残された命の使い方

「私、癌らしい。しかもステージ4の大腸がん。長くて数年かな」
と高校時代からの友達から告白された。

「え?嘘やろ?なんでわからんかったん」

「出血があるな~とはおもってたけど、痔なんかなと。でも大量に下血してわかった…」

余命宣告された友達に、何と声をかけたらいいのかわからなかった。

離婚して、女手ひとつで二人の子を育ててきた。とにかくよく働いていた。
身体が弱く、お嬢さん育ちだったのに、いつの間にか強い母になり、子供たちは成人し、一人は結婚して子供ができたばかりだ。

彼女とは同じバスに乗り同じ高校に通っていて、同じクラスになり、友達になった。
彼女はどちらかというと優等生タイプ。
私は勉強できないアホタイプだから、全く正反対だったがゆえに仲良くなったのかもしれない。
なんと、卒業アルバムには授業中に、辞書を見る彼女と、手紙をハート型に折っている私が同じフレームに写っている(笑)

でもいつも、「人生山あり谷あり」と言いながら、お互いに本当に大変な事を沢山乗り越えて生きてきた。

「なんか~痛み止めが~キツくて~何を話してるかも~わからん時があるねん~」と言いながらも電話をくれていた。

高校時代には学級委員もつとめたしっかりものの彼女が…、ロレツが回っていない…
痛み止めの薬が効いてくると、そうなるらしい。
彼女いわく、「自分はええねん、子育てもできたし、寄り添ってくれるパートナーもいる。それよりも、周りの皆が健康でいてほしい。願いはそれだけ。必ず検診受けてね」と言った。

決して諦めてほしくはないけれど、言葉にできない激しい痛みとの戦いを強いるのも正直つらい。

私は「元気になってほしい。でもこれ以上頑張れはいえへん。今でも十分頑張ってるんやから。
それより人の命はわからへんやん、私も明日事故でいなくなるかもしれん。だからこそ、楽にストレス感じず、楽しく1日を穏やかな気持ちで過ごしてほしい。」
と話した。

彼女は「やっぱりわかってくれるな、ありがたいわ」と返してくれた。
というのも、頑張れ❗️は、ありがたいけど、酷だという。
「痛みは自分持ちやん。『頑張れ』は言えるやろな、その人は、痛くないんやし。私は痛いねん。もう頑張りたくないねん。
身の置き場のない痛み辛いねん。

親に散々世話になって、治療費もバカにならんのに、90越えた親に『お前のためならだしたる❗️』と言わせる辛さ。
ありがたいけど辛い。
どこまで親不孝なんやと自己嫌悪や。
パートナーはよくやってくれはるからありがたいけど、心配のあまり、キツくならはる時があるのがしんどい。
私も穏やかな気持ちで残りの時間を、普通にすごしたいねん。
それに確実に治るならいいけど、そうじゃない。
もう色々転移してるから、手の施しようがないんやから。迷惑かけたくないねん」

「もうしんどいねん、楽になりたいねん」

彼女はそういいながら泣き出した。

二人で号泣した。
実際に会っていたら抱きしめられるけど、今は会えないから、気持ちをしっかり抱きしめた。

しばらくして彼女が「やっと思ってたこと吐き出せた!ありがとう。楽になったわ。やっぱりあんたが居なあかんわ(笑)」と言ってくれた。

この時の彼女は体調のいいとき、まだ家事なども少しゆっくりならできていた。
薬で意識が混乱するときもあるけれど、痛みをコントロールできていた。
今はこんなご時世で会いにいけないけれど、「落ち着いたらゆっくり話そうね」と、再会を誓い合った。

あれからなかなか彼女に連絡できずにいた。
時々LINEをしたり手紙を書いたりしていたが、今年のお正月以降連絡が途絶えていた。

それが、今日LINEがきた❗️
良かった❗️と思ったのはつかの間。彼女が亡くなったという知らせだった。

すぐに会いに行った。
実際に見るまでは信じられない。
そんな気持ちだった。

お正月には一時退院して、家族と楽しく過ごせたみたいだった。
もう少しで、緩和ケア病棟に再入院する予定だったらしい。
実は病院からは来年のお正月は迎えられないと言われていたそうだ。だからこそ、お正月楽しく家族と過ごせたことは本当に良かった。

さらに今日はたまたまパートナーが休みで家にいたから最後を看取ってもらえたようだった。
夕方だったから家族がすぐに集まれた。
訪問看護の人が来る日だったから、身体を綺麗にして、着替えもすませていたという。

彼女が今日という日を選んだみたいだとパートナーは言っていた。実に彼女らしいとおもった。

遺体を見ても信じられなかった。
ただ寝ているみたいで、思わず「何寝てるんやな。起きて❗️来たよ」と話しかけてしまった。
すでに彼女は冷たくなっていたのに。現実が受け止められない。
彼女の子供たちと泣いた。

彼女と一緒に乗り越えてきた様々なことが色々思い出された。
話せる間に会いたかった。
だけど、痩せ細って苦しむ自分の姿は見せたくなかったと思うというパートナーさんの言葉に頷けた。
彼女ならそうだろうな。
人一倍やさしく、相手の気持ちに同化してしまうからこそ、人には苦しい顔は見せないし、耐えてしまう。言いたいことも言えず、いつも「いい子」だった。

あんた、そやから病気になるねん❗️と今は話せなくなった彼女にいってやった。
でも、本当によく耐え抜いたと思う。

最後に私は耳元でささやいた。

やっと楽になれたね。
お疲れ様。
ありがとう。




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