日本の宗教事情の一般的な整理


1) 統計の誤謬
(ア) 「あなたは何の宗教を信じていますか?」
①       文化庁宗教統計に基づくと、日本人が信じる宗教の合計値は2億人を超える。一方、キリスト教徒は190万人とされている
1.        当該統計は、各宗教法人からの報告に基づく。
各宗教法人に所属する人として報告が挙げられた人数であり、「信仰心」を持つ人数ではない。
(ア) キリスト教の信仰を持つ人は、この統計よりも多いはず。
①       信仰を持つ人は、教会に出席する人の数ではない。
2.        このような数字の結果になる理由は以下の通り
(ア) 神道:神社庁からの報告に基づく。神社庁は、各神社の担当する氏子区域に居住をする住民全てを信者としてカウントする。
(イ) 仏教:殆どが菩提寺。菩提寺に墓を持つ氏子を世帯単位でカウントし、それに平均世帯人数をかけてカウントする。
(ウ) キリスト教:キリスト教系新宗教(モルモン、エホバ、統一教会)も含む。また、キリスト教は1%というのは、総信者数2億人に対する1%であり、1.2億人に対する1%ではない。東京都のキリスト教徒比率は8%となっているが、これは、エホバ・統一教会の宗教法人の所在地をもとに、東京の信者数にカウントしているためである。モルモン教は内訳はわからないが、全国の各都道府県でカウントしてある。ほぼ全てが東京だと推測される。また、単立の宗教法人化されていないプロテスタントの信者数は含まれない。
①       従って実質的には1.1%
1.        190万人―モルモン教(13万人))―エホバ(21万人)―統一教会(30万人)+単立プロテスタント数万人=130万人
2.        東京は90万人―上記3宗教=30万人、3%
②       JMRの調査だと105万人
1.        恐らく、文化庁の統計ほどには、把握しきれていない。もしくは、統一教会が55万人として文化庁に報告をしているか。
②       重要なことは
1.        日本人は「無宗教」というのは、統計からは見えてこない
2.        神道・仏教の人数が形骸化しているというのを理解しているからこそ、その「良くわからないものを、無宗教を表現」しているだけではないのか。





(イ) 歴史的経緯:江戸期から明治維新まで日本の宗教は神仏習合化したうえでの仏教であり、他には存在をしない
①       本居宣長のといた国学は、宗教ではなく、文学であり、国造り物語である
1.        それを平田篤胤が強引に変えた
②       水戸学派の国学も本分を説いたものであり、宗教ではない。儒教も同じく。
1.        ただ、この2つは社会規範に関わった(特に儒教)という点で、ヨーロッパにおけるキリスト教の働きの一部と同じ役割を果たしてはいる
③       しかし、明治維新後の廃仏毀釈により、信仰基準が崩壊し、その後の空白を生む。この廃仏毀釈が今回の「無宗教説」が見えていく時代の始まりになる。


2) 日本における「宗教」の定義
(ア) 歴史上
①       明治期において、「神道」を非宗教として位置づけた事が混迷のスタート。
1.        明治政府は、神道を国の宗教として位置づけようとして、教理体系の整備、葬式の受け入れなどを行おうとした
(ア) しかし、教理体系の整理が出来ず、葬儀を行える神官の層の薄さもあり、この目論見は未遂。
(イ) そこで、非宗教として位置づけることで、神道は天皇を中心にした国造りのバックボーンとして「公」のもの、宗教は「私」のものとして位置づけなおした。
②       ここにおいて、「宗教」はキリスト教に限らず、「私」のものとして明確化される
1.        「私」のものとしていくための大きな弾圧は、神道系の新宗教(大本教など)に対して、行われた。
(ア) 1910年(大正10年)第一次大本事件、1935年(昭和10年)第二次大本事件
①       第二次大本事件が大きい。治安維持法の適用。1000人逮捕、本部破壊。
②       社会変革に大本教は踏み込もうとしたことが大きな理由。「公」に関わろうとしたから。
(イ) キリスト教に対しては、各ミッションスクールに教育の実施と信仰基準の分離を強制した。
①       ホーリネス教団弾圧事件は第二次世界大戦中の出来事
2.        第二次世界大戦後、「国家神道」が崩壊してからも、「公」に位置する宗教は生まれず、戦前からの延長のまま「宗教は私事」として存在をする。
(ア) 日本において、信仰が私事化しているのはキリスト教に限った話ではないと、認識しないといけない。
(イ) 従って、何故、日本では宗教は私事されたままなのか、という論点を考える必要性がある。


(イ) 学問上
①       日本人の信仰心を、どう捉えるかについて、見解は分かれてきた
1.        以前は、初詣や仏壇などは、宗教ではない、という捉え方。
2.        今の日本の宗教学界では、日本人には、ヨーロッパの国々よりも、信仰心の顕れは多く見受けられ、それを「宗教行為」だと捉えるのが通説になっている。ただ、その「宗教行為」をどう名付けていき、その変化をどう捉えるかは、各論存在する。
3.        ただ、表現としては統一されてきた
(ア) 「宗教の無い信仰」「所属無き信仰」
①       特に「所属無き信仰」は英国における「キリスト教徒だが教会には行かない」という現象を包摂する概念である。
②       上記理解を受けて、宗教を以下の2つにわけて捉えているのが、今の学会の常識のようだ。
1.        創唱宗教と自然宗教
(ア) 創唱宗教:キリスト教、イスラム教、ユダヤ教、仏教、ジャイナ教
①       宗教が生まれた時に、特別な一人またはグループからなる創唱者によって唱えらえたものを期限とする。
(イ) 自然宗教:それ以外
①       ニューエイジ、スピリチュアル、理神論もこの概念に入る
2.        以前は、創唱宗教が、「宗教である」という理解だったため、日本に見られるような信仰はあるけど、特定の「宗教」に所属していないという現象を説明しきれなかった。

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