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マイナンバー政策を考える

「届くのが遅い」、「申請システム大丈夫なの?」
コロナ禍に対する経済対策の目玉の一つである特別定額給付金、その事務業務やオンライン申請の問題が注目を集めています

その課題の今後を考える上で欠かすことの出来ない「マイナンバー政策」について、最近の出来事からロードマップ、政策の動きを紹介しながら解説していきます。

1. 給付金狂騒曲 ~法も阻む行政事務~

令和2年4月20日、国民1人当たり10万円を配布する特別定額給付金事業閣議決定された。

ただ、この給付金作業でトラブルが相次いだ。
問題の入口は「給付されるまで遅すぎる」という批判だった。しかし、その原因が分かるにつれ、その申請プロセスやオペレーション、申請システムの問題を言及する声が上がった。

特にオンライン申請には大きな課題があり、根っこを辿っていくと「マイナンバー政策」に行きつく
マイナンバー制度には3つの目的がある。

そして、この中の「2.国民の利便性の向上」をさらに向上するために、行政手続きの電子化の鍵としてマイナンバーカードも同時に導入された

しかし、2013年にマイナンバー制度が運用されてから、約7年経っているが、今回はそのどの目的も果たせなかったと言える

ただ、ここで紐解くべき点がある。

今回マイナンバーカードを用いたオンライン申請は行われた。だが、給付金事業の事務作業には、マイナンバーは用いられなかった。正確には、「給付金業務への活用を法律で許可されていない」のである。

これは、マイナンバー制度におけるプライバシーの保護や国による個人管理の懸念に対応する大事なルールで、6月2日の高市総務大臣の記者会見でも言及されている。

特別定額給付金の給付事務でございますけれども、マイナンバーの利用を認められた事務としてマイナンバー法の別表に記載がなかったということで、番号そのものを利用することができませんでした。(by 高市総務大臣)

それだけではない。
自治体のネットワークは、三層分離という構成をとっている。

せぐなべから画像を引用

これは総務省の「地方公共団体における情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」で示されており、「インターネット系」から「マイナンバー利用事務系」は、完全に分離するよう言及されている。

そのため、「インターネット接続系」から入ってくるマイナポータルからの申請情報を「マイナンバー利用事務系」にある住民基本台帳を直接照合することは出来ず、別の仕組みでカバーするほかない

これは、「セキュリティはちゃんとしているのか?」という私たちの声に応えるための構成であり、この3層分離は行政事務の負荷は総体的に増大させている。

行政事務の負荷増大は、そのコスト増大と私たちに円滑に届くことのハードルを上げることに繋がる

ちなみに3層分離は、世界的に見ても異例のことだと言われている

こういったことを「国や自治体の準備不足である」と事が起きてから文句だけを言うのは不毛なことであると私は思う。浮き彫りになり、世論の目が向いた今こそ、建設的な議論や意見を上げるチャンスだ。

いまマイナンバー政策は大きなうねりを見せている。

ここで私たちが、マイナンバーを建設的に議論をし、持続可能で利便性のある行政サービスのために、振舞い、取り組むべきなのかを考えるべきではないか

2. あなたは、本当に"あなた"ですか?

そもそも、マイナンバーやマイナンバーカードはなぜ必要か。
簡単に言えば「あなたが"あなた"であることを証明するため」だ。

そして、なぜ証明が必要なのか。
それは「行政サービスは"あなた"に提供されるものだから」だ。

つまり、「あなたに提供されるべき行政サービスが、不正なく届くために、あなたは"あなた"である証明をしなくてはいけない」ということだ。

これは行政だけに限った話ではない。
Netfricsの有料動画を見たければ、有料会員登録をし、ログインする際は登録者本人であることを証明するためにIDやパスワードを聞かれる。

それと同じと思っていい。
ただ、民間サービスに比べ、厳格であることが多く、その厳格さはセキュリティに貢献するが、UXとはトレードオフの関係になるということである。

そして、行政サービスを提供する際には行政機関に事務作業が発生する。その際に"あなた"の情報が必要になるが、これを一つの場所に集約するのは危ない

そこでマイナンバーを国民一人一人に割振ることで、情報はバラバラに保管しながらも、情報連携を行い、行政事務をスムーズにすることで、結果的に行政サービスを円滑に受け取れるようにしている。

