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誰もが持つ地域に根差したストーリー ~オンラインイベント「サステナブルなものづくりを目指して」レポート③~

3月2日のオンラインイベント「サステナブルなものづくりを目指して」のレポート第3弾です。
トークは「サステナブルなものづくりと大量生産」から「消費者のマインドと生産者のマインド」、そして私たち誰もが持っているかもしれない「地域に根差したストーリー」まで広がっていきます。

サステナブルなものづくりと大量生産

(公山)ブランドを多くの人たちに触れてもらうために一定のスケールが必要だと思います。サステナビリティとスケール・大量生産でどのようにバランスを取られていますか。

(平野)「たつけ」は象徴だと考えています。布を大切にするという日本のアイデンティティ、和裁。これを広めないと伝えきれないです。石徹白だけで糸を紡いで染めてだけでは広まらない。広めるためにどこまで許容できるのかは常に考えなければなりません。どんな生地なら納得できるか、どの規模ならスケールできるのか、真剣に考えているところです。小規模で自己満足的に自給して完結するのではなくスケールも求めたいですが、今まさに考え続けている課題です。

(公山)どこにこだわるかによってスケールの仕方が変わると思います。生地や素材にこだわりますか? あるいは「たつけ」というカタチにこだわりますか。

(平野)「たつけ」というカタチは広めたいです。「たつけ」を広めることが私の使命だと思っています。

(公山)深井さんはどうですか。

(深井)私はビジネスの力を信じています。もちろん私自身が企業経営よりも長い間経験しているNPOの力も信じています。しかし、世の中を変えるのにビジネスの力は大きいです。スケーラビリティの点で言うと、売れれば売れるほど社会が良くなることを目指しています。「売れれば社会がよくなる」と言い切れるのは、カポックがオルタナティブ・代替品だからです。カポックなら従来のダウンでは成し遂げられなかった選択ができます。
例えばアウターが必要な人たちにとって、「より環境負荷の低い選択肢」としてカポックを選べます。つまり、スケーラビリティとサステナビリティの両立はできます。そしてカポックの農園をもっともっと広げたいです。

社会性のある事業として「着なくなったコートを買い取り、ライナーをつけて売る」ことも始めています。これは新品の生地を使わずに「思い入れのあるコートにライナーをつけて暖かくする」今までにない事業です。新品を売る以外の事業もあります。

(公山)本業のベンチャーキャピタルで投資する会社にフードロスをテーマとした会社があります。関連でリサーチしてみると「規格外のモノでも代替品として買いたい」という消費者がたくさんいるんです。買うのなら自分たちのしっくりくるものを選ぶ人たちはどの世代でも増えていて、追い風が吹いています。深井さんの言うように、ダウンの代替としてカポックを選ぶ人たちは確実に多いと思います。
選択肢が増えていくこと。よりよい選択肢を選ぶこと。消費者のマインドセットを変えていく更新していくことが求められているように思います。すでに気づき始めている人はいるのですから。

(平野)カポックも知らないから選べないわけで、知ったらきっと選ぶはずですよね。「たつけ」も同じです。より良いものへ切り替えることは社会的な意義があると思います。

消費者のマインドと生産者のマインド

(公山)消費者のマインドをアップデートしていくのに、どんなアプローチが良いと思いますか?

(平野)消費者のマインドも重要ですが、生産者のマインドも重要です。石徹白洋品店には、違うアパレルブランドで働いていたデザイナーがいます。彼女もつくるたびに生地を捨てることに心を痛めていました。服が好きでつくっているのに捨てなければならないことにジレンマを抱えていました。しかし石徹白洋品店ではそれがない。いまはつくる時のマインドが整っていると言います。そういうマインドの仕組みができて、つくるひとも、つかうひともハッピーで、環境にもやさしくなる。つくる人のマインドも大切だと思います。

(深井)つくる人のマインドは本当に大切ですね。
以前「繊維業界の未来を考える」というテーマで繊維業界の方々に講演する機会がありました。「どうビジネスを拡張すればよいか」という質問をいただき、「真っ当に伝え続ければ伸びるはずです」と答えました。返ってきたのは「真っ当に、とはどういうことか? こちらも真っ当に商売している」でした。お年を召された方だったのですが、とても難しいと感じました。
工業化が著しく進んだ時代に育った世代は、川上や川下が見えない状態でつくらされていて、「真っ当にやる」の「真っ当」が伝わらないのかもしれません。はやく「真っ当」がわかる若い世代に交代することが解決につながるのではと思っています。

(公山)時代が変わっていくのかもしれません。いま20代、30代はサステナブルに関心が高く、関わりたい、消費したいという意思表示をしています。これは日本だけでなく世界でも同じです。大きなうねりで世代交代が行われ、「真っ当」を理解できる世代に交代するのがよいのかもしれません。

(深井)それができたらいいなと思います。

誰もが持っている地域に根差したストーリー

(深井)最近読んだ本で「文明的価値から文化的価値へのシフト」と書かれていました。「より早く」ではなく「文化としてどういう価値があるのか」が評価されていく。文化的価値を残せるブランドになりたいと思いましたし、その一つがローカルに根差すことだと思います。ないものねだりですが、石徹白という地域に根差しているのは文化の塊ですし、心が躍ります。

