見出し画像

こぼしエッセイ「Rocket Dive To True Blue」



【前回のあらすじ】
気づいた時には俺は、ヴィジュアル系好きな奴らが集う合コン「第1回V系街コン」の会場にいた。途中までは理由も疑問もなく、ただ酒を呑んでいたが、女子が全くといっていいほどに男子と交流しようとする気配がなく、男子も妙に態度が消極的だ。俺はなにをしているのか。俺はなにをつかむべきなのか。「比率では男子よりも女子のようが圧倒的に多い」などという言葉は、俺にはなんの役にも立たない。なにも始められず、なにも終えることなく街のなかへと消えていくのか。寂しく残酷な現実だけがただ残るのか。しかしまだ俺は光を探し求めている。俺はこの会場の男子のなかでは数少ないというかおそらく唯一のまともに合コンがしたいトリガー系男子。最後の手段を選ぶんだ。咲くも散るも俺次第。I want to be the trigger.…………行くぜ心斎橋!



散々な結果に終わった1軒目の時間が終わり、主催者さんに案内された先は、同じビルの2階にあるバーでした。…………あれ?ここ…………。

以前に一度、行ったことのあるバーでした。関西のV系バーといえば、まずはここ、というくらいに、有名なお店。

ここのマスターさん、めっちゃ気を利かせてくださるいい人で、以前に行った時にも、気さくに話しかけてくれました。

今回も、気を利かせてくれたのか…………あるいは、たまたまだったのか…………は、わからないけれども、店内で流れる楽曲が、自分の得意分野…………2000年前後…………の楽曲ばかりでした。一般的なヴィジュアル系ブームがそのあたりで、自分とだいたい同世代なら、その時代の影響を確実に受けているはず。

そんな、夢より素敵なBGMのもと、丸テーブルを囲んで、おつまみをポリポリ…………といっても、女性陣の方々は「どうぞ」と。それを受けて「あ、すみません。ありがとうございます」と自分。これが良かった。まず、とりあえず何かを対話するきっかけが掴めたのです。これは、とてもとても地味ですが、大切な大切なことなのです。ああ、堕天使のBlueは腐った海で溺れかけている僕を救ってくれたのです。丸テーブルで女子5人に囲まれ、まさかの逆転ハーレム。

そこからはRaphaelのおはなしをしていました。花咲く週末のBaby Talkある限り…………。そこから1990年代後半のV系ブームトークで盛り上がってきたところに、ハンチング帽にサングラスの陽気な雰囲気の男性がやって来ました。男性も自分もだいぶ酔いが回っていい気分になっていて、GACKTさんの行く末について勝手に議論していました。アゲハ嬢の曲はなんだったのか。

とても楽しい。楽しい。…………のですけれども、この男性、自分より5つほど歳上とのことですが、実にコミュニケーションを取るのが上手い。聞き上手だし話し上手だし。すると、唐突に彼はこう切り出しました。

「俺、サクラみたいでしょー?」


とりあえず、「いやいやいや!」と返しましたが、これは反応に困ります。まあただ、そこから彼を「あんたサクラやしな」とイジる面白い流れになりましたが。もうこれは街コンとかV系コンとかではない…………たまたまお店で一緒になった人たちの雑談やんけ。でも、まあいいか。何もいらないから証をください。 

しばらくの談笑後、「すみません、ちょっとトイレへ……」と、一旦テーブルを離れ、お店を出て少し歩いたところにあるトイレへと行きました。すると、通路脇のベンチで、1軒目で同じテーブルだった男性2人が主催者さんと話し合っていました。

「池袋でやった時は、男子も女子も盛り上がったんですけどね。だから大阪でも行けると思ってこちら側は企画したんですけど、………」

と、主催者さんはV系コン大阪版の企画の成り立ちについて説明されているようです。男性の1人は尋ねます。

「やっぱり人数とか、土台とか、ですかね…………」

「…………うーん…………」

「コンパとしては、向いてないんじゃないすかね…………」

「…………うーん…………」

……………………………………………………………………………………………………………………………………………………こんなANOTHER STORYを見てしまいました。

1軒目では散々だったものの、2軒目ではそこそこに楽しめた自分は幸せな方でした。いちおう女の子ともお兄さんとも楽しめた…………。ありがとう、女性陣の方々。ありがとう、お兄さんがサクラだとしてもいい。情けなくていい…………あなたの嘘をまだどこかで信じて、…………あら?

