなわけで、個人的に好きすぎてハードル上げすぎちゃったような気もしますが、「HK 変態仮面」、機会があれば(自己責任で)ご覧ください。











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