【1日1事例】格差時代に医学教育で取り組む「SDH (Social Determinants of Health) 」とは? #健康格差 #SDH #社会的処方

参考文献:格差時代に医学教育で取り組む「SDH (Social Determinants of Health) 」とは?
筆者:武田 裕子
発行日:2019年
掲載元:医学教育 50 巻 (2019) 5 号
検索方法:インターネット
キーワード:健康の社会的決定要因 (SDH), 貧困, 健康格差, ヘルス・アドボケイト, カリキュラム開発

【抄録】
・医学生の卒業時の到達目標を示す「医学教育モデル・コア・カリキュラム」 (平成28年度改訂版) では, 初めて, 「社会構造と健康・疾病との関係 (健康の社会的決定要因 : SDH) を概説できる」という学修目標が設定された.
・生活に困窮しているため外来受診を控える糖尿病患者, 抑うつ・自殺企図のリスクを抱える性的マイノリティの方々など, 社会の様々な状況・要素が「健康」に影響し健康格差の原因となっている. 
・WHOはそれを「健康の社会的決定要因 (Social Determinants of Health : SDH) 」と呼び, 医療者に取り組みを求めている.
・本稿では, 格差が広がるなか, SDHを医療者教育で取り上げる意義を概説し, 既存の講義や実習を活用して新たにSDH教育を導入する可能性について論じる.

メモ
・「健康の社会的決定要因:Social Determinants of Health(以下,SDH)」は,健康に影響する社 会的な因子,すなわち個人に起因しない構造的な 要素を指す.WHO では,“人々が生まれ育ち, 生活し,働き,そして年をとるという営みが行わ れる社会の状態”と定義している
・健康に影響 するさまざまな因子を「健康の社会的決定要因 (SDH)」といい,SDH によって生じている健康 状態や医療アクセスの不公正な差を,健康格差と いう.
・わが国でも,生活困窮世帯の子どもには齲歯, 肥満が多くみられ,ワクチン未接種率も高い . また,低所得者ほど喫煙率が高く,高血圧や糖尿 病に罹患しており,検診の未受診も多いと報告さ れている.
・高齢者においては,所得が低いほど医 療機関受診率は低く,要介護認定される割合が高 い .学歴や所得といった社会階層,社会参加度 が抑うつや要介護状態の出現と相関があることも 社会疫学研究により裏付けられている
・もしも,予約通りに受診しないことの多い患者 がいて,処方薬も不足しがちになっているとした ら,「アドヒアランスが低い」,「病識がない」,「や る気がない」と思ったりしないだろうか.そして,病気が悪化しても「自己責任」だと考えてし まうのではないか.
・しかし,その患者が歩合制の 仕事をしていて収入が不安定であり,生活も厳し いとしたら.また,外来予約日に急な仕事が入っ ても,受けなければ次の仕事の依頼が来なくなる 可能性があり断れないのだとしたら.さらに,給 料日前には医療費が支払えるか不安で,処方薬を 半量だけ内服して受診日を伸ばしているのだとし たら.それでも「やる気のない自分勝手な患者」 と言えるだろうか?
・「標 準的な生活」を送れない例としては,食費を切り 詰めるため十分に栄養が摂れない,家計を支える ため学校に行きながらアルバイトする必要があ る,道具代や遠征費用が賄えず部活動をあきらめ るなどがある.塾や習い事に行けない,金銭的な 理由で進学を断念するといったことも起こり,所 得格差は教育格差につながっている.
・家庭の経済 的理由で同級生と同じことができないストレスは 想像に難くない.
・厚生労働省 の統計では,2018 年度における国民健康保険料 の滞納は全加入世帯の 15%に近い 269 万世帯で あり,正規の国民健康保険証不交付世帯はその 1/3 に上る.背景には,収入が不安定な非正規雇 用の被用者の増加もあるといわれている.
・総務省 による労働力調査では,2018 年の非正規職員・ 従業員は 2,120 万人でその割合は 37.9%と,1990 年の 881 万人(20.2%)から大幅に増加してい る.
・治療が遅れて健康が損なわれた場合,その原因は 受診の遅れであっても,その「原因の原因」には 雇用や低収入があり,さらにその背景には社会の 経済状況といった社会的要因(SDH)が存在する.
・一般的にアドボケイトとは,“ある人に本来備わっているはずの権利が 行使されない状況にあるとき,その人の代弁者と なってその権利を擁護し実現を支援すること”を 指す.
・英国では,患者の社会的なニーズに応えるため に地域資源を活用すべく,「社会的処方」が行われている.
・患者が参加したい趣味や運動プログラ ムであったり,地域ボランティアによる生活サ ポートや就労援助などの支援プログラムを利用で きるように紹介する仕組みで,そのために「リン ク・ワーカー」という第三者が存在している.
・一般医(GP)や看護師などプライマリ・ケアにか かわる専門職は,患者のニーズを見出して第三者 機関に依頼することで,特に社会的に孤立してい る人や生活上の困難を抱えている方々の健康や ウェルビーイングを改善することができる


参考URL:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/mededjapan/50/5/50_415/_pdf/-char/ja


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