ななぷにまる

詩に近い小説を書いています。

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最近の記事

鉄槌–てっつい– 【掌編小説】

正義の鉄槌がくだった。 たくさんの人を殺めてきた。 生きるため。生き抜くため。生き延びるため。 自分だけが、その輪から逃れられるなどとは思わない。 ただただ、戦いつづけた。 それしか、生きる方法を知らなかった。 何のために生きているのかもわからなかった。 ただ、目の前にいる人間を撃てと、教わった。 一度、自分と同じくらいの歳の少女を撃った。 ふわりと宙に舞う柔らかな癖毛の髪が、美しかった。 崩れ落ちた少女を必死で抱きしめている青年がいた。 少女をこの世に存在する全ての悪意

    • 鉛-なまり- 【掌編小説】

      鉛玉が、あの子を貫いた。 遠くで空爆の音がする。ゆっくりと、重力に身を任せ崩れ落ちてゆく少女。 鮮明に焼き付き、自分の中から拭い去れない光景。 這いずりながら、手を伸ばした。 あの子だけを、1人で逝かせるわけにはいかなかった。 ずっと、愛してきたから。 貧しい生活だったが、たった2人で築き上げてきた家族の形を、一切れのパンを半分ずつ食べて、豆しか入っていない薄味のスープを少しずつ分け合った。 たった一人の、俺の妹。   この不条理な世界で、たったひとつ俺に与えられた希望

      • 春霞-はるがすみ-【掌編小説】

        「あと2年で死のうって決めてるの」 彼女は柔らかな微笑を浮かべながらそう言った。 僕はなんと答えていいか、わからなかった。 彼女の瞳があまりにも優しく、穏やかにまどろんでいたから。 黄昏時の夕陽のような黄金色がちらちらと瞳の中で揺れていた。 その灯に魅入られ、自分の中から言葉というものが消えて、空っぽになったようだった。 ゆったりと机に頬ずりしながら、猫のようにまるくなる彼女の柔らかな髪の毛をそっと撫でてみた。 昔、可愛がっていた茶トラのミケを思い出した。 あの子も、ある日

      鉄槌–てっつい– 【掌編小説】