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弟の自死 - 18. 火葬①

弟の遺体を発見してから5日後。
火葬式は10:00開始だが、この日は6:00に目が覚めた。

遺体発見以降、1日が長く感じていた為、火葬までの5日間はとても長く感じた。
特に根拠は無いのだが、
"火葬を終えれば一段落する"
というような気持ちがあった。

喪服を着るのは久しぶりだった。
5日経っても弟の死に対する "現実味" を感じておらず、黒いネクタイを絞めていても、他人の葬式に出席するような感覚だった。

今まで何十回と自殺未遂をしていた経緯から、
"弟が自殺してしまう"
という状況は、いずれ起こり得る事だと覚悟をしているつもりだった。
だが、想定は漠然としていたのだと、つくづく感じる。

"子が親より先に死ぬのは一番の親不孝だ"

というような言葉は、誰しもが聞いたことが有る言葉だと思うが、本当にその通りだと思う。
弟にとって、生きることが辛かった事は理解できる。
だが、親にこれほど悲しい思いをさせてしまう事を、弟は分かっていたのだろうか?
そこまで覚悟の上で、自死を選択したのだろうか?
どうしてもそのような事を思ってしまう。
準備をしている母も同じような感情になっていないか、不安に感じた。

"親の死を見送る"
という時が、いずれ必ず来る事だと、多くの人は考えていると思う。
だが現実は、母と私の2人で弟の死を見送るのだ。

とてつもない不安感と絶望感を感じ、黒いネクタイを絞めながら、葬儀場へ向かう事に気が重くなった。

火葬の前日夕方に、同僚が花束を持ってきてくれた。
同僚はわざわざ私の家の最寄り駅まで来てくれて、
「一緒に火葬してあげてください」
と言って、私に花束を渡してくれた。
同僚の配慮が本当に嬉しかった。
我慢しても涙が零れてしまい、泣き顔を見せないように必死だった。

9:00にタクシーを手配した。
母の家を経由して、葬儀場へ向かう事にしていた。
母の家付近に到着し、母をタクシーに乗せる。
母は思ったよりも元気そうで、ひとまず安心した。

車中で、同僚がくれた花束の事を母に伝えると、母はとても喜んでいた。
今日、葬祭場に行くのは私と母の2人だけだ。
式に呼ぶような親族も居らず、弟の近しい友人や同僚も居ない。
寂し過ぎる状況だが、弟の為に花束を贈ってくれる人がいる事に、母は嬉しかったのだと思う。
母の心を癒してくれた同僚の心遣いに、心の底から感謝した。

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