映画の話

「座頭市」(1989)

#映画

ぷらすです、こんばんは。

今回は1989年に公開された邦画「座頭市」です。

北野武版「座頭市」でも、綾瀬はるか版「ICHI」でもなく、ましてや香取慎吾版「座頭市THE LAST」では絶対なく、名優、勝新太郎の最後の「座頭市」です。

(勝新太郎版)「座頭市」は1962年の「座頭市物語」以降、映画だけで
26作、TV版では1974年の「座頭市物語」~「新・座頭市」3シーズンで計100話、さらに舞台が3本、数ある時代劇の中でも他に類を見ないオバケシリーズといえるのではないでしょうか。

シリーズ共通の内容をざっくり書くと、凶状持ち(前科者とか逃亡者みたいな意味で、今で言えば指名手配犯みたいな感じでしょうか)で盲目の侠客、座頭の市が行く先々で悪いヤクザを壊滅させて村や町を平和にするという物語なんですが、「水戸黄門」や「暴れん坊将軍」と違って、彼は町や村の平和の為に悪人を退治するヒーローではありません。

市自身、表向きは按摩ですが本来は侠客、つまりフリーのヤクザ者で、行く先々で賭場に出向いては、胴元のヤクザにイカサマを仕掛けて巻き上げるお金が主な収入源だったりします。
素人には基本手は出しませんが、喧嘩を仕掛けてきたヤクザはボコボコにするし命を狙ってくる輩は、ヤクザ、役人関係なく斬り殺す、法律無視の正真正銘アウトローです。

「座頭市」で大事なことは二つ。
ます、一つ目はこのシリーズが時代劇じゃないということです。
「何ってんだコイツ?」と思われるかもしれませんが、理由はこのシリーズの構造にあります。

座頭市はお尋ね者のアウトローで放浪者、いわゆる一匹狼です。そして、市は居合い切りの達人です。
そんな市が放浪の道すがら立ち寄った町や村は、だいたいヤクザ、つまりならず者に占拠されて荒廃しています。
そんな、町や村で虐げられている人々を助けるために、市はならず者たちと戦い、町や村に平和が訪れると静かに去っていくのです。

こんな感じのストーリー、どっかで観たことありませんか?
例えば、「シェーン」や「荒野の用心棒」もしくは、ジョン・ウエインの作品。そう、西部劇ですね。
そう考えると、市が居合抜きの達人という設定も納得いくんじゃないでしょうか。もちろん、市は盲目だから専守防衛に特化した居合術を使うわけですが、居合抜きと拳銃の早打ちって似てますよね。

さらに、座頭市のシリーズは、ラストに必ず敵方の用心棒との一騎打ちがあったりするところも、西部劇のフォーマットに法っていると言えるんじゃないかと思います。
つまり、「座頭市」は構造的に西部劇のフォーマットで作られた時代劇なわけで、それこそが「座頭市」と他の時代劇の決定的な違いと言えるかもしれません。

二つ目は、主役の座頭市が盲目だということです。
「座頭市なんだから当たり前だろ」って話ですが。
原作は未読なので分かりませんが、映画では、子供の頃にかかった流行り病の後遺症で市は視力を失った事になっています。
そして、そのせいで虐げられてきた市は、それらの理不尽な暴力に立ち向かうために居合術を学び、その強さと負けん気ゆえにヤクザな道に入っていくのですね。
市は盲目というハンディキャップゆえに普通の人以上に、理不尽な悪意をストレートに受けます。そんな彼だからこそ、自分に善意を向けてくれた人や弱き人々が理不尽な扱いを受ける事が我慢なりません。
そのことが、シリーズを通して市が戦う理由にもなっているわけです。


とまぁ、長い前置きでしたが、ここから本番です。
1989年に公開された本作「座頭市」は製作途中のある事故によって、ギリギリまで公開が危ぶまれましたが、1979年の新・座頭市 第3シリーズ以来の新作ということもあり、公開されるやいなや大ヒットを記録しました。

僕自身、「座頭市」の大ファンでもあり、公開されるまでは随分とヤキモキしましたが、公開初日に映画館で観た帰りはもう大興奮したものです。
それほど、この「座頭市」の出来は素晴らしく、まさにシリーズ集大成といっても過言ではない作品でした。

物語は、役人をからかった座頭市が3日間の牢入りと百叩きの刑を受けるところから始まります。
刑を終えた市は昔馴染みの儀肋を頼り、銚子のとある漁村に辿り着きます。
この村には複数のヤクザの組がありますが、その中でも地域一体を監督し絶大な権力を有する八州取締役(関東一体を統括管理する役職)に近づき、地盤を確固たるものにせんとする五右衛門 一家とそれに対立する赤兵衛一家の二大派閥のせいで、村はピリピリした状態。

いつも通り、五右衛門一家の賭場で「ひと稼ぎ」した市は、恥をかかされた五右衛門の言いつけで命を取りに来た子分を全員斬り、その腕を見込んだ赤兵衛に組の用心棒を頼まれますが断ります。

両組の抗争は次第に激化、さらに、八州取締役も登場、五右衛門組は凄腕の用心棒を雇入れ―と、村はちょっとしたアウトレイジ状態に。
そんな中、村外れで市が出会った、孤児を集め育てている少女おうめの貞操が八州に狙われたとき市は……。 という内容。

主人公の座頭市はもちろん勝新太郎、五右衛門に長男の奥村雄大(現、鴈龍)、八州に陣内孝則、赤平衛に内田裕也、五右衛門の用心棒に緒形拳。
他にも、樋口可南子、蟹江敬三、ジョー山中、安岡力也 等など、ファンキーかつ、かなり個性派の面々が登場します。
特に、八州役の陣内孝則の狂っている感じ、赤平衛役の内田祐也の小狡い二流ヤクザ感は素晴らしく、勝新太郎のキャスティング能力の高さを感じます。

可憐な少女おうめがいよいよ八州の毒牙にかかろうとするその時、ふすまを仕込杖で開けて暗闇からするりと登場する市のカッコよさと言ったらもう!!

やっふぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!

ですよ!
おうめに亡き母の面影を感じていた市にとって、それを汚そうとする八州や己の欲のために八州におうめをあてがおうとした五右衛門は決して許せない敵になったわけです。

そして、ついに五右衛門組、赤平衛組の出入りが始まり、赤平衛は五右衛門に打ち取られます。とうとう村は五右衛門の手に……と思った瞬間、大きな木樽がゴロゴロと転がってきて……。
そこから、当時57歳と老齢に差し掛かったとは思えない勝新太郎の、シリーズ最高とも言える殺陣シーンが始まるのですが、そこから先は出来ればその目で見ていただきたいです。
もし、「座頭市」と言っても沢山ありすぎて、どれを見たらいいか分からないという方には、座頭市の全てが詰まっている本作からご覧になることをオススメします。

「座頭市」の集大成でもあり、俳優 勝新太郎の集大成でもある本作。
機会があれば、是非、是非! ご覧下さい。

*座頭市が好きすぎて、いつも以上に暑苦しい感想になった事を、謹んでお詫びします。(笑)




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