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石徹白洋品店とKAPOK KNOTのご紹介 ~オンラインイベント「サステナブルなものづくりを目指して」レポート①~

3月2日にオンラインイベント「サステナブルなものづくりを目指して」が開催されました。平日夜にも関わらず多くの方々にオンラインでご参加いただき、質疑応答などインタラクティブな瞬間もあわせて知的な興奮に溢れた90分となりました。当日ご覧になれなかった方々のために、テキストでご紹介いたします。

知るところからすべてが始める

公山2

(公山)パブリックマインドの公山倫子です。パブリックマインドは社会課題の解決に取り組むNPO法人や社会起業家の皆さんを応援する団体で、2021年10月にNPO法人化しました。「副業で社会貢献を」をテーマに、私たちも副業で様々な活動を進めています。
世の中がよりうまく回っていくためにはどうしたらよいか?
それは「知るところからすべてが始まる」と考え、先駆的な取り組みを進めている方々に取材を進めています。知ってすぐに変わるわけではありませんが、ご覧いただく皆さんの生き方や消費行動に少しでもよい影響があればよいなと思って、取材内容の発信を続けています。

昨年はサステナブルファッションに注目して取材をしました。今回はそんなサステナブルなものづくりに真摯に取り組む石徹白洋品店の平野馨生里さん、KAPOK KNOTの深井喜翔さんをお呼びしてお話を伺いたいと思います。

ものづくりはもちろん、視聴者の皆さんのヒントになるよう、「サステナブルなライフスタイル」についてもお聞きしたいと思います。

まずは、おふたりがどんな活動をしているのか紹介いただきます。

石徹白洋品店のご紹介

(公山)それでは、平野馨生里さんから石徹白洋品店をご紹介いただきます。

100世帯250人の小さな集落

平野1

(平野)石徹白洋品店の平野馨生里です。岐阜の山奥にある石徹白(いとしろ)でブランドを立ち上げ、服作りをしています。石徹白は岐阜県と福井県の県境、白山連峰の麓にある100世帯250人の小さな集落です。

石徹白の鳥瞰写真

私は岐阜市で生まれ育ちましたが、石徹白という集落を好きになって移住しました。2012年に石徹白洋品店を立ち上げたのですが、きっかけはおばあさんたちから教えてもらった「洋服以前の服」に出会ったことでした。

現在88歳の石徹白小夜子さん、94歳の石徹白りさこさんにお会いして、集落で作られてきたという「たつけ」というズボンに出会いました。洋服より前の時代につくられていた働くための服です。

たつけ

小夜子さんが若いころ、馬で農耕しているときの写真を見せていただいたことがありますが「たつけ」を履かれています。農作業で当たり前のように着用されていたのです。

洋服以前の服「たつけ」

(平野)ブランドを立ち上げるにあたって洋裁の専門学校で学びましたが、服を作ると同時に端切れがたくさんでることにジレンマを抱えていました。いろいろと考え、吟味を重ねて選んだ大事な生地。その半分ぐらいを捨てなければならないのです。

ところが小夜子さんに教えていただいた「たつけ」は違いました。いっさい端切れがでないのです。「たつけ」は着物や浴衣のように35cm幅の布を切り、パズルのように組み立てながら縫っていくと、全く無駄なくつくることができるのです。

できあがった「たつけ」はお尻のあたりにゆとりがあり、しゃがんでもゆったりしています。野良仕事でも動きやすいです。

たつけ着用の写真

私たちは「たつけ」をはじめとして、「はかま」、「かるさん」、「さっくり」、「越前シャツ」を作っています。これらは石徹白で長く伝えられてきた「洋服以前の服」です。

石徹白に伝わる直線裁ちの服

私は着物や浴衣も大好きですが、普段着るのは洋服です。「たつけ」のように動きやすくて日常的に着ることができる「洋服以前の服」を現代の日本のスタイルに合わせて作ることで、日本人のアイデンティティとしての服を取り戻せないだろうかと考えています。

民衆の手によって受け継がれてきた服という意味で私は「民衣」と名付けています。教えてもらった「たつけ」作り方はYou tubeでの動画配信や、ワークショップを通じて広めています。

