【1日1事例】健康格差を見据えたヘルスプロモーション戦略 #ヘルスプロモーション #健康格差 #ポピュレーションアプローチ

参考文献:健康格差を見据えたヘルスプロモーション戦略
筆者:近藤 尚己
発行日:2019年
掲載元:体力科学 68 巻 (2019) 1 号
検索方法:インターネット

【抄録】
・健康格差とは,所得や雇用形態,職位,学歴,住んで いる地域,人種など,様々な社会属性の違いにより健康状態が異なることである.
・社会的なストレスを抱えていると,健康づくりに積極的になれない場合がある.そのため,健康リスクをスクリーニングして個別教育するハイリスク・アプローチの効果は小さく,あまり望めない.そこでポピュレーション・アプローチが重要となる.
・しかし,ターゲットを絞らず漫然と健康情報を流す「知識の啓発」タイプのポピュレーション・アプローチをしても,健康意識の低い人の関心を引かないため,健康格差を広げることになる.
・以上のことから,健康格差対策には,社会的に不利な人々がおかれている「社会環境」へとアプローチする「環境改善型」のポピュレーション・アプローチが求められる
・世界保健機関は,健康格差への対策として,以下3 つを掲げている.
1 )(健康づくりの取り組みだけでなく)教育や労働環境など, 生活を取り巻く環境は制度の改善に取り組むこと
2 ) 部門間・組織間の連携とガバナンスの強化により,不公 正な資源の分配を是正すること
3 )健康格差の視覚化 と活動のアセスメント
・健康格差の拡大が取りざたされる現在,目指すは,どのような社会状況にあっても,生活しているだけで健康になれる環境づくりであるといえよう.
・たとえば,個人の力では変え難い,経済状況や教育機会,労働条件等について の制度改革が必要である.健康経営においては,まず社員の就労の制度に健康上の課題はないかを徹底的に洗い出し,改善することで「ホワイトな職場づくり」をすることが先決である.そのうえで,運動プログラムや食事改善指導の機会を提供するなどの積極的な健康づくりの取り組みをしていくべきである.
・一方,いくらそのような健康のためのプログラムを提供しても,参加・実践してくれなければ効果は得られない.とはいえ,活動を強制することは倫理的でない.そこで「思わず健康にする戦略」が必要になる.つまり, 活動の選択は自由だが,健康的な行動を選びたくなるよ うなしかけやしくみである.
・人は常に,経済合理性のある,つまり,確率的に最も得な選択行動を行うわけではない.将来の健康のためには望ましくない行動でも,つい実施してしまう場合がある.そのような,合理的には損になる行動を起こしてしまうこと,すなわち「認知バイアス効果」を逆手に取っ た戦略も時として有効であろう.
・たとえば,近年「ナッジ: nudge」(肘でつつく・そっと後押しをする, の意)といった概念が提唱されている.ナッジの事例としては,全国的に広がりつつある健康活動ポイント制度(インセンティブ),社員食堂の定番ランチを健康的でおいしい定食にする(デフォルト・セッティング),健康的な製品を買いやすくするように,陳列方法を工夫する(行動アー キテクチャ)などがある.
・健康経営においても,社員に 健康行動を押し付けるのではなく,自然と健康づくりを行いたくなるように環境を整えたり,そのようなサービ スを提供したりすることで,自主的に健康づくりに取り 組みやすくなるようなアプローチが有効であろう.
・健康づくりに関心を持てない人々にアピールするため には,マーケティング手法の応用も行いたい.総花的に「健康のために運動しましょう」といったメッセージを 全ての社員に向けて投げかけても,その声は届きづらい.
・そこでまず,社員の属性を把握してグループ分け(segmentation)をして,ターゲットとすべき集団を選定する (targeting).そして,その集団の持つ興味関心(wants) を把握して,それに応えるようなメッセージやサービス を提供するのである.
・「健康」という価値を相対化することも時として必要である.健康づくりに関心を持てないでいる人に対して,健康づくりをしましょう,と伝え ても心に響かない.その場合は,その集団のwantsに響く伝え方が求められる.
・サッカーなど,スポーツが好きな世代が多い集団であれば,あえて健康のため,とは言わずに「スポーツで職場の人脈強化,仕事の集中力アップを!」といったメッセージのほうが有効かもしれない.
・日々のストレスから健康づくりに積極的になれない人をどう惹きつけるか.そのための環境デザインは何か. これを考え,実践することが,健康格差を見据えた職場 のヘルスプロモーション戦略には,求められる.


参考URL:
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jspfsm/68/1/68_27/_pdf/-char/ja


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