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助手席でドヤりたい

パトカーに乗ってみたい。

などといきなり書くと、あらぬ誤解を受けてしまいそうですが、別に犯罪をおかしてしょっぴかれたいわけではありません。

別にパトカーの後部座席には1ミリも乗りたくない。あくまで、前部座席に乗りたいのです。

というか、基本的に自分は車は前のほうにしか乗りたくありません。  

オトンの運転するマツダ・ファミリアに小さい頃から当たり前に助手席に乗っていて、その感覚がずっと大人になって定着しつづけているのか、フロントガラスから遠いところに乗るのが、なんとなくあまり好きでないのです。

だからできれば、タクシーも助手席に乗せてほしい。

運転手さんが自動で後部座席をパカッと開けてくださるということは、おそらく、できるだけ助手席には乗ってくれるな、後ろにいておけという暗黙のメッセージと思われるので、しぶしぶそれに従っていますが、本音をいえば後ろでくすぶってなんかいられない。

隣に知らねえ野郎が座られるのはオーナーにとってさぞ気分が良くないだろうが、割増料金になってもいいから、タクシーの前部座席の風を感じてみたい(?)。

それはどんな車でも同じことで、ダンプカーだろうが献血車だろうがドラッグマシンだろうが、とにかく助手席がいい。

中でも、パトカーの助手席のハードボイルドを感じてみたい。

とある人里はなれた旅館で、突然に起きた殺人事件。しかしながら不幸中の幸いとばかりに、旅館には毛利小五郎も宿泊していた。もちろんいつもどおり、蘭ねえちゃんとコナンくんを引き連れて。

いつも土曜日の夕方に放送しているとおり、コナンくんが名推理を眠りの小五郎を通して披露したことで、無事に事件の謎は解明された。

犯人の男性は「あいつが……、あいつが悪いんだ……!」と悲痛な叫びを上げるも、わざわざ東京の警視庁から人里はなれた旅館までやってきた目暮警部に手錠をかけられ、パトカーの後部座席へと連れ去られていく。

その一部始終をずっと黙って眺め、遠くでメガネを光らせるコナンくんの姿を見送り、ゆっくりと動き出す車内で、犯人の項垂れる声と、警官たちの溜め息が揺れるのを聞いて、過ぎゆく景色を見守る。

犯人をかばうでもなく、責めるでもなく、落ちていく夕陽を見ながら『太陽にほえろ』のテーマを脳内で流す……。

なんともドラマチック……。いや、文章にしてみるとそうでもねえな。あと、やはり殺人事件にはあまり遭遇したくないし。

つまりは、興味本位なのです。

あと、パトカーには助手席の足元にもペダルが付いているのですが、これはアクセルやブレーキではなく、サイレンを鳴らすための装置だそうです。サイレン……鳴らしてみたい……。

ところで、同じ前部座席なら、もっと機能に溢れていて、「そこ、止まりなさい」と偉そうに言える運転席のほうがいいのではないかといわれそうですが、これは自分は辞退します。

理由はというと、自分がパトカーを運転している状態だと、それに気を取られ過ぎて、自分がいまパトカーに乗っている、ということをじっくりと味わえないからです。

ビートたけしさんは、ある時にポルシェを購入し、しばらく乗り回していましたが、せっかくポルシェを手に入れて、それに乗っているかっこいいオイラの姿を見たくても、自分ではそれを見ることができないということに気づいたそうです。

そこで、たけし軍団のメンバーにポルシェを運転させ、たけしさんご自身は後ろからタクシーに乗ってドライバーにポルシェを追いかけるように指示し、「あのポルシェ、かっこいいだろ、オイラのポルシェなんだよ」と自慢したというエピソードがあります。

ポルシェを運転したことはありませんが、実際に自分が免許を取ってハンドルを握りはじめた時は、確かに最初の頃こそ車を操っているという高揚感はあったものの、慣れてくるとだんだんと何も思わなくなってきて、信号と標識の定めによって進行していく作業を繰り返すだけで、ドライブというのは、想像していたほど楽しいものではないのかな、という気持ちになっていきました。

当たり前ですが、常に安全を確認するために気を張っているので、イキる余裕などないのです。

世の中にはハンドルを握ると性格が変わる人というのがいて、自分はたぶんそのタイプだろうなと思っていたのですが、意外にもそうではありませんでした。

むしろ普段よりも弱気で、減速しない状態が5分も続くと南無阿弥陀仏を唱え、10分ともなるとジーザスに救いを乞い、信号のない60キロ道路なんかに差し掛かるとアラーに祈りを捧げ出す。

おまえの宗旨はどうなっとるんだというセルフツッコミをする間もなく、運転中は常にビビっているわけです。

なので、全くそういうことを気にせずに、なおかつ俺はこの車に乗っているぜとドヤれる立ち位置の助手席にいたい。

あ、客観的に考えたら、これ、アレだわ。

シャコタン車の横の窓から、顔を出して大声で喚き散らすクソヤンキーと同じ発想だ……。

ということに気づいてしまったが、とにかくドヤりたいだけなのかもしれません。日常生活でドヤれることがあんまりないから……。

ちなみにひとつだけドヤらせていただくと、私の運転免許証は10年以上ずっとゴールドです。もう10年くらいペーパードライバーだから……。

サウナはたのしい。