家庭で服を作ることは、以前は当たり前でしたが廃れつつあるように思います。今こそ、そういう文化を残していきたいです。

素材へのこだわり~蚕、羊毛、草木染、藍染~

(平野)地域の方々に服をどのように作ってきたのかを聞いたところ「お蚕さんを育てていた」と言われ、私たちも育て始めました。シルクの原料となる蚕は桑の葉を食べて育ちます。柔らかくておいしい桑の葉をたくさん食べてもらえるように集めています。「土から生まれる服作り」です。

石徹白洋品店ではウールの製品も作っていますが、2年前から羊を飼い始めました。マルちゃんと名付けて育てています。製品をつくるのに1頭だけでは到底足りませんが、年に1回羊毛を刈り、ウールがどう作られてくるのか実践しながら学んでいます。

染めるにも環境に影響する化学染料ではなく、周りにある植物で染められないかと考えています。近くの耕作放棄地にヒメジオンが生えていて、「これを使ったらうまく染まるかな」と試したらきれいな黄色に染まったので使っています。周りにあって誰も使わない、私たちが使っても迷惑にならないものを染め材に活用しています。

藍染もしています。藍には防虫作用があり、「マムシに噛まれないように」と農作業で使われてきたと聞きます。
染料となる蒅(すくも)ができるまでには土を耕し、藍を育て、収穫した葉を乾かし、甕のなかで発酵させるという手順が必要です。藍の葉の栽培から染めて販売するまで4年掛かりますが、昔の方法を学びながら実践しています。

藍染

石徹白洋品店のこれから

(平野)スタッフと話をしてこれからの目指す姿をイラストにしています。この村で循環して、ここの自然資源を使ってつくっていくことを表しています。
周りの畑で食べ物を育て、山羊や羊がいて、こどもたちがいて、命がつながっていく。循環する小さな理想の村を描いています。

石徹白洋品店染められる森づくり

スタッフはほぼ移住者です。いま石徹白の集落全体250人のうち約50人を移住者が占めていますが、一時は児童数が4人にまで減るなど危機的状況でした。存続の危ぶまれた地域の小学校を30年後まで残そうと地域づくりを進め、子育て世代の移住者を積極的に受け入れた結果、子どもが増えています。石徹白洋品店が移住者の働く場所の一つになれればと思っています。

スタッフ写真

石徹白洋品店のコンセプトを次のように定義しています。

石徹白という場所から

石徹白(いとしろ)という地域で、
先人たちが積み重ねてきた知恵を学び、
日本人が古来より作ってきた直線裁ちの服を、
現代のライフスタイルに合うカタチにリデザインしています。

布の無駄が出ない服を、
この土地にある植物の色で染めて作っていくことは、
作ることに関わる私たちの心を穏やかにしてくれます。

そして、この服を着る方たちにも、
この豊かさ、自然の恵みを感じていただけたら幸いです。

そして、石徹白洋品店が目指す未来を、

たつけを世界へ
土から始まるものづくり
幸せに暮らし、働ける場を

と記しています。

今年の5月で10周年ですが、次の10年後2031年の石徹白洋品店はこんな姿です。

石徹白洋品店の思いの詰まった宿をつくり、
世界中から石徹白に人が訪れてくる。

お店には、博物館みたいに、
古い宿や、石徹白小夜子さんの映像が展示されている。

訪れた人とともに、
藍染したり、草木染したり、五倍子を拾ったり、
馬に乗って、山に行き、馬に荷物を下げて帰ってきて、
美味しいご飯を食べて、語らう。

そんな体験を通して、石徹白で住みたい人も出てくる。
大家族のような環境で、みんなで子育てをする。


(公山)ありがとうございます。石徹白に行くには東京からどれくらいかかりますか。

(平野)東京からクルマで6時間。公共交通機関で名古屋まで来ていただければ、名古屋からはクルマで2時間です。

(公山)パブリックマインドで以前取材した記事も参考にしてください。


KAPOK KNOTのご紹介 

(公山)続いて、深井喜翔さんにKAPOK KNOTについてご紹介いただきます。

次の75年を考える

深井1

(深井)KAPOK KNOTの深井喜翔です。私は創業75年のアパレル企業の4代目で父はカシミア、母はウールの繊維家系です。事業を継ぐにあたり、アパレル業界の常識とされる大量生産・大量廃棄はこれからずっと持続するのが難しいと考えました。次の75年を考えるにあたって自分で事業を始めています。

