いつか銭湯に行く日

私はお風呂に入ることが好きだ。

湯船に浸かっているといろんなことを考える。その時間が結構好きだったりする。

時にはひらめきなんかもあったりして、衝動的に動くこともある。


私が幼い頃、実家にはお風呂がなかった。

昔の家にはお風呂がないところが多かったようである。

当時、目と鼻の先のところにあさひ湯という銭湯があった。今は残念ながら廃業をしていて、駐車場となっている。

小さかった私は母親に、時に父親に連れられて通っていた。

近所ではあったけど、当時の私にとってその道のりはちょっとした冒険のようだった。

暖簾をくぐるとそこはドラマ「時間ですよ」の風景が広がる。

母は2人分の料金を番頭さんに払う。

服を脱ぎお風呂へ。まず母は私の体を洗い、先に私を湯船にいれる。

そこで必ず言われたこと。それは、「50数えて出るんだよ」

私は元気よく50まで数えた。

「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお・・・」

数え終わると一旦お風呂から出て、母の元へと向かう。

母の体を洗い終わるのを少し待って、今度は母と一緒に湯船に。

この時間が当時の私は至福だった。

甘えん坊だった私は母を独り占めしたような感じで嬉しかった。

当時の母はどうだったのだろう?亡くなってしまったのでそのことを聞くことはもうできなくなってしまった。

想像でしかないけれど、母も嬉しかったんじゃないかなと思う。この時の母は笑顔だった。

湯船から上がってお風呂から出ると体を拭いてくれて、着替えをする。

脱衣所のところには牛乳などがおいてあり、「誘惑」とも言えるお楽しみがあった。

父と行った際に、私がねだると父は何かしら買ってくれた。母からは我慢しなさいと言われていた。

たまに飲むその牛乳の味は、格別のものだった。


そして帰り道では、月が出ていたりして。

「お母さん、月がついてくるよ。」

「お母さんについてくるんだよ。」

「えー、よしえ(私)についてきてんだよ。」

なんて会話をしたことを私は忘れない。


いつか私に子供を授かることができたなら、一緒に大きなお風呂に浸かりたい。

そして、一緒に牛乳をごくごく飲みたい。




何かいいものを食べます。生きます。