(公山)山口周さんの「世界観をつくる 感性×知性の仕事術」ですね。石徹白洋品店はそういうストーリーがあるから世の中に広がっていくのではないでしょうか。

(平野)石徹白は一つの村ですが、日本全体で培われてきた文化があって、今の文脈に読み解いていくのが私たち世代の役割だと考えています。
澁澤栄一のひ孫にあたる澁澤寿一さんは日本の地域づくりの助言をされていて、石徹白洋品店も応援していただいています。世界各地を歩いた経験から振り返って「日本人は、明日死ぬ、明日食べられないことのないとても幸せな民族だ」と言われています。また「縄文時代からつながるものを持っていて、先祖から築いてきた持続可能性をどう生かしていくかを世界が注目している」とも言われています。私たちの先祖が培ってきた文化があって、これを引き継いできた私たちが、どうカタチを変えてつないでいくのか。
私は石徹白ですが、皆さんが住むそれぞれの地域で良さがあります。恵まれている日本人としてどう生きていけばよいかを考えています。私は石徹白で教えていただいた「たつけ」に出会って気づきましたが、皆さんにもそれぞれ何か役割があると思います。

(公山)平野さんのような人が色んな所で話をして、この大切さを伝えていってほしいですね。

サステナブルなものづくりとブランディング

(公山)石徹白洋品店のブランディングにも関心を持っています。

(平野)映像・写真を撮ってくれている人たちは、たまたま別の取材で石徹白に来たときにお会いしました。いまではホームページの製作などもしていただいています。「たつけ」を愛用されています。

(公山)石徹白洋品店は応援団が素晴らしいです。誰もが石徹白に引き寄せられている印象です。

(深井)石徹白洋品店は写真や映像のクオリティが圧倒的です。地方でブランディングに関わってくれる人は多くありません。最近では地方に移住する人も増えていますが、このクオリティはなかなかないですよ。

(公山)KAPOK KNOTのブランディングはどこに気を付けていますか。

(深井)私たちは機能・デザイン・サステナブルの3つの軸を持っています。「サステナブルだから同情して買ってほしい」ではなく、機能・デザインで選んでいただき、実はサステナブルだったという商品づくりをしています。

KAPOK KNOTの将来 他の素材も?

(公山)質問をいただいています。「カポックのインドネシアでの消費が落ちているとのはなしがありましたが、その理由は?」

(深井)カポックの大きな需要はベッドマットレスです。ベッドがマットからばねに代わりつつあり、需要が減ってきています。需要が減るとカポックが売れないので木を伐採することになり、緑化と逆行する流れになっています。だからこそカポックの需要を増やしたいです。

(公山)カポック以外の素材を取り扱うことは考えていますか。

(深井)カポック以外にも気づいていない良い素材があると思います。例えば竹も有望な素材です。KAPOK KNOTだけでなく、他の「○○ KNOT」ブランドを展開していきたいです。

(公山)複数のブランドを運営するにはエネルギーが必要ですよね。

(深井)小売力をつけられたらと思っています。銀座のショールームthe Crafted GINZA では石徹白洋品店をはじめとしたブランドの商品を売らせてもらっています。それぞれのブランド自身が世界観を伝える以外に、私たちが違った良さを伝えられるかもしれません。ショールーム運営で「伝え手の役割」を担いたいと思っています。

(公山)オールバースと組んでカーボンフットプリントも算出されましたよね。https://kapok-knot.com/pages/cfp

(深井)はい。国内ブランドで初めて算出しました。算出して数値を出してみると、オールバーズさんは「来年はこの数値以下の商品をつくらなければならない」となるそうです。なんだか自分で自分の首を絞めてしまったかもと思い始めています。

サステナブルと制度設計

(公山)視聴者からの質問です。「サステナブルを実現するのに政府自治体の制度設計でよくなることはあるでしょうか?」

(平野)どんな制度設計なのかはわかりませんが後押しは大事だと思います。先日、郡上市長と会う機会がありましたが「制服をたつけにしてください」と半分冗談でお伝えしました。でも地域で愛されるものを地域で循環していくことはとても大事な話です。小規模な自治体は小回りが利くので、そういうところから始めるのは一つのやり方だと思っています。

(深井)炭素税は効果があると思います。「炭素の排出量に税金を課す」というメッセージが発信されれば、企業が「なんとなくいいこと」でやっていたことも「税金に関わるから本気でやらないと」とゲームが変わるはずです。

(平野)水力発電も固定価格買い取り制度(FIT)があったから普及した部分もあります。一方で太陽光発電が全国に増えることとなり、制度設計を間違えると問題な部分もあるように思います。

おわりに

90分間が「あっ!」という間に感じるほど、刺激的で示唆に満ちたトークイベントでした。パブリックマインドは、今回のオンラインイベントのような機会を増やしていきます。
石徹白洋品店さん、KAPOK KNOTさんはもちろん、ソーシャルグッドな方々を伴走しながら応援させていただきます。ご一読ありがとうございました。

<おしらせ>

石徹白洋品店 
展示会  山笑う、「たつけ」でゆく(東京・銀座)
日時 3月12日(土)13日(日)(終了しました)
会場  The Crafted GINZA 東京都中央区銀座1丁目6-2 1階
https://thecrafted.jp/

KAPOK KNOT
サステナブルブランドが集まるPOPUPイベント「KAPOK marche」
日時   3月3日(木)~3月27日(日)(終了しました)
https://kapok-knot.com/pages/kapokmarche

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