ガタカ(1998) 感想

#映画

アメリカのSFサスペンス映画。監督はアンドリュー・ニコル。

あらすじ

出生前の遺伝子操作が当たり前になり、生まれながらに優れた知能と体力と外見を持った「適正者」と、「欠陥」のある遺伝子を持ちうる自然出産により産まれた「不適正者」との間で、職業選択を含んだ厳格な社会的差別がある近未来。

両親の自然出産により心臓に欠陥のある「不適正者」として産まれた主人公ヴィンセント(イーサン・ホーク)は、子供の頃から「適正者」のみに資格が与えられている宇宙飛行士になることを夢見ていた。
そんな彼が両親に内緒で弟アントン( ローレン・ディーン)とやっていた『度胸試し』の遠泳。

「適合者」の弟に負けっぱなしだったヴィンセントだったが、ある日、弟に勝ったことで、彼は家を出て自分の夢を叶えるために生きることを決意する。

しかし、遺伝子で全てが決まる世界を、ヴィンセントの努力だけで変えることは出来ず、彼はついに、違法DNAブローカーの仲介で、交通事故により脚の自由を失った元水泳金メダル候補の「適正者」ジェローム・モロー(ジュード・ロウ)の生体ID(血液や指紋など)を買い取り、生体偽装によりジェロームになりすまし、宇宙局「ガタカ」の局員となる。

その後、努力の甲斐あって、ついにヴィンセントは念願のタイタン探査船の宇宙飛行士に選ばれる。「ガタカ」内に「ヴィンセント」としての痕跡を残さぬように細心の注意を払っていた彼だが、出発間近に上司が何者かに殺された事件現場で「不適正者ヴィンセント」のまつ毛が発見されたことから正体発覚の危機が訪れる……。


この映画、先日行われた、小松パラさんの企画『 #ひとりアカデミー賞 』で、パラさん、yoshさん両名が名前を上げていた映画だったので、早速レンタルして観てみた。

とにかく、何もかもが美しい映画だった。
映像も、物語も、設定も、デザインも、キャストも。
機械時計の中身のように、一つも無駄な部品がなく、限られたスペースの中にキッチリと収められて正確に動いているような、機能を追求した先にあるような制御された美しさだと思う。

それでいて決して機械的ではなく、実にエレガントで有機的なデザインなのだ。
最初から、『それ』を狙って作ったのか、それとも必要に迫られて、あのデザインになったのかは分からないけれど、個人的には後者なんじゃないかと思う。

映画冒頭で「そう、遠くない未来」とクレジットがでるけれど、画面に登場する人々は、むしろ一昔前のヨーロッパの紳士、淑女のような出で立ちをしているし、宇宙局「ガタカ」の内装はまるで、古くからあるヨーロッパの駅のようで、それだけだとSF感はまるでない。
手を置くと、指先から針で少量の血液を取られて、DNA鑑定によって本人確認がされる、駅の改札機のような機械。
学校の教室のように全員が一方向を向いて座るデスク(各デスクにはパソコン)。
螺旋階段のあるモダンな部屋の中に、採取した血液や尿を調べる医療器具。
主人公ヴィンセントと、ヴィンセントに次第に惹かれていくガタカに勤める女性アイリーン(ユマ・サーマン)が乗る、レトロフューチャーなデザインのオープンカー。
この映画の「SF感」は、いかにもSFチックなセットを作るんじゃなくて、レトロなデザインのモノと、現代(公開当時)のモノが同じ空間にあるという「違和感」を利用して作り上げる、スチームパンクに近いレトロフューチャーな「SF感」になっている。

遺伝子操作の技術が進み、デザインチャイルドが当然になっているという、現代の観客から見ればディストピア設定なんだけど、この世界ではそれが当たり前の事として描かれていて、誰もがその状況を受け入れているし、ことさらディストピアでございという演出もされていない。
そんな中、「不適合者」ながら宇宙飛行士を夢見るヴィンセントだけが、観客と同じ視線を持っていて、だから観客はヴィンセントの目を通して物語に入り込んでいく仕組みになっている。

キャラクターの配置も計算されている。
「不適合者」の主人公ヴィンセントを中心に、「適合者」で、この世界のルールを受け入れているヴィンセントとは対照的な弟アントン、「適合者」であることを自ら捨てたヴィンセントとは合わせ鏡のようなジェローム、「適合者」ではあるけれど、生まれつき心臓に疾患を持つ、「適合者」と「不適合者」の中間に位置するキャラクター、アイリーン。

ストーリーは、遺伝子技術の進んだ近未来という舞台建てを巧みに生かしたサスペンスで、叙述ミステリー的な要素もある。
物語の見せ場を、近未来SFという大きな枠ではなくて、近未来SF世界で起こった殺人事件と、それによって長年の努力と計画が無駄になるかもしれないという、ヴィンセントの心理サスペンスに限定したことで、その向こうにある世界とその歪みが浮き彫りになっていくという実に上手い作り。

それらの一つ一つのパーツが「遺伝子」という軸で繋がって、映画全体が回っていく。
この「遺伝子」を「運命」とか「才能」に置き換えると、分かりやすいかもしれない。
この物語は、「才能」を持たない一人の若者が、「夢」を叶えるために、己の「運命」に抗う。というシンプルで普遍的で純粋な物語だ。

映像とストーリーの両方で驚かされる映画って実はそんなには多くない。
この映画は、そんな数少ない映画の一本で、間違いなく『名作』だと思う。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?