脚本「こどもの日(2020/5/5の淀川河口「西す」道路の話)」（シーン３／６）

2020年6月7日 19:08

脚本「こどもの日(2020/5/5の淀川河口「西す」道路の話)」です。全部でシーン6まであります。
シーン4は2020/6/10(水)の夜にアップします。ぜひシーン4もご覧下さい。
6/14追記：結局シーン８まで増えました。

シーン3　指摘
2020/5/3（日） 23:00 の「西す」道路あたりにて。
男1と男2が道路幅を測定している。

男1 どない？
男2 バッチリや。地図通り。地図通りだからアカンねんけどな。どないしょー
男1 足りんの？
男2 足りんねん。行けるかなって最初は思ってんねんけど、足りんねん。
男1 南岸はどうなん
男2 絶対アカンわ。深夜でも動いてる工場が多くて、出来んねん。
男1 他は？
男2 ここだけやわ･･･困ったな･･･いや、無茶したら行けるかもしれんで。でも、そうなった場合、首から下が動かない状態で一生を終えるかもしれへん。
男1 なんかゴチャゴチャいうやん
男2 とにかくいけそうなポイントを探さないと
男1 川は使えへんの？
男2 助走がな、足りんねん。最悪そうやったとしても、川に着水するまでに。直線で助走せなあかん。それで、最後の浮かんだあとの数百メートルは川の上ならいけるわ。

男1 なるほどな････イメージトレーニングしとかなアカンな。
男2 まかせたでエース
男1 イェイェ
男2 フワフワ
男1 機体ってどこまで仕上がったん？
男2 それが、なんとも言えないんやわ。滑走路が何メートル取れるかで、機体の重量をどれくらいに出来るか全然ちゃうねん
男1 細かいな
男2 人乗せて空飛ぶわけやからな。軽くて風の力を最大限利用できる形状じゃないとアカン。
男1 ジェットエンジンとかは操作方法わかんねんけど、どういう操作になるん？あんま変われへんのかな？
男2 精密機器とか無いし、全然ちゃうで。スポーツカーの操作からいきなりモーターボートに、モーターボートの操作からパラグライダーの操作に変わるイメージやな。
男1 うっわ、トライアスロンやん
男2 車輪の操作、簡易ジェット噴射エンジンの操作、翼部分の舵切りの操作に切り替わるからな。
男1 めっちゃ楽しそうやんか。練習出来んの？
男2 無理やな。一発勝負。もっと楽しいやろ？
男1 なんで？普通テスト運転あるやろ。
男2 バレるからに決まってるやろ。
男1 ええやんバレても
男2 アカン。全然飛行機飛んでないからいいように思うかもしれんけど、刑事罰や。勝手に飛行機飛ばすのアカンねん。盗むのよりも罪重いで。
男1 俺死んでまうで。
男2 テスト飛行で死ぬ可能性もたいがいあんで
男1 なんやねんもーフライトシミュレーター作ってや
男2 あれは決まった規格とテスト何度も繰り返してるから出来んねん。町中のものかっぱらって寄せ集めで作る飛行機に乗るって計画立てた時点で諦めなアカンで。
男1 えげつい
男2 だいたい、フライトシミュレーターがなんのアテになんねん
男1 ごめん、もういいわ。くどい。他集めるもんない？探しにいくわ。安全運転出来るやつ作ろうや。墜落しても死なんやつ。
男2 死んだら謝るわ。それで勘弁な。集めるもんはな･･･今日は計測器いっぱい集めてくれや
男1 そんなん、どこに落ちてんねん

男2 車のダッシュボードにいっぱいあるやろ
男1 お前、車は盗もうとしたらブザーめっちゃ鳴んねんで
男2 今さらなにビビってんねん
男1 正味ビビんで
男2 おいおいエースどないしたどないした
男1 どこまで今出来たんや
男2 翼部分、操作に関わる箇所全般。構造はできた。翼部分。後はエンジンと計測器全般
男1 ほぼ出来てるやん。変えようないやん。なんとも言えんってウソやん。
男2 そらそうや。五日にやんねんから。でも、ここから色々なところ考えなアカンから、何とも言えないねん。飛びたかったら、探すことやな。
男1 探すわ。

