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弟の自死 - 21. 火葬④

母と私は、火葬が終わるまで喫茶室で待機する事になった。
火葬は40~50分ほどかかるらしい。
アイスコーヒーを2つ頼み、母と私は待機していた。
母は少し落ち着いてきたが、涙が止まらないようだ。

周囲には4~5人のグループが4グループほど居たが、皆談笑していた。
私は、葬式や告別式を行わず火葬のみとした事を悔やんだ。
あまりにも展開が早すぎて、心の整理が追い付かないからだ。
たとえ参列者が居なくても、読経を聞きながら式を数時間行う事で、気持ちを整理する時間が与えられるのではないかと思う。
喫茶室で待機するグループの中で、談笑せずに暗い雰囲気で過ごしているのは母と私だけだった。
母と私は、談笑できるような気持にはなれなかったのだ。

50分程経過し、母と私は収骨に促された。
ゆっくりと歩いて移動する。
現実のスピードに感情が追い付かず、茫然としながら移動していた。

骨上げする部屋へ移動すると、火葬を終えた弟の遺骨が運ばれてきた。
骨になった弟を見て、母は涙を流す。
私は、骨になった弟を見ても、やはり実感が湧かないような気持で、茫然としていた。

係の人が骨の部位を説明してくれる。

ここが膝です
股関節です
頸椎です
頭蓋骨です

などと説明してくれていたのだが、ほとんど頭に入らなかった。
火葬を終えて、骨からは嫌な臭いがしなかった為、臭いが消えた事に安心した。
何となく体の形を残して骨になった姿を見ても、火葬直前に見た弟の苦しそうな表情は、全く読み取れない。
弟の凄惨な姿を、母に見せる事なく済んだ事に安堵した。

茫然としている内に収骨を終えた。
弟の遺骨が入った骨壺を手渡され、私が抱える。
葬儀場に入ってから1時間30分程度だと思うが、どうやら全ての手順を終えたらしい。

葬儀社の担当者に促されて、タクシー乗り場まで歩いて移動した。
私は実感が湧かず、何を考える事もなく、骨壺を抱えながら茫然と歩いていた。

タクシーに乗り混む際に、突然母が崩れ落ちた。
私は骨壺を抱えていた為、母を支える事が出来なかった。
葬儀社の担当者が母を起こしてくれて、ゆっくりと母をタクシーに乗せてくれた。
私は実感が湧かずに茫然と歩いてしまっていたが、母も私と同様に茫然とし、早い展開で気持ちを整理する時間もなく、力なく崩れ落ちてしまったのだと思う。
弟の遺体発見時、"母のケアを最優先する" と決心していたのだが、自分自身が茫然としてしまい、母への配慮が行き届かなかった事を悔やんだ。

母と私はタクシーに乗り、母の家へと向かった。

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