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SpO2 90%,PaO2 60torr未満を危険とする理由

こんなことを耳にしたことはありませんか?
「SpO2 90%未満になったら,PaO2 60mmHg(Torr)未満になっているから呼吸不全を起こしている.」
「SpO2 90%未満は危険だから酸素療法が必要になる.」
「SpO2低下はどこまで許容していいのか?」

呼吸に関するwebイベントで上記のような話題になり,今回のテーマについて話すことになり,ブログでまとめることにしました.

「SpO2 90%,PaO2 60mmHg(Torr)未満を危険とする理由」

いきなり結論を言ってしまいましょう.
なぜSpO2 90%,PaO2 60mmHg(Torr)未満は危険なのか?
それは,組織酸素化の正常下限値PvO2 35mmHg(Torr),SvO2 75%=PaO2 60mmHg(Torr),SpO2 90%であるからです‼

「どういうこと??」となった方は以下を参考してみてください.

呼吸に関して勉強するようになり,初めの頃に覚えたことで「呼吸不全」という言葉があります.
厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班1)横山哲朗:厚生省特定疾患「呼吸不全」調査研究班.昭和56年度研究業績,pl,1982)では,「室内気吸入中の動脈血酸素分圧が60mmHg(Torr)以下となる呼吸障害」を呼吸不全の定義としています.

つまり「呼吸不全」=「低酸素血症となっている状態」ということになります.

低酸素血症となる機序は以下の4つ(5つ)です.
1.換気血流比不均等分布
2.肺内シャント
3.拡散障害
4.肺胞低換気
(5.吸入器酸素分圧低下)
とても大事な機序ですが,今回のテーマに戻していきます.

さて,低酸素血症はなぜ体に良くないのでしょうか?

それは「低酸素血症」は「組織の低酸素症」を引き起こす原因の1つだからです.
そして組織低酸素は多臓器不全の原因となるため改善させる必要があります.

だから低酸素血症は良くないのです!

ここで呼吸不全について一度,整理します.
呼吸不全=低酸素血症≒組織の低酸素症=多臓器不全であると考えられます.
上記で「≒」であって「=」ではないのが気になりますね.
なぜかと言うと呼吸不全を考えるとき,低酸素血症(hypoxemia)と低酸素症(hypoxia)は区別が必要だからです.

呼吸不全は動脈血液ガス分析のPaO2つまり低酸素血症で判断できますが,低酸素症は組織における酸素供給が十分かどうかで判断するため,PaO2だけでは判断ができません.

なぜでしょう?

それは酸素の運搬にはPaO2のほかに,組織の血流量,Hb(ヘモグロビン)量によって変動してしまうからです.
つまりPaO2がいくら高くとも,組織の血流量もしくはHbが低下していれば,組織の酸素分圧が低下し,組織低酸素の状態に陥っているということになります.
これでは組織はまともに働けなくなります.多臓器不全の状態になるということです.PaO2が高いため呼吸不全とは言えないが,組織が低酸素症に陥っているかどうかを動脈血酸素分圧だけでは正確には評価できていないことになります.

それでは組織の低酸素状態を判断する指標,つまり組織酸素化の指標は何でしょうか?
それは・・・
「混合静脈血酸素分圧PvO2(本当はVの上に⁻がつく)もしくは混合静脈血酸素飽和度SvO2(本当はVの上に⁻がつく)」
です.
正常下限値はPvO2 35mmHg(Torr),SvO2 75%です.

しかしPvO2もしくはSvO2は右心カテーテルにて測定する必要がある.これは侵襲的な検査で,誰にでもやるものではありません.そこで非侵襲的に組織低酸素症を判断できないかという考えに至るわけです.

長々と書きましたが,やっと「なぜPaO2 60mmHg(Torr),SpO2 90%未満が危険であると判断するのか」の説明準備はできました.

ここで冒頭に戻ります.
「なぜPaO2 60mmHg(Torr),SpO2 90%未満が危険であると判断するのか」
それは
組織酸素化の正常下限値PvO2 35mmHg(Torr),SvO2 75%=PaO2 60mmHg(Torr),SpO2 90%であるからです(図1)‼またPvO2 35mmHg(Torr)以下が続くと生命予後が悪くなるとも言われています(図2).これらの根拠はPaO2 60mmHg(Torr),SpO2 90%は組織低酸素を生じないギリギリのラインであるとして紹介されています.(日本内科学会雑誌 第88巻 第1号:4~10,1999)

図1「PaO2とPvO2の関係」   図2「組織低酸素の有無による生存曲線」

呼吸不全図

「補足」
以上の低酸素血症(hypoxemia)と低酸素症(hypoxia)の話しは,循環,代謝が正常であることを条件としています.
低酸素症には
1.組織へ酸素が十分に届かない状態(低酸素血症,低心拍出量,極端な貧血,一酸化炭素中毒など)
2.組織へ酸素は十分に届いているが酸素消費量が多い状態(過高熱,甲状腺クリーゼなど)
3.組織へ酸素は十分に届いているが酸素を利用できない状態(シアン中毒,一酸化炭素中毒など)
があります.
(日集中医誌 2016;23:113-6.)

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