男1、車を解体しようとする。まず車の扉をピッキングし、内部を開ける。車の中に入り、ダッシュボード部分の機構を取り出そうとする。ようやく仕事を終えて帰宅しようとする男3と会う。

男3 えっ
男1 オッサン何見てんねん
男3 うちの会社の車やぞ
男1 文句あるんか
男3 警察呼ぶから待ってろ
男1 おい

男1、車から出ようとするが、部品が邪魔で外に出られない

男1 おい、やめろってマジで、電話呼ぶなや
男3 えっ？
男1 電話かけたらなあ、この車を元に戻せんようにするで
男3 戻せんようになったとしても、お前その分働いて返さなアカンようになるだけやぞ
男1 はあ？警察来るまでにどついたる
男3 それ大丈夫か？そもそもお前外出られへんのちゃうか
男1 舐めとんかオッサンこら
男3 それはちゃんと外出てから言ったらどうやねん
男1 このスパナでどついたるぞ
男3 君が持ってるのはスパナじゃなくてモンキーレンチやぞ。あとそれなあ、フロント部分のガラス割ったら、君血まみれになんで。今救急外来はコロナで大騒ぎだから、受け入れてくれるかどうかわからんで？一旦、その部品元に戻して、話聞いたろうか？
男1 おい、何様やねん、お前、おい
男3 まあ、話聞いてやんねんから、出てきたらええやんか。警察呼ばれるのがどうしても嫌やったら、やり方考えてやってもええしな
男1 警察だけは呼んだらアカンぞ
男3 そんな警察怖いんかい
男1 怖いわけあるか、俺は自衛隊のエースやぞ、警察ごとき怖いわけないねん、やらなアカンことがあるんや
男3 車の中で音がこもって、どうも弱々しいで。
男1 なめたらアカンぞ
男3 天童よしみ以来やな。
男1 喧嘩売ってるんやったら買うぞ
男3 いそいそ元に戻してる人間の言うことちゃうで。
男1 なんやと
男3 警察呼ばんでやるから、落ち着けって
男1 元に戻したわ、これでエエんやろ
男3 君、自衛隊なんか？なんでこんなことやってるんや？
男1 今は自衛隊ちゃう。
男3 なんで辞めたんや
男1 使命なんや。やらなアカンことがある。自分の心に従うんや。上官にはもう従わん。
男3 いや、よくわからんわ。意味がわからん。
男1 お前に言う必要あるか？
男3 警察呼ぶで
男1 俺もう出てんで。お前みたいなサラリーマンと違って自衛隊やぞ俺。警察呼ぶ前に3秒で泣かせられんで
男3 お前、警察呼ばんかったことに恩義感じんのか？それくらいの約束も守れんのか？情けなくないか？
男1 お前に従わなアカン理由がないわ。根掘り葉掘り聞いてどないすんねん。
男3 ええか？お前はここで大人の情けで、警察を呼ばれずに済んだんや。これがどれくらい大きなことなのか、幼くて理解出来ないんや。それくらいのことと引き換え、なんでお前がそんなことしてるんかくらい聞かせるのが筋やろ
男1 ごちゃごちゃ何いっとねん

