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弟の自死 - 20. 火葬③

予定時刻よりも早く着いた母と私は、火葬の時刻まで待機してたが、予定よりも10分早く、移動を促された。

「周囲に人が居ないので、今が良いと思います」
と、葬儀社の担当者が配慮してくれた。
棺内に消臭を施してはいるが、やはり強く臭いが残っている為だと思われる。

母と私はゆっくりと歩き、棺の前まで移動した。
この棺の中に弟の遺体が入っている・・・
やはり、どこか実感が湧いておらず、
実は何かの間違いという可能性もあるのでは?
などと思ったりもした。

葬儀社の方から、
「最後に、お会いになられますか?」
と問われ、予定通り私のみですと答えると、
「損傷が酷く、臭いも残っていますが大丈夫ですか?」
と聞かれた。
私は、大丈夫ですと答えた。
母には、
「背を向けて待っていて欲しい」
「(弟)にお別れしてくるね」
と伝えた。
母は無言で頷き、泣きながら棺に背を向けてくれた。

私は母から離れ、棺の前まで移動した。
葬儀社の方が、棺頭部の扉を開けてくれたが、よく分からない。
葬儀社の担当者から
「見えますか?」
と聞かれるが、よく分からない。
「分からないです」
と伝えると、葬儀社の担当者と葬儀場の担当者2人が、棺桶の蓋を3分の2程開けてくれた。

弟の自死から5日後、初めてハッキリと対面した。
やはり、強く臭いが残っている。
消臭剤の臭いと死臭が混ざっているが、ハッキリと死臭を感じる。

弟の姿は、全身が真っ黒で、顔は右を向いた状態だった。
髪の毛はほぼ全て抜け落ちて、目が大きく見開いて、舌が出ている。
死後硬直の為なのか、このような状態だったのだろう。
弟の表情はとても苦しそうに見え、”安らかさ” を感じる事が全く出来なかった。
だが、この事は一生、母には伝えないつもりだ。

苦しそうな表情の弟を見て、涙が止まらなかった。
「辛かったな・・・本当におつかれさま」
と、声をかけた。
同僚が届けてくれた花束を弟の胸元に置き、棺の蓋を閉めてもらった。
葬儀社に依頼した花束は、母が棺の上に乗せた。

火葬炉まで移動した。
促されるまま焼香を済ませる。
係の方が棺を火葬炉に入れ、深々とお辞儀をした後にスイッチを押した。

母は泣いてはいたが、少し落ち着いた様子であった。
私もそうだが、やはり実感が湧いていなかったのだと思う。

葬儀場へ入った時
位牌の文字を見た時

急激に弟の死を突き付けられるような気持になったのだが、それでも実感が湧かない。

遺体と対面していない母は、私よりも実感が湧かないのだろうと思った。

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