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弟の自死 - 16. 特殊清掃 現地見積

特殊清掃業者に電話をした翌日。
現地見積の為に、再度弟の部屋に入らなければならない。

私は遺体発見以降、毎日臭いのフラッシュバックで嘔吐していた為、臭いに対して恐怖心が有った。
弟の部屋に入ると、服や髪に臭いが移ってしまう。
帰宅後、自室に臭いが移る事を懸念し、帰宅した際にやる事を想定した。

靴は捨てる → すぐにシャワーを浴びる → 着ている服は即洗濯

・浴室前には着替えを置いておく
・靴はボロボロになった古い靴を選定
・靴を捨てるためのごみ袋は玄関に置いておく
など、入念に準備をしてから出発した。

予定時刻に弟宅へ到着すると、特殊清掃業者2名(男性1名、女性1名)が待機していた。
「この度はお悔やみ申し上げます」
との言葉を貰った後に、花を手渡してくれた。
この気配りがとても嬉しかった。

簡単に経緯を説明した後、鍵を開け、ドアを開けてみた。
開けた瞬間、やはり酷い臭いがする。

まずは室内を消毒した方が良いとの事で、女性業者の方が仰々しいマスクを装着して室内へ入った。
やはり、業者はちゃんとしたマスク(ガスマスクのようなモノ)を使うんだなぁ
などと思いながら外で待機していた。

消毒が終わった後、室内の臭いを測定するとの事で、男性業者の方がマスクを装着し、臭気を測定する器械を持って室内へ入っていった。
待機している間は業者の方と会話していたのだが、私に対して大変配慮してくれているのが印象的だった。

数分後、男性業者の方が室外に出てきた。
臭気は測定器の最大値【999】を計測していた。
ドア外の臭気は【1】未満で、室外に臭いが漏れていない事は確認出来た。

業者の方から「一緒に入室出来ますか?」と問われたが、大丈夫ですと答えた。
私が先頭で入室する。
つい癖で、玄関で靴を脱ごうとしたが、業者の方から
「靴は脱がずにそのまま入室してください」
と制止された。

私はマスクを2重にして、左手で鼻を抓んで入室したが、全く効果が無い。
それでも酷い臭いを感じる。
どうしても口で呼吸するからだろう。
靴を履いたまま室内通路を進み、部屋に入った。
電気料金不払いで電気が止まっている為、部屋の中は暗い。
スマートフォンのライトを点けて室内を進む。

改めて部屋の中を見渡して、驚いた。
弟の遺体があった場所から、かなり広範囲に体液が散乱していた。
6畳の部屋半分くらいに体液が散乱していた。
蠅と蚊が飛んでいて、耳の近くを通ったり顔に留まったりする。

私は極力平静を保ちながら部屋全体を見渡した。
床に散乱した体液以外は、特に汚い状態ではない。
物が少なく、意外にも整理された部屋だった。

整理整頓した暮らしをしてたんだなぁ
生活保護でお金が無かったから、物が殆ど無いんだろうなぁ
弟は自死の直前、何を考えていたのだろうか?

業者の方2名は、室内の写真撮影や状態確認をしていたが、私は弟が自死した部屋の中で、ただただ茫然としてしまった。

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