マイナンバー政策では、マイナンバーカードが申請時の身元確認・当人認証の表側の仕組みを支え、マイナンバーが行政事務の情報連携という裏側を支える仕組みになっている。

3. マイナンバー政策のスケジュールを俯瞰する

マイナンバーは、すでに2023年までロードマップが示されている。

直近であれば、マイナポイントの動きがある。

マイナポイントは、マイナンバーカードを用いたマイキープラットフォームという取り組みの一つだ。

民間サービスでの利活用も進んでいる。例えば「TRUSTDOCK」や「xID」といった民間サービスで、身元確認を要する口座開設のような厳格なサービスにも対応可能な本人確認手段をSaaS化して提供している。

ロードマップを見ると、法改正によってマイナンバーの利用分野を拡大し、それに合わせたシステム整備を進め、行政サービスのオンライン化・ワンストップ化などの利用用途の拡大を予定している。

前述の行政内のネットワーク構成の課題改善策として、eLTAXやマイナポータルを限定し、LGWAN経由の特定通信であればマイナンバー利用事務系へデータ取組を許可するようなガイドライン改定の検討も始まっている。

これが実現すれば、行政事務の効率化=事務経費の圧縮を期待できる。

こういった動きは給付金の動きと関係なく、いままで水面下で取り組まれていたことである。

現在、2割程度のマイナンバーカード取得率を後押しすることが出来るか。期待したい。

そして、吉と出るか凶と出るか、今回の給付金の影響によって新たな動きも起きている

4. 大きなうねり ~マイナンバーと銀行口座の紐づけ~

各マスメディアは「政府がマイナンバーに全口座を紐づけ義務化を検討している」と報じた。

元々は、口座紐づけは各銀行で本人の同意の下、任意で行われていた。ただ、義務化に対して不安や反対の声も出ている。

その他、来週にも自民党・公明党・維新の会の共同でも、マイナンバーに関連して議員立法を提出すると言われている。口座についてはこちらも触れているが、給付金業務に限定したものになりそうだ。この内容について前IT・科学技術担当大臣である平井卓也議員はyoutubeで丁寧に解説をし、理解を求めている。

小倉まさのぶ議員もその内容を詳細に触れています。

それに加え、デジタルID案を検討しているという話も出てきた。

ただ、これはあまり情報が出ておらず、デジタルID案が議論されると言われているデジタル市場競争会議の内容をチェックし、追って解説したい。

5. 私たちはどう振舞うべきなのか?

マイナンバー政策は、デジタル社会に向けて必要となる「行政デジタル化」や民間でも重要視される「eKYC(electronic Know Your Customer:オンライン&デジタルでの本人確認)」のカギとなる制度だ。

重要になるのは、プライバシー・セキュリティ・UXをどのようにバランスさせてリスクコントロールをし、それをどのように実現するかである。

マイナンバー導入時、セキュリティ懸念の声が多かった。そのためネットワークの分離構成を取っているが、諸外国と比較すると異例なものであることも分かる

政策は、私たち一人一人の声が少なからず反映される。
適切な反映には、過激な言葉だけでなく、冷静な提言が必要になる。

政権への信頼性といった批判も重要な論点ではあるが、立ち戻り「マイナンバーの制度はどうあるべきなのか?」というモノゴトに焦点を当てて考えることも大事なのではないだろうか

[ 執筆・編集:深山 周作 ]

さいごに

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情報ソース

給付金で大混乱「市役所窓口」のヤバすぎる内情(東洋経済)
郵送より遅い? 10万円給付「オンライン申請」の本末転倒(毎日新聞)
マイナンバー(社会保障・税番号制度)(内閣府)
セキュリティ対策の基本は総務省資料の「三層の構え」にあり!(せぐなべ)
マイナポイント事業(総務省)
TRUSTDOCK(TRUSTDOCK)
電子国家・エストニアで誕生 ブロックチェーンを活用したデジタル社会の身分証アプリ"xID"が日本で提供開始(PR TIME)
「自治体情報セキュリティ対策の見直しについて」の公表(総務省)
骨太方針に向けて(内閣府)
政府、マイナンバー「全口座ひも付け」義務化検討 来年の法改正目指す(毎日新聞)
緊急時給付迅速化法案_20200603(youtube,平井卓也チャンネル)
日本の政府・自治体での「ネットワーク分離」は世界的には異例(日経Xテック)

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