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じゅげむ

「あ、タバコ代えたのかい?前は、ナビオス・オプショナル・フォルティシモ・ウルトラライトメンソールだったな?」

「いや、銘柄は同じだ。また名前が変わったんだよ。今はナビオス・オプショナル・アコースティック・ウルトラスムージーメンソールイエローだ」

「昔はフォルティシモって名前だったな?」

「ああ。しかし、今、コンビニで『フォルティシモ』と言っても、さっぱり通じなくて、店員が慌て出すよ。だから、番号で言うようにしているよ。『フォルティシモ』という名前が好きだったんだがなあ」

「俺はキャストラルマイルドだけど、近々、ヴィンスティン・キャストラル・スイーティークラシカルという名前に変わるらしい。ややこしいなあ。社屋が全面禁煙だから、わざわざ駐車場に行かないと吸えないし、もうそろそろ、俺は禁煙しようと考えてるよ。嫁にも、車の中が臭いと怒られるんだ」

「ふむ。しかし、君は良い車に乗ってるな。クラウディオスのロイヤルサルーンだなんて」

「いや、クラウディオスのロイヤルサルーンは、だいぶ前に廃止されたんだ。俺が乗ってるのは、リクシェスブランドの、シェルジオの、サルーンシリーズの、スーパーロイヤルエアロカスタムアスリートセダンGFXというグレードだ」

「長くて覚えられない。だったら、シェルジオのロイヤルサルーンでいいじゃないか」

「シェルジオ・ロイヤルサルーンは海外輸出仕様の名称なんだ。日本では、クラウディオスの実質的な後継としてシェルジオブランドに吸収されたので・・・」

「すまん、もういい。わけがわからなくなってきた。ところで、一度出ないか。缶コーヒーが飲みたくなった。ついでにサンドイッチくらい食べたい。コンビニに行こう」

「わかった。そういえばあそこのコンビニ、改装されて名前が変わったんだよな、確か」

「スパークルJストアがファンキーマートに吸収されて、ファンキースパークルJマーケットになって、更に海外大手資本のアイウォンの傘下になって、今はアイウォンファンキースパークルJマーケットジャパンという名前になったはずだ」

「長いなあ。略して言いたい。しかし、どう略せばいいんだ?」

「さあ?『ファキマ』で良いんじゃないのか?」

「いやそれは、元からあったファンキーマートであって、スパークルJストアは違うだろう?」

「面倒くさいなあ・・・」

ふたりの会話のそばで、カーテレビではニュースが流れている。視聴率低迷に伸び悩む昨今のテレビ業界では、朝昼夕のニュース番組を一本化している。

「おはこんにちばんは。午後のめざましワイド速報おやすみステーションのお時間です。今日午前、軽田首相とアンベア大統領の会談が行われ、政府の財政対策として、日本をアメリア合衆国に吸収合併し、アメリアの植民地とすることに軽田首相が合意しました。もしこの提案が可決された場合、日本の国名は『西アメリアアトロフリョーキューニッポニア合衆国』となります。本日のゲストは女装コラムエッセイストタレントコメンテーターのウメコ・テラックサスさんです。ウメコさんは、この件についてどう思われますか?」

「長い肩書きねえ。まどろっこしくて聞いてられないわよ。女装タレントのウメコさんでいいのよ。なんかちょっとアレじゃない?とにかく最近、なんでも名前が長くて言いづらいのよ。寿限無の落語みたい。もう全部、『寿限無』って名前でいいんじゃない?」

爆笑が響く中、アナウンスが流れた。

「この番組は、鶴田UFA大正林永ドッテ味覚糖製菓、夕陽サンヨントリアポカコーラソフトボトリングジャパン、東洋入闇YXコスモスJEMOゼネラルホールディングス株式会社の提供でお送りします」

「CMの後は、未曾有の不景気により吸収合併、資本提携、経営統合を繰り返す日本企業の行く末についてです」

#第2回noteSSF #小説 #このお話はフィクションです実在の人物や企業などとは一切関係ありません

サウナはたのしい。