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「そこに困っている人がいるから」 ひとり親家庭を支え続けるNPO法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ赤石千衣子さんインタビュー(後編)

様々な社会課題の解決に向けて取り組む方々をご紹介していくPublic MindのStories。
前編に引き続き、しんぐるまざあず・ふぉーらむ代表の赤石千衣子さんをご紹介します。

前編はこちら

後編では、ひとり親家庭を支える活動を始めたきっかけ、こころのケアや就労支援など幅広い活動内容などについてお聞きしました。
(このインタビューは2020年9月に行いました)

赤石千衣子さんのご紹介

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認定特定非営利活動法人しんぐるまざあず・ふぉーらむ理事長。
https://www.single-mama.com/
当事者としてシングルマザーと子どもたちが生き生き暮らせる社会をめざして活動をされ、2013年から始まった厚生労働省社会保障審議会児童部会「ひとり親家庭の支援の在り方に関する専門委員会」への参画や東京都ひとり親家庭の自立支援計画の策定委員など有識者として幅広い情報発信と政策提言をされています。
著書に『ひとり親家庭』(岩波新書、2014年)、共著に『災害支援に女性の視点を』、編著に『母子家庭にカンパイ!』(現代書館)、『シングルマザー365日サポートブック』他。

3. 困っている人がそこにいるから続けてきた

―――赤石さんご自身についてお話をお聞きかせください。しんぐるまざあず・ふぉーらむの前身となる団体がスタートしたのは1980年とのことですが、活動を始めたきっかけを教えていただけますか。

そのころ、シングルマザーの世帯に支給される児童扶養手当が削減されるという政府の方針が出ました。当時は「子どもの貧困」という文脈はなく「離婚の親には手当を支給しない」という趣旨で未婚の母を児童扶養手当の対象外にする改正案でした。今では考えられませんが、こうした差別的な法案が審議されていたのです。
この状況に対して当時のシングルマザーたちが集まり「児童扶養手当の切り捨てを許さない連絡会」というグループができました。年上の女性たちが活動している中に、私は後から参加させてもらいました。

1985年には一部を修正して法改正が行われました。先輩方は法改正が終わった後に活動を終えてやめられましたが、私はどちらかというとやめるのを出遅れた感じです。

―――今も活動を続けていらっしゃいますが、何十年も継続される過程にはご苦労があったと思います。何が赤石さんを突き動かしていたのですか。

次々課題が出てくるのでやめられなかったです。
基本的に2002年、2003年ごろまではシングルマザーに対する手当をはじめとする支援は「削減」の流れでした。シングルマザーを取り巻く環境には常に「課題」がありました。

―――「(なぜ、あなたは登るのですか?)そこに山があるから」のように、「そこに課題があるから」ということでしょうか。

そうですね。課題があって、困っている人も多かった。そんな人たちを放っておけず、やめることがなかなかできませんでした。

―――時代によって環境や制度は変わってくると思いますが、今実現したい社会像はどのようなものでしょうか。

しんぐるまざあず・ふぉーらむとしては「シングルマザーと子供たちが生き生きと暮らせる社会を作る」ことを目指しています。家族の形態にかかわらず、差別されずに皆が元気に暮らせることが大事だと思います。

4.しんぐるまざあず・ふぉーらむが行っている事業

――― 世田谷区報にも掲載されていた就労支援、キャリア支援などの他に、政策提言されている様子をニュースで何度も拝見しています。本当に多岐にわたる活動をされていますが、特に注力しているのはどの事業でしょうか。

4月からはコロナで雇用に影響があって収入が減ってしまった人たちの緊急食料支援に注力していました。「助けて」という人たちが本当に多く、メディアに紹介されるたびにメールの相談が殺到しました。会員が1日100人くらい増えるという時期もありました。食料支援は生き抜くためにやらざるを得ない活動です。

―――食料支援の他に注力している活動はありますか。

短期的な食料支援だけでなく、中長期的にアフターコロナに備えた「仕事をする力」をつける必要があると思います。通常行っている就労支援のプログラムはコロナで延期していましたが、再開しました。特に今の時代に求められるITのスキルアップを支援したいです。
今までITについて何もやっていない人に、どの程度のトレーニングで「できる」ようになってもらえるか。手探りですが注力したいと思っています。

5.こころに寄り添うこと、エンパワーメント

―――ウェブサイトのシングルマザー向けのメッセージを拝見すると、まずは「落ち着きましたか」とか、心に寄り添ったうえで、そのあとに「就労へ」と記されていました。シングルマザーに心から寄り添う姿勢を感じます。

やはり焦ってしまう人はいます。「自分が今できること」をやろうと、少しの無理ならよいのですが、無理をしすぎて結果として挫折したときに自分を責めてしまう。そうならないように相手にかける言葉・メッセージのタイミングは大事だと思っています。

―――就労支援プログラムの前に心のサポートも大事ということですね。

はい、ご自身の力に気付いてもらうエンパワーメントセミナーをやっています。セミナー後には皆さんとても元気になられて効果を実感していたので、今年はもっともっと増やそうと思っていました。
対面でないと参加された皆さんの心の変化、効果がなかなか出にくいのですが、コロナの影響でなかなか集まれない。そこでフェイスシールドを付けてもらってコロナ対策を万全にして再開しました。

