気持ちは私の外にある

「面で動きなさい」

そう能の先生は教えてくださった。

面で動いていると不思議なことが起こる。

私の気持ちが、私の中からなくなってしまうんだ。

弧を描く能の構えの腕
その腕の中の空間

面で動くと、私の前の空間に私の気持ちがある。
私の中じゃなくて、私の外に私の気持ちがある。

お客さんには、私じゃなくて
私の前の空間を見せているような心地がする。

大切なのは、この空間

私の身体は、この空間を見せるために必要なだけ。
私の身体を見せているわけじゃないんだ。


ちょっとお店屋さんみたいな気分になる。

お客さんと私の間に陳列台があって
その台の上に、私の気持ちを乗っけて
お客さんからよく見えるようにしているんだ。

能の仕舞をしていると、コロのついた陳列台を
静かに押していっている感覚がする。


面がつくれないと、陳列台の上の気持ちは
ヒュウンって私の中に引っ込んでしまう。

陳列台も消えてしまう。

そうすると、見えなくなってしまうんだと思う。
私の気持ち。

お客さんの目の届くところから消えてしまうの。



気持ちを私の中から取り出して、お客さんの見える
場所に展開する技が必要なんだろう。

だって、お客さんは それを見にきているのだから。


能の構えが成立して、面が形成された時

お客さんと私の間

私の外に、気持ちが取り出されていく。

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