男2、来る

男2 うわっ、何見つかってんねんお前
男1 だから、車はやめた方がええって言うたやんか
男2 それはお前のやりようやんか。下手やねん。
男1 最初からお前やったらいいやん
男2 俺は作らなあかんねん。翼とか。
男3 お前最初からやりたくなかったんか。なんでやんねん
男2 お前誰やねん
男3 人様の車盗もうとして、それがいう言葉か
男2 当たり前や。まず自己紹介が礼儀やろ。
男3 それは君もな守ってないで。礼儀っていうのはまともな人間の間で守られるもんやねん。もう一度同じこと言うで。何のためにやってるんや
男2 お前が誰なんか教えてくれたら言うたってもええで
男3 そこのな、工場あるやろ？そこの従業員や
男2 エリートやん
男3 そうや
男2 こいつも、今でこそタダの泥棒やけど、ホンマにエースやったんやで。エース。エリートやったんや。信じられんかもしれんけど。
男3 聞いたわ。自衛隊やろ？
男2 そうや。
男3 自衛隊のエースがなんでコソ泥やねん
男2 オッサン、人様の物を取ることに良心痛むか？
男3 当たり前や
男2 素直やな
男3 はよ話せえよ
男2 ･･･オッサン、辛抱強いな。あと、人の話聞こうとすんねんな。立派やな。
男3 バカにしてんのか
男2 してへんよ。ホンマにそう思ってん。
男3 続き言えって
男2 なんかな、戦場とかだと、相手の兵器を取ったり、奪ったりしたら、褒められんねん。成果やな。人の物盗んでんねんけどな。当たり前や。戦争やもんな。でも、俺らは俺の意思で戦争始めてるわけちゃう。上官の指示でやってるだけや。まあそこは人によるかもしれんけど、一人で戦争はじめる奴なんかおらんねん。上の指示や。そんなオッサンの言葉ひとつでやってええこと悪いことって変わってええんか？なんかだんだんと変な感じやなあって思えて、それで、物取ることがなんで悪いのか、今は俺ちょっとわからないんやな。盗むことも作ることも、感覚的にはおんなじやねん。日常的に万引きとかはせえへんで。別にそういうリスク取ってまで節約をしたいわけちゃうからな。
男3 なんやそれ、お前のモンちゃうねんから、取ったらいかんやろ
男2 でも、そもそもなんで俺のモンになってないんやろな。生まれつき大金持ちなんかは、理由なく持ってる物が多いやろ。誰かが決めてるんかな？これは誰々のものやって、知らんやつが。それこそ上官みたいなやつが俺によこさんと、金持ちにあげとんのかな。
男3 とりとめないわ。盗んで何しようとしたんかが知りたいねん。
男2 飛行機つくんねん