お店のテーブルに戻ると、トイレに行く前よりも、あからさまに人数が減っている。女性陣が次々にカバンを持ち出し、帰る姿勢に入っている。あ、帰っていく…………。「おつかれさまです」といちおう言ったけどシカトされたぜ!

隣のお店はクラブのような場所なのですが、そこから音楽が聴こえる。この曲…………知っている…………。

どうしたんだこのお店は?見えないぞ…………流れが見えないぞ…………。


隣のお店の中に入ると、先ほど帰ったはずの女性陣がたくさんいる。そして、皆様、今日いちばんの大声でキャーキャーと盛り上がっていらっしゃる。いや呑んでいる時に盛り上がってくれよ。なんなんだ、何が起きているんだ?


「こんにちは!DJの浅井博章です!今日はV-ROCK通のお前らに、最高に盛り上がれるチューンを用意したぜ!」

あさい…………ひろあき…………だと?

浅井博章さん…………1990年代から現在にかけて、多くのV系紹介ラジオ番組やロックフェスで活躍されている、とても有名なDJの方です。もともと、学生時代にXやCOLORなどのコピーバンドをされていたところからV系を紹介するラジオを始められた方なので、有名DJであると同時に「V系好きにとっての兄貴」という側面もあ…………あ、はじまる!

「I am the trigger.」

そう、「ゔぃじゅあるけい」の教科書の3ページ目にある楽曲、LUNA SEA「ROSIER」だ。

ちなみに1ページ目はX「紅」、2ページ目はhide「ピンクスパイダー」だ。

BUCK-TICKとかZIGGYとか筋肉少女帯とかDEAD ENDとかそのあたりは後々、別冊子で学習しますから。


さて、女性陣は熱い。熱い。熱いぞ。もう…………何も信じられないまま…………咲こう。

ついさっき楽しくトークしていたお姉さんは、隣にいる自分には気づかない。まるでタヌキに化かされていたような気分だ。

DJタイムは30分ほどだったでしょうか。最高に最低なライブでした!ロックだぜ!さ、…………帰ろ。

「これだけのために来たのー♡」…………あれ?おかしいな…………幻聴が聞こえるよ。幻覚アレルギーかな…………痛みを知れ快楽アレルギー…………見えないものを見ようとする誤解、全て誤解であってくれ…………笑ってごらんよ…………笑ってごらんよ…………。

ここで、-UTAGE-はお開きとなりました。鮮やかで悲しいVELVETの空の下、グッド・バイ。いつか、どこかで。

とはいえ、男性2人とは、帰りで再び一緒になりました。お兄さんはどうやら、いつの間にか帰っていたようです。結局サクラだったのかもしれません。

男性2人と無言で、ただひたすら心斎橋駅へと歩きました。1人が言いました。

「そこにiPhoneショップありますね…………スマホケース、見に行きます?」

もう1人の男性は「ああ…………」と答えました。自分も「行きましょうか」と答えました。

そして、iPhoneケースを物色しましたが、特にほしいものがなかったので、何も買わずに帰りました。おつかれさまでした。


-おしまい-





………………というのもまあ、寂しすぎるので、おまけ。そのお店に飾ってあったサイン。




#エッセイ #あなたはいくつ元ネタがわかりましたか #もしかしてどこのお店かまでわかりましたか

サウナはたのしい。