―――エンパワーメントセミナーではどんなことをしているのですか。

シングルマザーの方々に集まってもらうことで「仲間がいる安心感」を感じてもらいます。一方で自分とは違う見方・意見を聞くことで「多様性」も感じてもらいます。他の人に言ってもらうことで認知が変わっていく、その時間を持てます。
シングルマザーは孤立しがちで自分を責める要素を取り込みやすくなってしまいます。周囲で起こる様々なことを「自分を責める材料」に使っている人は多いです。そうではなく、偏ることなく自分を評価できるように認知を変えていくことは大事だと考えています。

6.オンラインでも心がつながる瞬間

―――安心して自分のことを話せて、客観的に他の人に言ってもらえる場というのは大事ですね。

ポジティブな言葉がいっぱい脳に入っていくことで、その人の考え方は変わっていくと思います。

しんぐるまざあず・ふぉーらむでは、メールマガジンを月3回発行していますが、まず目に入るリード文に思いを込めたり、言葉に配慮しながらお送りしています。
コロナで仕事を失い仕事探しをしている方々もいます。それは「コロナのせい」なのに、「自分の努力不足」など自分を責めることをしてしまう人がいます。「今苦しんでいるのはコロナのせいであってあなたが悪いわけではない」というメッセージを数回書きました。

そういう言葉は読者に伝わっているようで、後になって「メールマガジンにあった言葉を読んで泣きました」というメッセージをいただきました。オンラインでもコミュニケーションができる、心がつながることも実感しています。

――――エンパワーメントセミナーのように対面が良いとは思いますが、メールのメッセージでも心がつながる実感がもてたこと、とても素敵だと思います。提言されている内容は手当などの公的支援かもしれませんが、根底には「心の持ち方」のサポートが必要だと感じます。

7.テクノロジーを最大活用して効率運営  

―――しんぐるまざあず・ふぉーらむは何人で運営をしているのですか。

スタッフは常勤5人ですが、相談員や非常勤のファシリテーターなど合わせて15~16人で運営しています。

―――特に4,5月は多忙を極めたと思います。その人数だとパンクするような状況になりませんでしたか。

メール相談もすべてクラウドのアプリで見ていますが、パソコンを開けるたびにダーッと相談メールが並ぶ状況でした。一つ一つ丁寧に返信することに追われながら、必要な人に食料支援を行う状況でした。
少人数でも運営できるよう、テクノロジーは積極的に使っています。メールマガジンは書いたら自動的にアプリ経由で大量に送信できるようになっています。食料支援でも企業のQRコードを付けて送っています。

―――QRコードは何に使うのですか?

スマホで読み取ると「感想を送れるフォーム」になっていて、「受け取った時の喜んでいるお子さんの写真とかも送ってください。顔は公開しないのでFacebookやホームページに載せさせてください」とお願いしています。すると皆さん、たくさん送ってくださるんです。
意外かもしれませんが、テクノロジーをうまく使っています。

―――そういうテクノロジーの長けている人がいるのですか。

Facebookに書くと、フローレンスの駒崎さんとかテクノロジーに詳しいNPO関係の人たちが教えてくれるんです。テクノロジーによる効率化には本当に力を入れています。いま手作業のFAXでやっていたら大変だったと思います。

―――非常に効率的に業務をされていますね。

8.助けを求めに行くチカラ

―――テクノロジーのお話もそうですが、「助けを求めに行く」のも能力だと思います。困ったときに相談できる人が周りにいない、誰に助けを求めたらいいんだろうと悩むことは多いかもしれません。みんなの「助けを求めに行くチカラ」が強くなり、周囲の「差し伸べるチカラ」も強くなって、つながっていけると本当に強い社会になると思います。

社会福祉士の資格を取った時に「弱いつながりの強さ」を学びました。
グラノベッターという人の理論ですがすごく親しい人たちの、その次の知り合いの情報が、実は新しくて有効な情報なのだそうです。そこを閉ざさないことが、いろんな人にとって大事。
親しい人との間では同じ情報が流れてしまうけど、もう少し輪を広げたところから伝わってくる情報が人生の選択に有効な情報なんです。これは面白い考え方だと思いました。
シングルマザーも、周りの人から届く情報を閉ざさないようにしてもらえたらいいなと思います。

(インタビュー後記)

赤石さんのお話は非常に示唆に富んでいます。これまで削減の流れだったひとり親に対する公的支援が充実してきた背景には、赤石さんをはじめとした方々の活動があったという歴史を知ることができました。
赤石さん、長時間にわたるインタビューにお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

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しんぐるまざあず・ふぉーらむの活動は、皆さんの寄付によって成り立っています。認定NPO法人(認定特定非営利活動法人)として認定を受けており、当法人へのご寄付は、寄付金控除の対象となります。
https://www.single-mama.com/donation/

インタビュー:パブリックマインド(岩崎明彦、小出雄太、公山倫子、佐藤大介、高原月子)
構成:小出雄太、高原月子

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