男3 飛行機？
男1 航空自衛隊やねん。元々は。なんか、非常事態でな。これ、世の中がひっくり返しになるんかなって感じたんや。自分の翼で飛ばないと、俺の人生に俺で意味を与えられないって思ったんや。サラリーマンと正直変わらんねん。厳しいところはちゃうけど。
男3 自分で作って、それがどないなるんや
男1 そんなん知らんわ
男2 飛ばしたら分かることは、飛ばしたらいいやんか
男3 動機がようわからん、なんでそこまでするんや
男1 そこまでってことはないわ。飛行機作るだけや
男2 オッサン、鉄工所に勤めてるんやな。
男3 そうや
男2 一緒に作らんか
男3 なんでや、やらんわ
男2 なんでや。鉄作るより、よっぽど楽しいで
男3 鉄作るのは、世の中が必要としてるからやねん。自分の遊びのためだけにやってるお前らとは、やってることのレベルが全然ちゃうねん
男2 飛行機も世の中求めてるで。作れる技術者なんかそうそうおれへんで。俺は元々、技術系の自衛官やから、けっこう強いねん。でも、作ることが仕事ちゃうかったからな。作れるようになったら、正直、仕事になると思ってんねん。スバルとか元々飛行機作ってた会社やろ？飛行機作るってのはそういうことやん。会社作って、自分の考えで行動出来んねんで。
男3 出来てもないことを、よくもそう言えるな。作ってから言ったらどうやねん。
男2 作ってるで結構。フレームと翼とか操作用の機構なんかはもう出来てんねんで。
男3 飛ばんやろ
男2 飛ぶって！結構精度高めに計算してんねんから
男1 ホンマか？ホンマに飛ぶんやろな？
男3 仲間からも疑われてるやん
男2 ちゃうねん、こいつ、ビビってるだけやねん
男1 ビビってるわけちゃうわ、テスト飛行もようせんと、飛ばそうとするからや
男3 それは、技術者としてアカンやろ。そういうところがいい加減やと、全体的にいいかげんになるねん
男2 ちゃうって！状況が特殊すぎて、テストするのに向かんねんて
男3 君の将来のために言っとくけどな、一人の技術者として、ええかげんな計画で物作ったらアカンで。
男2 オッサン、だったら手伝ってや
男3 それは君の計画やし、物盗む奴に手なんか貸されへん
男2 そういうな、小さい事に目を向けて、計画を前に進めないのは駄目やで。大事を成功させない人間の考え方や。
男3 君、口先で人をごまかせると思ってるやろ？そういう甘さは態度に出るで
男1 オッサン、これマジや。マジのお願いや。人が必要やねん。空に飛ばなアカンねん。物盗む。俺は悪いことやとは思ってる。でも、俺たちには与えられなかった。奪うしかないねん。奪って、その上に築くしかなかったんや。
男3 それに荷担する理由なんかないわ
男1 何かに賭けることしてるか？これはな、人生と生き方を賭けてんねん。コロナで一瞬世間の足下がぐらついてんねん。ここで、大きく育つことやっとかんと、一生下っぱのまんまや。
男3 物盗むことを認めることは、優しさちゃう。それは違うと思う
男2 一回物盗んだ程度で、終わる程度の人生なら、最初からそういう人生って決まってたってことや。だいいち、そんな人生なら、物盗んで悪人呼ばわりされようが、善人として生きる価値もたいして無いわ。俺はもう覚悟したんや。オッサン、俺が理屈と口先でなんとかしようと思ってるやろ？俺はこの車から出られなかったボケよりよっぽどイカれてるで。心の底から、俺の意思で飛行機飛ばそうと思ってるわ。やし、オッサンと喋って、正直一緒に飛行機飛ばしたいってもう思ってるで。
男3 理屈は納得できんし、やってることは何も肯定できんわ。気持ちだけ分かった。もうやめとった方がいい。これ以上引き返せんことはせんほうがいい。
男1 オッサン、人柄はええねんから、ショボいこと言わんといてよ。
男2 もう一度言うで。この程度のことが引き返せんことになる程度の人生やったら、そこまでの人生やったって言うことや。逆にな、オッサンの言う通りだったとしようや、引き返せなくなるんやったら、その道をそのまま進むまでやんか。腹を決める、覚悟するってそういうことやろ？
男3 そうかもしれんな。もうなんも言うこと無いわ。
男2 俺らは言うことあんねん。一緒に物作ってや。飛行機、どう飛ばすか一緒に考えてや。どうするかを、一緒に考えることができるのが、それが人間として生きるってことやろ。
男3 誰に言われた理屈なのか知らんけどな、人を犯罪の道に進めることはやったらアカンことの最たるもんやねんで。
男1 明日、同じ時間、待ってるで。
男2 オッサンやから言うたる。飛ばすのは5月4日か、5日の未明。作業の進み具合によって変わる。そこで飛ばして、どうなるか。それは何もわからん。でもたった3人で、手元に何もないのに長距離飛行する飛行機を飛ばした集まりになる。きっと大きなことや。
男3 あんまり危ないことするなよ。気を付けなアカンで。
男1 オッサンも気いつけて帰りや

男3、退場

男2 人手になったらええけどな。警察呼ばれるにせよ、呼ばれないにせよ、明日までが勝負やろな。
男1 マジで、捕まるところやったんやぞ
男2 よかったやん。捕まらんくて。
男1 捕まったら台無しやで
男2 なんとかなるんちゃう
男1 なれへんわ
男2 あと、計測器と、滑走路どないしょか…
男1 もう車ドロボーやりたないで
男2 自分の道は自分で切り開くんちゃうん
男1 うっさいわ
男2 とにかくやり方考えなアカンなあ
男1 夕飯にしよ
男2 何にしよか
男1 今日も焼き肉にする？
男2 今日は魚釣ろ
男1 えー釣れへんて
男2 じゃあ晩飯抜きや
男1 そんな金ないん？
男2 ない。ないねん。だからどうしようもないねん。
男1 はよ飛行機完成させてや。大金持ちになれるんやろ
男2 やったら車取ってこいって
男1 いややわー
男1、男2が出ていく
男2 お前、モーターボートあんだけ取ってきて、今さらそれはどうやねん
男1 なんでモーターボートから計測器とらんかってん
男2 ああ…エンジンだけ取ってもう戻してもうた…しもた…
男1 そういうとこやぞ。オッサンも言うてたやろ

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