アパレル業界はファストファッションの台頭が進んでいますが、同時に環境の負荷は拡大しています。アパレルは世界で2番目の汚染産業ともいわれています。
また東南アジアを中心に低賃金でつくられてきましたが、過去5年で最低賃金は2倍になり、過重労働や児童労働が見られます。
一方で消費者は少しでもエコなものを探そうとしますが、価格は3割増しです。

ファストファッションの台頭と環境負荷

こうした負のスパイラルから抜け出すにあたり、原料のある農園から製品化、販売まで意志ある選択をするFARM TO FASHON を掲げ、循環型のサステナブルブランドをつくることを目指してきました。

ファームトゥファッション

環境にやさしい素材「カポック」の商品化

消費者にも生産者にも地球環境にもよい解決策はないだろうか。探していく中で出会ったのがのがカポックという木の実でした。

カポックの写真

カポックはコットンの8分の1の軽さで、吸湿発熱機能に優れてダウンの暖かさを持ち、実を採取すればよいので伐採不要で環境にやさしいという素材です。

カポックの特徴3つ

毎年育つ植物なので動物や環境に影響を与えることがなく、なによりコストも安い。「社会にいいことをしよう」とすると、価格が高いとか何か我慢を求められることがありますが、それがありません。

ただし、そんなカポックにも弱点がありました。軽くて繊維が短すぎるために糸加工ができないという課題です。これを家業と旭化成の共同開発でシートに加工することを実現しました。

シート加工したカポックを各メーカーに持ち込んで商品化をお願いしたのですが、どのメーカーも「実績はありますか?」と問われて、なかなか先に進みません。そこで自分で立ち上げたのが、KAPOK KNOTというブランドです。


クラウドファンディングによる受注生産という販売方法を用い、3年で5000万円の実績となりました。

カポック_売上実績

まだ小売力は大きくないですが、様々なプレゼンコンテントなどに出場して露出を増やしています。パブリックマインドの公山さんとも、環境省のプレゼンコンテストでお会いしました。

受賞歴

カポックシートをBtoB販売するKAPOK JAPAN

カポックはインドネシアなど東南アジアで育ち、手作業で木の実から取り出して作られています。需要が増えれば十分に応える供給ができます。KAPOK KNOTの売上が伸びても1ブランドのボリュームではインドネシアの現地は喜びません。1社ではなく、もっとたくさんの需要が生まれるように、研究開発とB to Bのビジネスを行うカポックジャパンという会社を立ち上げました。

カポックジャパン

インドネシアと直接やり取りして、環境を把握するサプライチェーンを構築したり、カーボンフットプリントを算出したり活動の幅を広げています。

カポックジャパン_カーボンフットプリント

カポックジャパンのメンバーはパブリックマインドさんと同じようにリモートや副業のメンバー中心で進めています。

目指していること

こうした活動を通じて目指すのは「今、ファッションを楽しむこと」と「未来について考えること」は両立できる という世界観を作り出すことです。
どちらかではなく、この二つを結び「両立できるよ」という選択肢を作っています。

カポックノット目指す姿


(公山)ありがとうございます。以前パブリックマインドで取材させていただいた記事も参考にしてください。

続きはレポート第2弾で

ここまで石徹白洋品店とKAPOK KNOTについての紹介でした。
次のレポート②では、テーマトークが始まります。
 SDGsやサステナブルという言葉についてどう思うか?
 今もとめられているコミュニティのつながりとは?

興味深く、示唆に富むお話満載です。お楽しみに。

<おしらせ>

石徹白洋品店 
展示会  山笑う、「たつけ」でゆく(東京・銀座)
日時 3月12日(土)13日(日)10:30-18:00(※終了しました)
会場  The Crafted GINZA 東京都中央区銀座1丁目6-2 1階 https://thecrafted.jp/

KAPOK KNOT 
サステナブルブランドが集まるPOPUPイベント「KAPOK marche」
日時   3月3日(木)~3月27日(日)
営業時間 12:30~17:30
開催場所 日本橋ショールーム「Farm to Fashion Base」
〒103-0022 東京都中央区日本橋室町1丁目10-1 宮永ビル 1F
※三越前駅A1出口から徒歩2分
https://kapok-knot.com/pages/kapokmarche

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